新 解説世界憲法集 第5版
- 大学生
- 専門
- 一般
- 著者名
- 初宿 正典 辻村 みよ子 編
- 判型
- A5
- ページ数
- 432頁
- ISBN
- 978-4-385-31311-5
解説つき世界憲法集の最新決定版。世界の憲法の歴史と今日的動向を明らかにする。激動のイギリス情勢を解説に反映したほか,改正ロシア憲法を新収録(旧規定も掲載)。判型・組体裁を大幅変更。スイス・ロシア・韓国の翻訳を刷新したほか,ドイツ・フランスの解説に新執筆者を加え,ますます充実を図った。
目次
はしがき
凡例
序章世界の憲法を読む ………………………………………… 初宿正典・辻村みよ子 1
1 世界の憲法の読み方/1
2 世界の憲法動向/5
イギリス …………………………………………………………………………… 江島晶子 15
解説/15
マグナ・カルタ〔抄〕/29
1679年人身保護法〔抄〕/29
権利章典〔抄〕/30
1911年議会法〔抄〕/31
1972年ヨーロッパ共同体法〔抄〕/33
1981年上級裁判所法〔抄〕/33
1983年国民代表法〔抄〕/35
1985年国民代表法〔抄〕/35
1998年人権法〔抄〕/36
2000年政党・選挙・レファレンダム法〔抄〕/41
2005年憲法改革法〔抄〕/42
2006年平等法〔抄〕/47
2010年平等法〔抄〕/49
2010年憲法改革・統治法〔抄〕/49
2011年ヨーロッパ連合法〔抄〕/50
2011年議会任期固定法〔抄〕/50
2012年自由保護法〔抄〕/51
2013年婚姻(同性カップル)法〔抄〕/52
2015年ヨーロッパ連合国民投票法〔抄〕/52
2017年ヨーロッパ連合(脱退通告)法〔抄〕/52
2018年ヨーロッパ連合(脱退)法〔抄〕/52
2019年ヨーロッパ連合(脱退)法〔抄〕/54
2019年第2 ヨーロッパ連合(脱退)法〔抄〕/54
2019年早期議会総選挙法〔抄〕/55
2020年ヨーロッパ連合(脱退協定)法〔抄〕/55
アメリカ合衆国 …………………………………………………………………… 野坂泰司 57
解説/57
アメリカ合衆国憲法/70
前文/70
第1 条 連邦議会/70
第2 条 大統領/73
第3 条 連邦司法部/75
第4 条 連邦制/75
第5 条 憲法修正/76
第6 条 最高法規/76
第7 条 発効/76
修正条項/77
1776年7月4日、連合会議における13のアメリカ連合諸邦の全員一致の宣言(独立宣言)/82
ヴァジニア権利章典/85
カナダ ……………………………………………………………………………… 松井茂記 89
解説/89
1867年憲法法律〔抄〕/98
第1 編 序章/98
第2 編 連邦/98
第3 編 執行権/98
第4 編 立法権/99
第5 編 州の構成/102
第6 編 立法権限の配分/102
第7 編 裁判所/105
第8 編 歳入、債務、資産及び租税/106
第9 編 付随的規定/106
第11編 他の植民地の編入/106
1982年カナダ法/107
1982年憲法法律(1982年カナダ法別表B)/107
第1 編 カナダの権利及び自由の憲章/107
第2 編 カナダの先住民の権利/111
第3 編 地域的な不均衡の平等化/112
第4 編 憲法会議/112
第4 ・1 編 憲法会議/112
第5 編 カナダ憲法の改正手続/112
第6 編 1867年憲法法律の修正/113
第7 編 一般規定/113
イタリア共和国 ………………………………………………………………… 田近肇 115
解説/115
イタリア共和国憲法/124
基本的諸原理/124
第1 部 市民の権利および義務/125
第1 章 市民的関係/125
第2 章 倫理的・社会的関係/127
第3 章 経済的関係/127
第4 章 政治的関係/129
第2 部 共和国の組織/130
第1 章 国会/130
第2 章 大統領/133
第3 章 政府/134
第4 章 司法/135
第5 章 州、県、市町村/137
第6 章 憲法保障/141
経過規定および最終規定/142
ドイツ連邦共和国 ……………………… 初宿正典(解説・条文)・毛利透(解説) 145
解説/145
