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埋もれたエイズ報告

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NHK取材班 編・桜井 均 著

1,600円 四六 352頁 978-4-385-35789-X (品切)

"NHKスペシャル"の番組スタッフが厚生省公開資料の徹底検証から暴く新事実。薬害エイズは,輸血感染被害にまで広がる日本の防疫上の大スキャンダルである。行政の「情報秘匿」と「不作為」の連鎖を描く力作。

1997年 7月30日 発行

 薬害エイズ原告からの手紙(品切)
 龍平の現在(いま)


●著者紹介

桜井 均(さくらい ひとし)

1946年東東生まれ。東京大学フランス文学科卒。現在、NHKスベシャル番組エグゼクティブ・プロデューサー。主に教養番組を制作。

●主な制作番組

ルポルタージュにっぽん「米ソ艦艇・謎のUターン」(芸術祭賞、1981)、NHK特集「幻のイオマンテj(1983)。

●以下はNHKスペシャル

「チョウムンサンの遺書〜BC級戦犯裁判〜」(放送文化基金賞、1991)、「東京裁判への道」(放送文化基金賞本賞、1992)、「埋もれたたエイズ報告」(日本ジャーナリスト会議大賞、1994)、「死者たちの声〜レイテ戦記〜」(1995)、「薬害エイズ患者・最後の証言」(1996)など。

●著書「ミクロネシア・リポート」(日本放送出版協会)、〈共著)「日本西ドイツ・二つの戦後」〈日本放送出版協会)


●はしがき

 いまや、「薬害エイズ」を知らない人はほとんどいないであろう。しかし、血友病患者のおよそ四割が血液製剤を通してHIVに感染した事件を、「薬害」とだけ言いあらわすことに違和感を抱く人はどれほどいるだろうか。

 これまで「薬害」という言葉は、薬の副作用によって起きる大規模な事件(サリドマイド、スモン、クロロキンなど)に使われてきた。薬害エイズは薬の副作用による被害ではない。血友病患者が治療に使う血液製剤のなかに、エイズウイルスが混入していたことによる「感染被害」である。

 エイズウイルスは血液と精液を媒介にして感染することは、いまでは常識になっている。

 薬害エイズは性感染と血液感染の連続によって起こった。はじめは男性同性愛者のあいだに流行した性病としてのエイズが、彼らの献血(売血)を原料とする血液製剤を通して血友病患者の一部に感染し、さらにその一部が配偶者、パートナーへと性感染(二次感染〉していくという感染経路をたどった。血友病患者を襲ったエイズは、こうした前後の関係のなかでとらえ直されなければならない。「血液製剤によるHIV感染」とするのが正確な表現である。

 本書では、NHKスペシャル『埋もれたエイズ報告〜血液製剤に何が起こっていたか〜』(一九九四年二月六日放送)であつかった「薬害事件」としてのエイズという観点から一歩進めて、「感染被害」としての側面に着目し、公開された厚生省資料や証言を再検討してみた。

 一九八三年に厚生省が設置したエイズ研究班には、薬務局生物製剤課と公衆衛生局保健情報課が合同で参加していた。これまで薬害エイズは、主として薬務局の問題として論じられてきたが、防疫を担った公衆衛生のグループの果たした役割も大きかったのである。本書は、薬害エイズ事件を防疫という新たな視点から明らかにした。ときにエイズウイルスを主語に置くことによって、二次感染、非血友病のHIV感染、輸血感染の被害が深く関連していた事実も浮かび上がってきた。

 放送から三年のあいだに、実にさまざまなことがあった。それについては本文で詳しく述べた。ここでは、本書の全体に流れる三つの時間について記すにとどめたい。「薬害」と「感染被害」をひとつのものとしてとらえるには、以下の三つの時間のあいだを行き来しなければならない。

 (1)【八三年から八五年……薬害エイズ事件の核心部分】

 厚生省エイズ研究班の設置から、HIV(エイズウイルス)の発見、エイズ患者認定、加熱製剤の承認までの足かけ三年間。

 (2)【九三年から九四年……放送の前後】

 NHKスペシャル『埋もれたエイズ報告』の取材がおこなわれ、多くの内部資料や証言を収集し放送するまでの足かけ二年間。

 (3)【九五年から九六年以降……社会的な真相究明】

 裁判の結審後、和解勧告案が出され、国会で内部資料の提出が厚生省に求められた時期から、厚生省が資料を大量に公開し、元エイズ研究班メンバーに対する参考人招致、証人喚間などがおこなわれた時期。

 薬害エイズ事件は複雑である。しかし、真相はけっして“薮の中”ではない。“薮の中”にこそ事 実は潜んでいる。本書では、これら三つの時間が複雑に絡み合う地点に意識的に立ち止まることに よって、放送を客観視することを心がけた。それによって初めて関係者の発言や証言が、時間のな かで微妙なズレを起こしていることがわかってきた。

 薬害エイズ裁判の和解成立条件のひとつが真相究明である。

 被害にあった人たちは、身に降りかかった癒しがたい苦痛について他の誰よりも知りつくしている。しかし、なぜこのような悲惨な目にあわされなければならないのか、その原因が明らかにされないことに二重の苦痛をあじわっている。裁判の和解は成立したが、いまも多くの被害者が真相の究明を求めているのはそのためである。

