不況下の賃貸借契約
―最近のビル・不動産判例

写真

中田眞之助 著

2,600円 A5 256頁 978-4-385-32109-X 品切

バブル経済崩壊後の経済情勢の長期低落傾向は、建物の賃貸借契約にも大きな影響を及ぼし、かつてなかった新たな法律問題が生じている。本書は、賃貸借契約にかかわる現代的諸問題――賃料増額請求の効力、適正賃料の算定、賃料の差押え、敷金・保証金の返還など――最新の豊富な裁判事例をもとに解説。

1999年3月10日 発行



●著者紹介

弁護士
昭和13年 東京都生まれ
昭和35年 明治大学法学部卒業
昭和37年 弁護士登録(東京弁護士会)
昭和48〜58年 明治大学法学部兼任講師(民法)

著書 昭和49年 「貸ビル」(帝国地方行政学会)
    昭和61年 「ビル賃貸借の法律」(ぎょうせい)
    平成6年 「新版ビル賃貸借の法律」(ぎょうせい)



●はじめに

 周知のことであり、今更という感じがなくもないが、バブルとその崩壊の過程を株価と土地価格によって見ておきたい。

 株価は、昭和62年10月20日に大暴落があり、日経平均株価は、3,836円急落したが、その翌日から急落分の7割を回復し、以後、大好況といわれる状態に進んだ。昭和63年3月には暴落前の水準(25,746円)を回復し、同年12月には3万円台となり、平成元年8月には35,000円台を超え、同年の大納会には38,915円の高値をつけた。

 しかし、これをピークとして、翌平成2年には大幅に低落し、10月1日には、一時2万円台を割り込んだ(終値20,221円)。平成3年には、持ち直すとみられた時期もあったが、翌4年になると、更に大幅に値下がりをみた(8月18日14,309円)。

 株価は、その後、平成7年から8年にかけては好調な時期もあり、2万円台を維持していたこともあったが、平成9年からはおおむね低調に推移し、最近では、13,000円台を割り込むようなバブル崩壊後の安値更新が連続している。

 土地価格については、東京都区部の商業地の公示価格を見ると、昭和58年の価格を100とした場合の指数及びその対前年変動率は次のようである。

 昭和60年には122.9(+12.4%)であったが、同61年150.2(+22.3%)、同62年264.7(+76.2%)、同63年340.7(+28.7%)と数年で3倍以上の大幅な値上がりがあった。

 しかし、平成元年から3年までは横ばいであったものの、同4年からは低落に転じた。すなわち、平成4年316.0(―8.7%)、同5年244.9(―22.5%)、同6年186.9(―23.7%)、同7年149.5(―20.0%)、同8年119.1(―20.3%)、同9年101.5(―14.8%)、同10年93.9(―7.5%)であり、連年の値下がりを続け、既にバブル以前の価格さえ下回っている。

 これを特定の地点の価格でみると、変動の激しさは一層明瞭である。ある公示価格標準地(東京都中央区日本橋)の1平方メートル当りの価格は、昭和61年には1450万円であったが、同62年2100万円、同63年2400万円と高騰した。平成元年から3年までは昭和63年と同価格の2400万円を維持したが、翌年からは、平成4年2280万円、同5年1820万円、同6年1270万円、同7年960万円、同8年720万円、同9年615万円と低落し、高騰時の約4分の1の価格に落ち込んでいる。

 株価や土地価格の変動、殊に低落は、現在に至るまでの経済情勢の悪化の大きな原因でもあるが、数字的にこれを象徴してもいる。

 このような経済情勢のかってない長期にわたる低落傾向は、本書で採り上げる不動産、特にビルなどの建物の賃貸借にも大きな影響を及ぼした。

 賃料は、上昇することがあっても低下することはないと考えられていたが、需要の減少や土地価格の低落は、直接的に賃料の低下を招いたし、賃料の上昇を前提として締結されたサブリース契約などは、その維持に困難を生じた。

 賃貸借における従来の問題としては、賃貸人からの明渡請求が重要であったが、むしろ、賃貸人にとって賃借人を確保することの方が関心事となり、そのための契約条項等が新たな問題となってきたし、敷金や保証金の返還が不可能ないし困難となる事態も生じてきたため、賃貸借の終了、敷金や保証金の処理をめぐっても、不況下だからこその新たな紛争が生ずるに至った。

 さらには、土地価格の低下から金融機関の債権回収が困難となって、多少とも抵当権の実効性を確保しようとすることが、目的不動産の賃貸借にも影響を与えつつある。

 本書は、具体的な裁判例によって、このような新たに提起された不況下における賃貸借の諸問題を考えてみようとするものである。

 それぞれの裁判例によって示される法律問題が、もとより本書のテーマではあるが、その前提となる事実関係においても示唆に富む事件が多く、紛争回避のために他山の石とすべきものがあると思う。

 そのため、本書では、各事例について主要な数字や金額はなるべく省略することなく記述することにした。適用される法律論は同じであっても、金額の大小により自ら事件の様相が異なることがあるし、賃料のように金額が問題になる事案では、具体的金額を知ることによって初めてその内容が再検証できるからである。

 かつては見られなかった内容の紛争が多く、裁判にあたっては、担当裁判官の苦労があったと思われる事案も少なくない。本書では、多少批判的に述べた箇所がないではないが、対立する当事者の主張や問題の困難さを考えるとき、すべての担当裁判官に敬意を表したいと思う。