ドイツ連邦共和国基本法/157
前文/157
Ⅰ 基本権/157
Ⅱ 連邦およびラント/162
Ⅲ 連邦議会/167
Ⅳ 連邦参議会/169
Ⅳa 合同委員会/169
Ⅴ 連邦大統領/170
Ⅵ 連邦政府/171
Ⅶ 連邦の立法/172
Ⅷ 連邦法律の執行および連邦行政/177
Ⅷa 共同任務、行政協力/181
Ⅸ 裁判/183
Ⅹ 財政制度/186
Ⅹa 防衛緊急事態/193
Ⅺ 経過規定および終末規定/196
*基本法の構成部分とされているヴァイマル憲法の条文/201
フランス共和国 ……………………… 辻村みよ子(解説・条文)・山元一(解説) 209
解説/209
フランス第5 共和国憲法/224
前文/224
第1 章 主権/224
第2 章 共和国大統領/225
第3 章 政府/227
第4 章 国会/228
第5 章 国会と政府との関係/229
第6 章 条約および国際協定/234
第7 章 憲法院/235
第8 章 司法権/236
第9 章 高等法院/237
第10章 政府構成員〔閣僚〕の刑事責任/238
第11章 経済社会環境評議会/238
第11章の2 権利擁護官/239
第12章 地方公共団体/239
第13章 ニュー=カレドニアに関する経過規定/242
第14章 フランス語圏および提携協定/242
第15章 欧州連合/243
第16章 改正/244
第17章 経過規定/244
環境憲章/245
フランス第4 共和国憲法前文/246
人および市民の権利宣言/247
スイス連邦 ……………………………………………………………………… 奥田喜道 251
解説/251
スイス連邦憲法〔抄〕/261
前文/261
第1 編 総則/261
第2 編 基本権、市民権および社会目標/261
第1 章 基本権/261
第2 章 市民権および政治的権利/264
第3 章 社会目標/264
第3 編 連邦、カントン、自治体/265
第1 章 連邦とカントンの関係/265
第2 章 管轄権/266
第3 章 財政秩序/270
第4 編 国民およびカントン/270
第1 章 総則/270
第2 章 国民イニシアティブとレファレンダム/271
第5 編 連邦官庁/272
第1 章 総則/272
第2 章 連邦議会/273
第3 章 連邦参事会および連邦行政部/275
第4 章 連邦裁判所その他の司法官庁/277
第6 編 連邦憲法の改正および経過規定/277
第1 章 改正/277
第2 章 経過規定/278
1998年12月18日の連邦決議の終末規定/278
ロシア連邦 ……………………………………………………………………… 溝口修平 281
解説/281
ロシア連邦憲法〔2020年改正後の条文〕/294
前文/294
第1 編/294
第1 章 憲法体制の原則/294
第2 章 人および市民の権利ならびに自由/296
第3 章 連邦制度/300
第4 章 ロシア連邦大統領/305
第5 章 連邦議会/309
第6 章 ロシア連邦政府/313
第7 章 司法権および検察機関/316
第8 章 地方自治/318
第9 章 憲法の修正および改正/319
第2 編 最終規定および経過規定/319
ロシア連邦憲法〔2020年改正前の条文〕/322
中華人民共和国 ………………………………………………………………… 鈴木賢 343
解説/343
中華人民共和国憲法/355
前文/355
第1 章 総綱/356
第2 章 市民の基本的権利および義務/360
第3 章 国家機構/362
第4 章 国旗、国家、国章、首都/372
大韓民国 ………………………………………………………………………… 水島玲央 375
解説/375
大韓民国憲法/385
前文/385
第1 章 総網/385
第2 章 国民の権利及び義務/386
第3 章 国会/389
第4 章 政府/393
第5 章 法院/397
第6 章 憲法裁判所/398
第7 章 選挙管理/399
第8 章 地方自治/399
第9 章 経済/400
第10章 憲法改正/401
日本国憲法 …………………………………………………………………………………… 405
第1 章 天皇/405
第2 章 戦争の放棄/406
