残留農薬
データブック


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植村振作・河村 宏・辻万千子・冨田重行・前田静夫 編著

2,718円 B5 408頁 978-4-385-35452-X 品切

日本人が食べている食品の残留農薬のデータ2万件を内外の文献から収集し,食品別に整理。汚染状況を市民サイドから情報公開。海外の食品の残量農薬データも掲載。好評の既刊『農薬毒性の事典』の著者の第2弾(『農薬毒性の事典』は2002年に 『農薬毒性の事典 改訂版 』として発行)。

1992年10月10日 発行

 床下の毒物 シロアリ防除剤

 家庭にひそむ農薬



●はしがき

 多摩動物園の昆虫室の昆虫たちが食べる餌は無農薬であることをご存じでしょうか。

 私は特に昆虫が好きというわけではありませんが、多摩動物園の昆虫の飼い方に関心があって、何度か同動物園を訪ねたことがあります。昆虫飼育係長によると、ある時、餌が足りなくなって市販の野菜を与えたところ、それを食べた大切な虫たちが全滅したというのです。それ以降、特別に無農薬で栽培した野菜を与えることにしたと言っていました。

 昆虫が死んでしまうような野菜を食べても、人間がすぐに死ぬようなことはないでしょう。だから売られているわけですが、特別に無農薬で栽培した物でない限り、虫たちが死ぬ程度の農薬が残留していることは十分考えられます。ごく微量の農薬でも、花粉症などのようなアレルギー性疾患の素因になっていることを示す動物実験結果があります。私たちが毎日そのような農薬を摂取していることは確かです。

 しかし、心配でも残留農薬は目に見えるわけでもなく、市民が自分で調べることもできません。そこで、農薬問題に永年関わってきた私たち著者は、毎日食べている農産物の残留実態状況を把握すべく、数年前からデータの収集に取りかかりました。本書はその結果です。

 本書には、農薬と食べ物に関する従来の書物とは異なったいくつかの特徴があります。

 あらゆる国内流通農産物の農薬汚染実態についてのデータをまとめました。汚染状況を網羅しました。これが本書の最も大きな特徴です。作物別にデーダが整理されているので、台所で日常利用される農産物あるいはその加工品の農薬の残留傾向がつかめます(第2章)。例えば、パンや麺類などほとんどの小麦粉製品は、フェニトロチオン(MEP、商品名はスミチオン)やマラソンなどの有機リン系農薬によって汚染されていること、コマツナでは種々の農薬が使われていることなどがわかります。

 第二には、農薬ごとに検出値の高い作物を「ワースト5」として順に上位5品目をあげたことです(第1章)。例えば、土壌殺菌剤であるPCNBは、カブ、ジャガイモ、ニンジンなどの根菜類に、水稲、桑、芝などの除草剤として使用されるオキサジアゾンは、フナ、ナマズ、ウナギなどの淡水魚に残留していることなどがわかります。また、1976に禁止になった有機塩素系の殺虫剤エンドリンは、いまだにキュウリ、カボチャ、マクワウリなどで検出され、ウリ類に残留しやすいといえます。たとえ今は使用していなくても、特定の作物を大量栽培しているところでは、過去に使われた農薬の残留検査が必要なこともわかります。

 第三は、国内流通農産物だけではなく、海外の農産物についてのデータも収集したことです(第3章)。全体的には油脂類や母乳が有機塩素系の農薬によって高濃度に汚染されていること、穀類や柑橘類がポストハーベスト農薬によって汚染されていること、地域によって汚染状況が異なることなどがわかります。

 第四には、汚染の状況をもっと詳しく知りたい人のために、どんな農薬について調べられたか、「不検出(分析したが残留農薬が検出されなかったもの)」のデータを含め、調べられた農薬のすべてを記載し、それらのデータの出典(文献名)をあげたことです。

 消費者や生産者、流通関係者、研究者、行政関係者が、それぞれの立場から残留農薬問題解決のために上記の四つの特徴を生かされることを願って本書を編纂しました。

 日本の残留農薬規制は世界一厳しいと一般には言われ(それも最近の規制緩和で崩れつつありますが)、マスコミなどで取り上げられる特別の場合以外は、各地の自治体の検査結果のほとんどが「不検出」と発表され、食品衛生行政に関わる人ですら、現在使われている農薬が農産物に残留することはないと理解している傾向があります。

 しかし、各地で発表されたデータを本書のように克明に記載してみると、全体としては農薬に汚染されていると認識せざるを得ません。残留農薬の規制が緩和されれば更に汚染はひどくなる可能性があり、厳しく監視する必要があります。

 本来このようなデータは国が収集し、公表して、市民と共に議論して農薬行政、食品衛生行政に生かすべきものです。しかし、国は農薬の汚染実態調査を厚生省のもとで実施し、それを国立衛生試験所にデータベースとしてまとめているにもかかわらず、公表していません。