 薬害エイズ事件の推移のなかで、関係者の認識に微妙な変化があり、互いの認識のズレが次第に明らかになってきた。もとより、それをすべて個人の責任に帰することはできないが、多角的に検証することによって、「不作為の連鎖」が明らかになってきた。同様に、公開された厚生省資料についても、われわれの放送とのズレをできるかぎり正確に測り、新たな問題点を追加取材した。証言と資料とメディアのなかを流れ、それらのあいだを貫くものをとらえるためには、こうした迂回路は避けられなかった。

 そのために本書がとらざるをえなかった変則的な構成をあらかじめ断っておきたい。

 一九八三年から八五年までの薬害エイズ事件の推移は、二章、四章、五章、九章、10章を読んでいただければ、ひととおり理解できるようにした。とくに二章は、一号患者が二人いたという異常な事がらをめぐって、三年間にわたる「薬害エイズ」を患者認定という面から概観した。

 また、事件の輪郭をはっきりさせるために、三章(アメリカ〉、六章(血友病患者)、七章(フランス)、八章(「汚染ロット」追跡)によって外側と裏側から光をあてた(10章までが番組と重なる)。  11章(第九因子製剤)、12章(輸血感染〉では、「薬害エイズ」と同根でありながら、どこかで連続する感染症について今後の展開を見すえて詳述した。「不作為」に関わるテーマはほとんど全編にわたるが、とくに一章(資料問題)、13章(メディア問題)で重点的にあつかった。

 薬害エイズ事件の埋もれた部分を克明にたどるうちに、筆者はHIV感染の途方もないひろがりと意外な起源に気づいた。そこにはきまって「不作為の連鎖」が横たわっていた。本書は、「なぜこれほどまでの不作為が許されているのか」という問いに答えようとして、予定の紙数を大幅に超えてしまった。

 薬害エイズ事件は、過去のできごとではない。それは、この社会がもっとも陥りやすい「不作為の責任」を問いつづけている。


●『埋もれたエイズ報告』

(小社PR誌 「ぶっくれっと 」No.127「自著自賛」より)

桜井 均

NHKスペシャル『埋もれたエイズ報告──血液製剤に何が起こっていたか』を放送したのは1994年2月、3年半前になる。

 83年に厚生省が設置したエイズ研究班で、誰がどのような意思決定をしたのか、あるいはしなかったのか、それを明らかにする資料が必ずあるはずだという確信のもとに取材を行った結果、厚生省や製薬会社の内部文書を独自に入手した。厚生省が早い段階で血液製剤の危険を認識していたこと、アメリカの製薬会社が汚染製剤を自主回収していたことなどを明らかにすることができた。これらのスクープが進行中の薬害エイズ裁判に影響を与えることは十分考えられたが、公益性を優先して放送に踏み切った。

 放送後、厚生省はNHKの資料は偽造かもしれないなどと誹謗したが、厚生省にこそ資料公開の義務があるとしてつっぱねた。96年になって、厚生省はついに資料の公開を余儀なくされた。再放送を求める声が多く寄せられたが、実現できなかった。しかし、たった一本の番組が二年間よく持ちこたえ、世論を動かしたという感慨があった。

 ところがそれも束の間、大量放出された厚生省資料には墨塗りが目立ち、放送で指摘した文書には巧妙な擦り替えが行われていることが分かった。こうした二重の「隠蔽」を放置するわけにはいかないというのが、本書執筆の強い動機となった。

 したがって、本書は放送から三年半の時差をふまえ新たに書き下ろした。キーワードは「不作為の連鎖」である。

 執筆にあたって、日本の薬害エイズは、従来の「薬害」の枠組みをこえた、感染症対策全般にわたる厚生省の失態だったという原点に立ち戻ってみた。そこで、薬務局とともにエイズ研究班を構成した公衆衛生局の責任に着目した。

 感染症や伝染病の患者が発生した場合、公衆衛生のグループはいち早く危険情報を公表し、被害の拡大を防ぐ役割を担っている。83年から85年にかけて、血友病患者のエイズ認定の機会が何度かあったにもかかわらず、その度に判断が先送りされ、血液製剤の変更は大幅に遅れた。おそらく、公衆衛生のグループは、エイズを水際で撃退しようと考えていた。しかし、実際には血液製剤を通してとっくに日本に上陸していた。この受け入れがたい現実を前に、彼らのエイズ研究班からの「撤退」は早かった。

 その後、血友病患者を襲ったHIV大量感染は、医療管理下で起こった「薬害」として処理されることになった。八六年以降、公衆衛生のグループは「エイズ予防法」制定に積極的に動き、性感染キャンペーンをさかんに展開し、「薬害エイズ」を埋もれさせる役割さえ果たした。

 このようなエイズ研究班の失態によって、十年もの間、HIVに感染した血友病患者たちはいわば「生き埋め」にされてきた。だが、このような不作為の責任が追求されないまま、いま事件の「埋め戻し」が始まっている。

 現在、薬害エイズ刑事裁判はきわめて限られた範囲の責任を問うかたちで進んでいる。にもかかわらず、検察側証人がもたらす新事実には注目すべきものが少なくない。見方によっては、刑事裁判の過程でスピンアウトしてくる事実から、真相解明の糸口をつかむことができる。いつか誰かが真実を語り、不作為の連鎖がどこかで断ち切られ、そこから作為の連鎖が立ち現れる時が来るかもしれない。その日のために、事件の見取り図をできるかぎり正確に描写しておいた。本書は、今後の真相究明の展開の中でも十分耐えうる「開かれたエイズ報告」になっていると確信している。

(さくらい・ひとし NHKプロデューサー)


●『埋もれたエイズ報告』製作スタッフ


製作スタッフ

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