第3 章 国民の権利及び義務/406
第4 章 国会/408
第5 章 内閣/410
第6 章 司法/411
第7 章 財政/412
第8 章 地方自治/412
第9 章 改正/412
第10章 最高法規/412
第11章 補則/413
第5版はしがき
本書『新解説 世界憲法集』は、初版(2006年)から14年、旧版(樋口陽一・吉田善明編『解説 世界憲法集』1988年)刊行から32年を経て、この度、本書(初宿・辻村編)第5 版を引き続き刊行することとなった。第4版(2017年)からわずか2 ~ 3 年で改訂することになった背景には、日本国内の憲法改正論の進展による関心の高まりもさることながら、それに加えて世界の憲法変動があったことは間違いないであろう。
本書は、旧版以来、内外の改憲動向や憲法変動の中にあっても一貫して、「本当のことを知ったうえでの地についた議論が必要」(旧版第4 版はしがき)という認識のもとで、世界主要10か国の憲法状況と最新の条文を掲載してきた。このような本書が、長期にわたり多くの読者の支持を得てきたことは、編者として嬉しい限りである。同時に、世界の近年の憲法動向には、一抹の不安や憂いを禁ずることができない。
それは、本書の解説で示されるように、昨今の世界の政治状況には、立憲主義の観点から見て、非常に危うい局面が顕れているからである。第4 版はしがきでも、テロや外国人排斥、ポピュリズムなどによって不確実な時代に入ったことを指摘したが、第5版では、諸国の憲法状況の中でそれが一段と進んだことが窺える。
例えば、多くの国で憲法改正や権力者への権力集中が進み、独裁的な統治と大国主義の競争の陰で安全保障や人権保障が危機に晒されている現実がある。さらに2019年12月に中国武漢から始まった新型コロナウイルスの世界的感染拡大が、憲法政治体制にも大きな影響を与えている。
中国では、2018年の憲法改正によって、国家主席の就任2 期制限が撤廃され、習近平国家主席の終身制が可能になった。また2020年5月には「国家安全法制」が導入されて香港やアメリカの反発を招くことになった。ロシアでも、2008年の憲法改正で大統領任期が延長されプーチン大統領が(首相在任期間を含め)24年間も実権を握ることが可能になった後、2014年の憲法改正で大統領権限のなかに一定の議員の任命権まで加えた。その後2020年憲法改正案で任期を2 期に制限しつつ現職を例外としたため、プーチン大統領の任期が2036年まで延長可能となる状況になっている(国民投票が延期されたことから、本書では、2020年憲法改正案と2020年6 月1 日段階の現行憲法規定を併記している)。
アメリカでも、2019年12月には下院でのトランプ大統領への弾劾決定が実行されるなかで、軍事攻撃を含む独裁的権力行使も続けられ、米中の対立も顕著になっている。他方、ヨーロッパでは、周知のとおりイギリスのEU 離脱問題が尾を引き、2020年1月末に離脱が実現した後も目が離せない状況にある。イタリアでも2016年憲法改正の挫折により二院制改革や選挙制度改革の課題が山積するなかで2018年に連立政権がようやく発足した。フランスでもマクロン大統領への国民の抗議行動が続くなど困難な政局運営が続いている。ドイツではメルケル首相が2021年の任期満了で首相を退くことを表明したが、新型コロナ感染症への対応などでその手腕がむしろ評価されているようで、今後の政局がどう展開していくのかも関心がもたれる。
他方、日本では、安倍政権が憲政史上最長の記録を達成する権力集中状況のなかで憲法改正論が提唱され、新型コロナ感染症対策を対象に含めた特別措置法を超えて、憲法規定に緊急事態法制を加える主張も行われている。
このような世界の困難な憲法状況の中で、人権や平和・地球環境を維持してゆくためには、今こそ、憲法や立憲主義の存在意義、そして憲法改正手続きをあえて難しくしている「硬性憲法」の意味を十分に理解し、各国の憲法の実情を知ったうえで熟議を行うことがいよいよ強く求められているといえよう。
本書が、これまでと同様に、日本と諸外国の憲法状況に対する理解を深め、立憲主義と人権保障・平和主義のために寄与できることを願っている。
2020年6月1日
共編者