 かつて、私たちは本書に収録されている海外流通農産物の残留農薬汚染状況の調査結果を発表しました。その調査の方法について問い合わせてきた、国立衛生試験所のデータベースの担当者(研究者)に、国で収集している残留データを知らせてくれるように求めたところ、研究者として特定の項目についてデータを整理して部分的に知らせることはできるが(ジャガイモならジャガイモについてだけ)、データ全体を公表することはできないと拒まれました。公開する制度にはなっていないというのです。確かにデータは欲しいのですが、制度としてのデータ公開を要求している私たちとしては、その研究者の個人的な好意をそのまま受けることはできませんでした。国には残留農薬の情報が集積されているにもかかわらず、それが公開されていないために、本書編纂においても、大きな困難がありました。市民の健康に直接関係のある情報が公開されないのは納得できません。情報公開を強く望みます。

 本書編纂にあたっての第2の困難は、分析値のまとめ方もその精度も違う、膨大で異質な文献から、いかにして残留データを選び出し、整理するかということでした。データの集計、分類、抽出等の作業に先立って、個々の文献の記載内容を集積するパソコンのデータベースのフォーマットを何回も検討しながら作業を進めました。

 データベースへの入力は、農産物については河村、冨田、前田が、魚介類は河村が担当しました。データ全体のまとめ、整理、加工は、国内農産物および海外農産物については冨田が、国内魚介類については河村が行い、最後に5名全員で分担して、個々の農産物についてのコメント、解説を執筆しました。

 このようなデータ収集・整理の困難さを克服できた原動力は、国内産であれ輸入農産物であれ、正確な残留農薬実態を皆さんに知ってもらいたいという、著者の強い願望でした。コメントは著者からのメッセージです。

 本書は、著者らの既刊『農薬毒性の事典』、『こんなに使っていいかしら 家庭にひそむ農薬』(どちらも三省堂刊)に続く農薬三部作の一つです。

 本書でとりあげたそれぞれの農薬の商品名、土壌、河川、大気などの環境汚染、毒性については、上記の『農薬毒性の事典』を、衣類の防虫剤、ダニカーペット、蚊取線香、電気掃除機など家庭で使われる殺虫剤や、学校、公園等で使われる農薬類による生活環境汚染の問題点については『こんなに使っていいかしら 家庭にひそむ農薬』を参考にしていただき、本書が農薬三部作の一つとして、農産物の安全性のみならず、薬漬けの日常牛活を見直すことに役立つことを著者一同願ってやみません。

 なお、新残留基準案の問題点については、著者らの反農薬東京グループ発行の『農薬の新残留基準批判』に詳しく解説してありますので参照してください。

 最後に、本書編纂のもとになった文献をいただきました各自治体の研究機関並びに研究者の皆さんに、紙上を借りてお礼を申し上げます。

1992年8月25日  執筆者を代表して

植村振作



●目  次

はしがき
総合索引

序章 残留農薬データとは

残留農薬データ集のできるまで
残留農薬の検査方法
残留基準の問題点
農薬摂取量の計算方法
農薬残留基準
登録保留基準
国内文献リス卜

第1章 国内流通農産物●薬剤別残留農薬ワースト5

ワース卜5●凡例
薬剤別残留農薬ワースト5●農産物編
魚介類の汚染薬剤の特徴
薬剤別残留農薬ワース卜5●魚介類編

第2章 国内流通農産物●作物別残留農薬

国内残留データ●凡例
国内残留農薬データ●穀類
国内残留農薬データ●芋類
国内残留農薬データ●豆・ナッツ類
国内残留農薬データ●野菜
国内残留農薬データ●果物
国内残留農薬データ●肉類・卵
国内残留農薬データ●乳製品・油脂類
国内残留農薬データ●嗜好品・香辛料
国内残留農薬データ●飲料水
国内残留農薬データ●人体汚染
魚介類の残留農薬●解説と凡例
国内残留農薬データ●魚介類

第3章 海外流通農産物●作物別残留農薬

海外流通農産物の残留農薬●解説
海外残留データ●凡例
海外残留農薬データ●穀類・芋類・豆類
海外残留農薬データ●野菜
海外残留農薬データ●果物
海外残留農薬データ●肉類・卵
海外残留農薬データ●乳製品・油脂類
海外残留農薬データ●飼料
海外残留農薬データ●香辛料・調昧料
海外残留農薬データ●飲料水・酒・嗜好品
海外残留農薬データ●人体汚染
海外文献リス卜

付録 アメリカの残留農薬状況と農薬摂取量
 各国別残留農薬許容量
 諸外国の農薬規制と使用実態
 日本の新・残留基準案一覧

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