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新・判例コンメンタール 民事訴訟法6
はしがき

 昭和53年刊行の旧版「判例コンメンタール民事訴訟法」の遺産を受け継いで,新たな装いで再出発した本シリーズ民事訴訟法編も,本巻で最終巻(別巻は除く)を迎えた。「判例をもって条文のエツセンスを語らしめる」という旧版のコンセプトを踏襲しながら,「最新の判例を重点的に取り上げ,参照判例をも含めて重要判例の大半を,それらの判例解説などとともに網羅的に検索することができるデータ・ベースをめざすこと」としたのが,この新版の企画である。本巻を含めて,この目的をどの程度達成できているかは,読者諸氏の批判にまつほかないが,本書がこのような目的にかなうものとして,法実務に携わる人々の座右の書として,あるいは法学徒の参考文献として,旧版にもまして広く活用されることを期待したい。この企画の趣旨に賛同して執筆をお引き受けいただき,多忙の中で原稿を完成して下さった学界・実務界の方々には、心から感謝したい。

 本書第6巻は,民事訴訟法第360条以下の全条文を収めている。上訴,再審督促手統(支払命令),手形訴訟,執行停止そして仲裁が,その対象である。第513条から第764条までの250余条がすっぼり抜けているのは,ご承知のとおり,かつては民事訴訟法典に収められていた強制執行および仮差押え・仮処分の部分が,それぞれ「民事執行法」,「民事保全法」として分家独立したからである。

 本書の対象事項のうち,もっとも実践的にも理論的にも重要度の高いものは,なんといっても上訴であろう。当事者であれ,代理人であれ,裁判官であれ,人間の行動選択や判断は,決して完全なものではなく手探り的に一歩一歩進めていかざるをえないし,しばしば間違うものであるとすれば,リターン・マッチをかけてつぎのラウンドに持ち込む途を用意することはどうしても必要である。もちろん,裁判制度である以上,無制限にくり返しやラウンド設定が許されるというわけにはいかず,常識的な範囲で一線が引かれなければならない。現行の「三審制」は,このような考慮からの産物である。

 上訴の中でも,実践論として重要性をもつのは,1回目の上訴である控訴である。上告も,法制度全体としては重要であり,とくに最高裁判決が実務および理論に与える影響力は甚大なものがあるが,個々の事件を扱う日常実践においては,上告が容れられて原判決がひっくり返るというケースはめったにない。ゴルフ好きの弁護士さんが,「ホール・イン・ワンは一度ありますが,上告して口頭弁論が開かれた経験はありません」と語っておられたのが印象深い。実践論としては,裁判は控訴審までの二審,というのが実感であろう。

 そこで,控訴審の在り方が問題になるが,今次民事訴訟法改正でも論議されているように,その運用の方向づけはなかなかむずかしい。裁判官もさまざまで「とんでもない第一審判決がある」という指摘が弁護士の経験から語られる一方で,逆転の可能性はさておき,敗訴すれば「とにかく控訴」という実態が一部にあることも現実である。かつて,三ケ月章博士が,現行の円筒型上訴制度を批判し,円錐型上訴制度を提言されたが,目指すべき方向はたしかにそのとおりであろう。しかし,民事裁判についての現行のイメージと審理方式のままでは,控訴審をスリム化して円錐型上訴システムを達成するのはむずかしい。もっぱら過去の事実を振り返って当事者の責任や義務を明らかにするのが裁判であるという通念の下で弁論・証拠調べが行われるかぎり,不利な認定・評価を受けた側には,横造的に不満を残すことは避けられないからである。もし,それぞれの当事者が網羅的に事実の主張と証拠提出を行って,あとは裁判官の自由な心証による判断をまつという心証依存の漂流型の弁論・審理が行われ続けるかぎり,どのように法が改正されても,控訴審の実状には変化はないであろう。そこで,控訴審のあり方を決めるのは,第一審の蕃理のあり方,弁論・証拠調べのあり方にかかっており,漂流型ではないメリハリのきいた審理をどうすれば達成できるか,当事者が生き生きと手続にかかわって納得のいく審理過程をどうすれば実現できるかにかかっているといってよい。

 平成7年3月まで大阪地裁におられて,チームワーク方式による新鮮な,しかし考えてみれば,ごく当り前の審理を目指された西口元裁判官によるNコート方式は,この意味で注目に値する。ただし,この審理方式に紛争マネージメント的要素をもっと取り入れて将来志向の弁論・証拠調べが織り込まれ,和解的判決もできるような途が設けられれば,裁判のイメージ転換の一大拠点となるものと思われる。そうなれば控訴率も低下し,たとえ控訴されても,不服の部分に絞って集中的に審理できることになるはずである。

 ところで,上訴や再審については,古くからその濫用が話題にのぼり,その対策が議論されてきている。制度設営側は,とかく一定の趣旨と範囲に制度の目標を定めて,そこからはみ出すものは濫用として規制しがちである。しかし,制度というものは,利用者が状況にあわせて自分なりに使っていくためにある。それは,あたかも弁護士や裁判官が判例を当面の事件にあわせて自在に使って議論を展開するのに似ている。紛争は,相手方当事者がおり,関係者もいるので,無理な使い方をすれば,必ず自分自身にその反動がはね返ってくる。要は,作用・反作用が公正対等に行われるようなシステムと作法が,制度を支えるものとして,社会関係に取り込まれ十分に機能しているかどうかである。つまり,訴訟外の調整がうまく機能しているかどうかである。制度を支える社会関係が十分に機能しないときに,はじめて法制度の中での最小限の規制を考える必要がでてくるのである。上訴や再審について,そのような規制を考える必要があるのかどうか,広い視野に立って,利用者の立場から,十分に議論されるべきである。

 最後に控訴審の判決のあり方について一言。第一審の判決文の字句を部分的に補正したり,追加するなどのあの味気ない控訴審の判決文は,なんとかならないものであろうか。法専門家には効率のよい手慣れた慣行かもしれないが,当事者本人や第三者には,どうして判決文があのようになってしまうのか,なんともわかりにくいのである。

 本巻でなんとか編集責任を果たし終えたという解放感から,ついつい筆が走りすぎたかもしれない。無作法の段,ご海容いただければ幸いである。末尾ではあるが,辛抱強くこの最終巻まで漕ぎ着けて下さった三省堂編集担当の方々に心から御礼を申し上げる。

1995年7月

谷口安平
井上治典

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