 本書の項目数は32項(裁判例としては36件)であるが、そのうち8項目は、財団法人日本ビルヂング経営センター発行の『いしずえ』に「裁判例にみる不況下の賃貸借」として連載したものである(一部修正加筆した)。

 本書の出版にあたっては、三省堂出版局法律書出版部の皆さんのご支援、ご尽力をいただいた。厚く御礼を申し上げたい。

 また、原稿をすべてワープロ化してくれた私の法律事務所の柳澤淳子さんにも謝意を表したい。

        平成10年10月

                          著 者



●目  次

第1章 賃料の増減……………………………………………… 3

【1―1】賃料の自動改定特約による減額の改定(サブリースの事例)(東京地判平成7年1月23日) 8
【1―2】賃料の自動増額の特約と減額請求(サブリースの事例)(東京地判平成7年1月24日) 13
【1―3】サブリース契約についての借地借家法の適用と賃料減額請求(東京地判平成8年10月28日) 17
【1―4】賃料の自動増額の特約と事情変更の原則(サブリースの事例)(東京地判平成8年6月13日) 22
【1―5】賃料の自動増額の特約と管理・修繕の不備を理由とする賃料減額請求(東京地判平成9年1月31日) 28
【1―6】賃料減額の調停に代わる決定と減額賃料の算定方法(サブリースの事例)(東京地判平成7年10月30日)36
【1―7】賃料の増減額請求と適正賃料の算定方法(京都地判平成8年5月9日) 42
【1―8】固定資産税等の増加による土地賃料の増額と借地上のビル賃料の増額請求(土地賃料を固定資産税等の2.4倍とする特約の効力)(東京高判平成9年6月5日) 49
【1―9】賃料減額請求と契約解除(東京地判平成6年10月20日) 57
【1―10】ビル敷地の継続賃料(地代)の算定方法(東京地判平成9年2月4日) 63

第2章 サブリース(転貸借)………………………………………… 69

【2―1】サブリース契約における賃料の減額請求と改定特約による増額の主張(東京地判平成8年3月26日) 72
【2―2】サブリース契約において賃料の減額を拒絶されたことによる賃借人からの期間内解約の申入れ(東京地判平成7年9月20日) 77
【2―3】賃借人の債務不履行による賃貸借契約の解除と賃貸人の承諾のある転貸借の終了(最3小判平成9年2月25日) 85
【2―4】サブリースを目的とする事業受託契約の不成立と契約締結上の過失(東京地判平成7年9月7日) 91

第3章 保証金・敷金・更新料………………………………………… 99

【3―1】賃貸借の期間満了による終了とその後の保証金の据置き(大阪地判平成8年11月13日) 101
【3―2】競売によるビル買受人の保証金返還債務の承継(東京地判平成7年8月24日) 108
【3―3】保証金返還債務についての会社役員個人の責任(東京地判平成8年3月28日) 115
【3―4】賃料及び保証金の減額請求と更新料の支払義務(東京地判平成8年7月16日) 119
【3―5】敷金又は保証金返還請求権に対する質権設定と質権者への賃貸借契約書の交付の要否((1)大阪地判平成8年3月29日、(2)神戸地判平成8年9月4日) 127
【3―6】敷金返還請求権に対する質権設定についての賃貸人の錯誤による承諾(最3小判平成8年6月18日) 133
【3―7】賃貸人が破産した場合の賃借人による敷金返還請求権と賃料債務との相殺(大阪地判平成5年8月4日) 138

第4章 契約の終了………………………………………………… 145

【4―1】賃貸借期間内に賃借人が解約した場合の違約金条項の効力 (東京地判平成8年8月22日) 148
【4―2】合意解除の場合における解約予告期間の賃料支払義務と保証人の責任(東京地判平成5年6月14日) 153
【4―3】前面道路の工事による店舗利用の阻害と賃貸借契約の錯誤による無効・契約の解除など(大阪地判平成8年7月19日) 159
【4―4】契約文言の解釈による保証金の返還時期と賃借人による保証金返還請求権と賃料債務との相殺(東京高判平成8年11月20日) 167
【4―5】裁判所が認定した立退料の額が賃貸人の申出額と格段の相違がある場合の賃貸人の立退料支払義務(福岡地判平成8年5月17日) 174
【4―6】賃借人が請負わせた建物改修・改装工事代金の回収不能による工事業者から建物所有者への支払請求(最3小判平成7年9月19日) 183

第5章 賃貸借と抵当権…………………………………………………189

【5―1】転貸賃料債権に対する抵当権の物上代位による差押え((1)大阪高決平成5年10月6日、(2)大阪高決平成7年5月29日、(3)大阪高決平成9年9月16日) 193
【5―2】将来発生する賃料債権の譲渡と抵当権の物上代位による差押え(最2小判平成10年1月30日) 202
【5―3】賃料債権に対する抵当権の物上代位による差押えと保証金返還請求権による相殺((1)大阪地判平成8年10月31日、(2)東京地判平成10年6月25日) 210
【5―4】抵当権者による短期賃貸借の解除(最2小判平成8年9月13日) 220
【5―5】債権回収の目的で締結した賃貸借契約の効力(東京地判平成8年4月22日) 226

判例索引 233
事項索引 240

トップページへのアイコン




Copyright (C) 2014 by SANSEIDO Co., Ltd. Tokyo Japan