変革期の地方自治
―住民参加とまちづくり―

写真

安島喜一 著

1,500円 四六 256頁 978-4-385-32108-X 品切

地方分権論議がさかんな中で、少子化・高齢化社会をになう市町村の将来は…。「手づくり」技法の視点から住民参画の切り口を具体的に明示。「地方自治の現在(いま)」を説き明かした実践マニュアル。

1997年12月10日 発行

 安島喜一のホームページ<おたまじゃくし>



●はしがき

 市町村は生き物です。

 しなやかで豊かになるのも、オロオロして、停滞の瀬戸際へと追い込まれるのも、そこに住む人、通う人の創意と努力次第で、情熱と知恵くらべのところがあります。

 そのスタイルは、それこそ千差万別で、人口が一九七人の村から三二八万人の市まで、三二○○あまりの団体が、これからの自治の生命をはぐくもうと、工夫をこらして、一人でも多くの皆さんの参画を待ち望んでいます。

 受け持つ仕事は、世の中の動きと日常生活に直接つながって、分野は広がり、質が深まっています。子育てや介護の面では、市町村に家族の役割が求められています。

 ごみ処理、リサイクルを通して、大量生産、大量消費、大量廃棄と流通のマイナスのメカニズムに正面からぶつかります。

 まちづくりは、土地問題(所有権や価格)と公共性のせめぎ合いです。だれもがともに住み、働き、学ぶことをめざして、豊かな地域を築くことが課題です。こんなに尽くし甲斐のあるものはありません。

 ところが、ふところはいつも軽く、自前の収入が三割で、破産させてはいけないと、火の車のやりくりです。親がかりのスネかじりではありませんが、国からの地方交付税と補助金に頼りがちです。増え続ける借金と長い間につくられてきた、どうしようもない「地域格差」を克服し、どこに住んでも、国民として同じ水準のサービスの提供をと、懸命です。

 そこに、変革を告げるベルが鳴っています。「地方分権」です。

 本当に自立した市町村になれるのでしょうか? どうにかして実現したいものです。その思いに駆られて、この本にとりかかりました。

 ゼロ・サム、三すくみの状況が気がかりです。

 きちんと目標を描いて、時代が求めることに即応する、まことに当たり前のことがむずかしくなってきました。財政が厳しくなって、新しいことの実施や、サービスの水準をあげるには、どこかを引っ込め、どこかを縮小しなければ、全体が納まりません。そうかといって、枠の拡大の可能性も見出せなくなりました。レスター・サローが説いていた、ゼロ・サムの状況です。

 これまでの右肩上がりの経済を前提とした市町村計画は、軒並み見直しの時期を迎えています。

 この時、不思議な現象が生まれます。政策の三すくみです。

 目の前に生活者の切実な声があります。近い将来、遠い未来への備えも必要です。政治的な要求も高まります。それぞれに根拠があり、すべてを実現するのが理想ですが、現実には困難です。

 分捕り合戦が始まります。その間は、まだ動向が見えて、手の打ちようもありますが、やがて、厄介なことに、市町村長、議会、職員の間に、お互いを牽制する力関係が働いて、身動きのとれない三すくみ状況が生まれます。

 こうなると、薄撒きの平等主義に陥りがちです。きちっとした財源の裏づけをしないで、理想や考え方を強調する、現実から離れた政策や計画に逃げ込むおそれがあります。市町村長と議会の間が、「円滑だ」「無風だ」と喜ぶ裏に、もしや、この傾向が潜んではいないでしょうか?

 また、「市町村長」に権限、財政、組織が集中して、議員の真摯な活動にもかかわらず、「議会」の力が軽くなっているように思えます。地方公務員の官僚化の指摘もあります。

 この状態を本道に戻すパワーが必要です。将来を見通した、ダイナミックな市町村経営が待たれます。その推力は強力な住民自治に宿っているのだと思います。主人公の出番です。

 そのためにも、「報告・説明する責任」(アカウンタビリティ)を制度化したいものです。「政策」と「財政」と「計画」を総ぐるみにして、このように「執行」した、その「結果」はこうだ、と執行者が主人公(住民)に全体を報告し説明することを義務づける仕組みです。

