われわれの社会生活の大部分は法によって規制されている。政治、経済、文化のいずれの領域においても高度な発展を遂げ、複雑化した現代社会にあっては、法の果たす役割は一段とその重みを加えているが、その法の中でもわけても重要なのは、立法機関により制定された成文法であることはいうまでもない。その成文の諸法令を集めたものが六法全書である。わが国には、おびただしい数の成文法が存在するが、法律学の基本を学習する上で必要とする法令はそれほど多くはない。そこで、法律学を学ぶ学生諸君はもとより、法律実務家から一般市民に至るまで手軽に使えるように、携帯に便利で使いやすい判型に厳選した法令を収め、かつ主要な法令には判例を掲げた本六法を、1986年秋に創刊した。
ところで、法が現実に機能し、われわれの生活を具体的に規律するのは、裁判所における裁判を通じてであることが多い。それゆえ、「先例としての判決」である判例は「生ける法」ともいうべきものであって、法の学習や研究にとって判例のもつ意義はすこぶる大きい。国民の権利意識が高まり、日々多数の法的紛争が裁判所に持ち込まれている今日の法化社会においては、その意義はとくに大きいといえる。私たちが、判例つき六法である「模範六法」を編修して世に送ったのは、このことを考えてのことであって、それが好評をもって迎えられたことは、故なしとしないであろう。本書においても、主要な法令には各条文ごとに判例を掲載しており、その意味で、「模範六法」の小型携帯版といってよい。
本書は当初、「コンサイス六法」の名で世に送り出され、平成9年版には「コンサイス判例六法」と、さらに平成21年版には「模範小六法」と改称し、その間、幸いにも幅広い読者層からご支持をいただいて今日に至っている。近年ますます法の制定、改廃が激しくなり、条文の長文化傾向ともあいまって、意を尽くそうとすればするほど多くの紙面を必要とするところ、小型携帯版としての役割を担う本書は、毎年の改訂において常に収録法令・判例の精選に努めてきた。しかし、法化社会の深化とともに重要法令は細分化し、紛争を決着させる判例の重要性も高まる一方である。
そこで、本年版では、刊行以来最大ともいえる大改革を断行した。本書に「模範六法」とほぼ同等の判例を収録することにしたのである。これにより、デスクで「模範六法」を利用している読者が、本書を携帯すれば、外出先でも同じ判例を参照することができるようになった。さらに、大部の「模範六法」に躊躇を感じる学習者・資格試験受験生も、本書を利用することにより、実務家・研究者と同じ質、同じ量の判例を学ぶことができる。
これほどの判例件数増補を断行したにもかかわらず、種々の紙面上の工夫により、収録法令数165を確保した。本書の収録法令数は、判例つき携帯版六法のクラスでは最大数を誇る。まさに、判例つき大型六法の充実度をこの小型携帯版にそのまま凝縮したわけである。
こうして、「模範小六法」は生まれ変わった。ここに改めて本書の編修方針を記そう。
(一)収録法令─大学の法学部・法科大学院に学ぶ学生および各種資格試験受験生にとって必要な法令は、ほぼ遺漏なく収録した。また、不動産登記法および同令・規則、商業登記法および同規則を全録して、司法書士の実務上の必要にも応えている。
(二)収録判例─前述したように、今年度からは「模範六法」とほぼ同等の判例を収録した。その数は、延べ約1万3,000件に上る。歴代編修委員の半世紀以上にわたる英知の結集である。
(三)条文の機能的理解に資すべく、重要法令には詳しい参照条文を付した。実務的便宜はもちろん、学生・受験生にとっては、論文答案練習に絶大な威力を発揮する。
以上の方針に基づき、編修委員会を構成する20名の委員が分担して、各分野の収録法令および判例の選択、参照条文の執筆等にあたった。憲法編は、中島、江島、そのうち国際私法(法の適用に関する通則法)に関する部分は早川(眞)が、行政法編は手島が、民法編は田山、淡路、野澤、石井が、商法編は小塚、北村、前田、早川(徹)が、民事訴訟法編は伊藤、上原、山本が、刑法編は川端と佐久間が、刑事訴訟法編は渡辺が、社会法編は村中が、経済法編は舟田が、国際法編は石本(顧問)がそれぞれ担当した。
本年版では、民法(親族編における親権停止の審判に関する規定の新設等)、民事訴訟法(国際裁判管轄に関する規定の新設等)、刑法・刑事訴訟法(コンピュータ犯罪に対応する規定の新設等)というような、基本法令の重要な改正をはじめ、前年版以降の法令等の改正を織り込んだ。判例を大幅増補収録した点は、前述のとおりである。
このようにして、「模範小六法」の新版を世に送ることとなったが、今後とも読者諸賢のご助言とご教示が得られれば幸いである。
なお、資料収集などにご尺力をいただいている早稲田大学法学学術院助教山城一真(民法編)、一橋大学准教授杉山悦子(民事訴訟法編)、東海大学教授角田政芳(特許法、著作権法)の各氏に深甚の謝意を表する。
2011年9月1日
判例六法編修委員会
代表 竹下 守夫