 残念ながら、まだその手法は定着していません。この考え方、方法を情報公開の原則にすることはいうまでもなく、すべての面で実現することが望まれます。

 一九九七(平成九)年は、新しい地方自治制度発足(地方自治法の施行)五〇周年にあたります。戦後の荒廃から、脈々と地域を育て守ってきた自治は、その成果とともに、新しい世紀に向けて、さらに飛躍の命題を与えられています。

 そこに、「地方分権」という、とてつもなく大きな問題が現われてきました。明治、戦後に次いで、三度目の変革です。分権社会を形成して、地方の主体として、都道府県・市町村が自立する。身近な仕事は自らの責任と判断で処理し、豊かな地方が国際社会の一員となる。これは、長年の悲願であり、諸手をあげての大賛成です。

 それにしても、地方からの燃えあがりがないと嘆かれるのはどうしてでしょうか? これまでの二つの変革は、それぞれの時代の要請に応えてきましたが、今にして浮かび上がるのは、変革をかいくぐって生き続けた「中央集権型行政システム」の問題点です。地方の主体性が問われています。

 評価は別として、地方分権推進委員会はこの問題に取り組み、機関委任事務の原則廃止、補助金の整理統合、地方財政の充実など四次にわたる勧告を続け、問題の所在をえぐっています。地方から固唾をのんで見守られた、地方への税、財源移譲の具体策は明らかにされず、不満は残るにせよ、いよいよ政府のまとめの段階に入りました。

 分権の受け皿論、広域行政、市町村合併が話題になるなかで、一九九七年一〇月の第四次勧告では、市町村の規模に応じて、機関委任事務を委譲するとして、新しく「人口二〇万以上の市」の制度が提案されました。市町村の適正規模論とは無関係とされていますが、市町村の規模と行政能力の問題が焦点になりそうです。

 「自治は分かれ目で、本物を求めて正念場にきている」四十余年、住民の方々に支えられ、育てられながら現場に身を置いたものの実感です。

 「大事な情報がきちんと提供されているだろうか?」

 「本当に市町村が豊かになるのだろうか?」 

と、気がもめます。多くの先人のたゆまない努力とかけがえのない知恵によって創り上げてきたまちや村です。愛着は限りありませんが、もう、他人頼りは許されなくなりました。自らの意志で、つねに積極的な生まれ変わりが必要です。

 ますます充実して、輝きをもってほしい、仕事と財源と人がきちんとそろって、バランスがとれた市町村であってほしい。地方分権の名のもとに、小さいから、弱いからと、ガラガラポンして、広域化だけが進み、残ったのは相変わらず財源の伴わない地域格差に悩む市町村だったでは、許されない。その願い一筋で、次の二つの柱を立て、六章に区分して書きました。

 一 地方分権は地域の自立があって成立し、仕事と財源と組織・体制がそろったときに、初めて実現できる。さまざまな論議や動きを、自分の住む身近な地域・地区のあり方に置き直し、生活する視点から出発すると、本来の姿が見えてくる。

 二 ともかく自治をしよう! 「市町村長」の執行の分野と同時に、「議会」に参画することによって自治の原則を呼び戻し、さらに道が開ける。そこには「これからの市町村の方向を住民の立場に立って決める場」がある。

 「市民」と「参加」の言葉をめぐって議論が分かれます。この本では、その地域にたくましく生活する「住民」を主人公として、自らの意志で自治を生み出すことに力を置いて「参画」としました。刻々と事態は動き、その早さと容量に、身が追いつかず、勇み足や思い込み、重複をお許し下さい。たくさんのご批判とご提案をいただいて、確実なものにしたいと願っています。

 三省堂の五味敏雄社長、佐塚英樹取締役、鷲尾徹編集長との出会いによって、この本は生まれました。次々と資料が必要になり、途方に暮れるなか、かつての仲間に助けられ、東大和市立図書館があったからこそ、まとめることができました。それぞれの方々に、心からお礼申し上げます。

一九九七年秋

安 島 喜 一



●目  次

第1章 オムツ換えはだれの仕事 福祉と地方自治

 1 子どもが減って、長寿が進むと

   少子・高齢社会/人口が半分になる?

 2 介護は社会で

   主体は市町村/ゴールドプラン⇒新ゴールドプラン/エンゼルプラン/障害者プラン

 3 市町村が福祉の中心に

   居室が地域につながる地域保健福祉計画/コミュニティ=地域・地区/地域の再生/計画は夢か現実か−ゼロ・サムの関係/介護移転

 4 福祉の流れ−措置から選択へ

   選択福祉/構造改革

 5 子育て支援が弱くはないか

   子育て基本法を/先導は市町村から

第2章 夢の実現 環境、アメニティ、まちづくり

 1 ごみ焼却場がダイオキシン発生工場?

   ごみの化学変化/リサイクル/浪費の破滅から廃棄物ゼロヘの道

 2 もう一度、暮らしの視点で−アメニティー(快適性)のあるまちづくり

   アメニティ/循環型都市

 3 福祉のまちづくり

   安心して暮らせるまち−まちづくりの視点/だれかにやさしいまちはすべてにやさしい/だれが主体に

 4 まちづくりのルールとリーダーシツプ

   夢の実現/まちづくり条例−真鶴町

 5 政策をもとう

   住民の政策/さまざまな計画とその見直し/自立した市町村への方向づけ/地域を基本に−日常生活圏と計画の違い/基礎的なサービス水準−シビルミニマム/市町村を富ませる−内発的発展

第3章 住民が主人公 地方自治の仕組み

 1 自治はガラガラポンか

   混沌と多様性/大きな変化が/

 2 地方自治の仕組み

   市町村って何でしよう/市町村長と議会

 3 議会の役割−こんなに魅力と可能性が

   市町村の意思を公的に決定/市町村の憲法を決める=立法権/市町村の方向を導く/調査権−執行に公平性、透明性

 4 住民と議会

   長の不信任決議、解散、リコール/議会への参画/議会を考える

 5 権利と義務

   住民の権利/住民の義務/

 6 まちを知ろう

   多種多様な市町村/分権受け皿論

 7 地域を豊かにする

   多様な住民活動/住民活動と市町村

第4章 全部が見えるか 情報公開と行政手続

 1 ホットじゃないと……

   オープンになったとはいえ/住民参画と情報/三すくみ/自ら発信

 2 期待される情報公開

   情報公開制度とは/早く全市町村に/住民の関心が勝負

 3 行政の手続を透明に

   行政指導/市町村の行政手続条例/つらい両刃の剣/灰から小判が出た

 4 オンブズマン

   もとは護民官/公的オンブズマン/住民オンブズマン/さまざまなオンブズマン/さわやかな緊張関係を

第5章 自立度はどれくらい 自治と財政

 1 親がかりのドラ息子か−半人前の自立度

   自前はチョッピリ、バラツキのある収入/支出は全国的にほぼ同じ傾向−財政調整が前提/市町村は破産しないか/財政がもつ潜在能力/せっぱつまり度/借金の程度は/判断は総合的に

 2 なぜ自立できない

   不思議なからくり−国と地方の財政/地方交付税/国庫補助金/三頭馬車の総動員

 3 自立をめざして

   カンフル注射か漢方か/地方財源の拡充/自治体もコスト意識を

 4 住民と予算

   予算編成への住民参画/予算編成方針の策定・示達/査定・意見聴取・懸案整理/市町村長の意思決定、議会、各種団体との協議/事務的な編成過程/ねばり強い行動

第6章 三度目の正直おらがまちから 地方分権と市町村

 1 三度目の正直

   江戸から明治へ/明治の地方自治−市制・町村制/第一の町村合併/新しい憲法による地方自治の保障/今も生きているシャウプ・神戸勧告/第二の町村合併/三度目の正直

 2 地方分権

   なぜ地方分権/地方分権を市町村の味方に/

 3 除去できるか“中央集権型行政システムの制度疲労”

   制度疲労した中央集権型行政システム/実に不思議な機関委任事務/補助金一般論での「縮滅」は危険

 4 共同処理がさかんだが

   方法はいろいろあるが/一部事務組合/複合的一部事務組合/広域連合/広域行政圏/都市の最適規模論/知恵の働かせどころ/共同処理はあくまで手段

 5 おらがまちから

   厳しい自立の道/住民が自治を伸ばす/多様なニーズに応じた行政サービス/職員の専門性は住民のために/燃える議会に/おらがまちから

トップページへのアイコン




Copyright (C) 2014 by SANSEIDO Co., Ltd. Tokyo Japan