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新・判例コンメンタール 民法15
はしがき

 本書は,昭和53年に刊行された「判例コンメンタール V 相続」の新版である。「判例コンメンタール V 相続」は,極めて部厚な書物であったにもかかわらず,増版を重ね,改訂増補を経て,多くの読者からご愛用をいただいた。厚くお礼を申し上げたい。

 判例コンメンタール編集の標語は,「判例をもって条文を語らしめる」であった。この新版もその趣旨を承継・敷衍して,「(主な)読者を法曹実務家,専門研究者と定め,戦後の実務判例をあらゆる角度から取り上げ,参照判例を引用しつつ重要判例を,しかもそれらの判例解説などの文献を含めて網羅的に検索することができるデータ・ベースをめざすこと」にした。この第15巻は,民法915条から1044条までの条文と,相続の問題を扱うさいには欠かすことのできない知識として相続税法の解説を載せている。

 さて,筆者らは,第14巻のはしがきを「相続法も転換期にあるというべきであろう」と結んだ。ところで,今後の相続法の動向を占う場合には,社会の人口構成の変化を無視することはできないであろう。

 現在すでに,男子の平均婚姻年齢は28.3歳,女子のそれは25.6歳であり,婚姻5年以内に80%強の子どもが生まれている(昭和61年人口動態統計)。他方,28歳の男子および25歳の女子の平均余命は,それぞれ49.03歳,57.52歳であるから(平成2年簡易生命表),夫は77歳,妻は82歳まで生きることになる。

 これらの数字から分かることは,多くの子どもは,父死亡時には48歳から53歳に,母死亡時には56歳から61歳になっており,さらに,母は父死亡後約8年間生き延びるということである。

 戦前は人生50年といわれた。これは,親の側からみれば,退職後の生活を心配する必要がなかったということであり,子どもの側からみれば,まだ家庭も持たず,時としては教育さえも終えておらず,したがって相続に対する必要が大きかったということである。

 現在では,父母が死亡するときには,すべての子どもが教育を終わり,社会的な地位も確立して,資産,収入ともにピークに達している。他方,高齢に達した親は,老後の生活を心配しなければならない。高齢者には,資産があっても,収入は極めて限られている。

 民法は,親に対する子どもの扶養義務を定めている(787条1項)。しかし,平成2(1990)年に全国の家庭裁判所で,65歳以上の要扶養者が子どもに対して扶養の申立てをし,それが認められたのは,わずかに100件という数字(平成2年司法統計年報・家事編135−6頁)が示しているように,親の扶養などは画に描いた餅にすぎない。多くの子どもたちは,自分の家族が身分相応の生活をしてなお余りがあるときにだけ親の扶養をすればよいと考えている。そこで,高齢の親は,自分の資産を取り崩して生活することになる。

 これらの事実が物語っていることは,第1に,相続および相続法の意義がかなり減少しているということである。ことに高齢の親が長期介護を必要とする場合,その資産は限りなく零に近づき,したがって,相続財産はほとんど残らないことになる。相続ないし相続法の意義は,親が死亡するはるか以前に,親が子どもの高等教育などの費用を相続の前渡しとして支払ったことに,わずかに社会的意義をとどめるにすぎない。

 第2に,統計上,母は父よりも8年間長生きをするが,この間母は長期介護を必要とする状態におかれるかもしれない。母は,この8年間の生活費・療養費を自ら賄わなければならないわけである。したがって,父の財産を承継する必要は,一定の社会的地位を得て,収入もピークに達している子どもよりもはるかに大きいといわなければならない。

 北欧の改正相続法は,すでにこの点を考慮して,妻の取得分を高めるだけでなく(たとえば,デンマークでは,夫の財産の4分の3とされている),子どもからの遺産分割の請求は,継子からの場合などを除いて,父母双方が死亡するまで,許さないことにしている。夫婦財産が父母の協力によって築き上げたものである点からみても,このような改正が妥当なことはいうまでもない。

 しかしながら,上記第1で述べたような,相続ないし相続法の社会的意義の低下を放置しておいてよいのかどうかもまた,問題としなければならない。相続は,もともと大いに働いて,子どもに財産を残したいという人問本来の願望に基づくものである。生きている間に使いきってしまう財産だけ蓄積すればよいという考えのもとでは,相続制度は成り立たない。相続制度は,人問の勤勉さに裏打ちされ,さらにそれを促進するものである。

 他方,子どもの方ではいくら年をとっても,相続財産を得て,家庭生活を多少とも快適なものにしたいという願望をもっている。あるいは,40−50歳代の子どもは孫の教育費の捻出に苦しんでおり,相続財産を得たなら,それを孫の教育費に充てたいと考えるかもしれない。 そこで,親が老後のためにその資産を使い果たさざるを得ない事情は,親子ともども,なんとか避けたいと考えるのは,極めて自然なことであろう。この間題の解決策としては,長期介護のための強制保険をつくるとか,親子間で契約同居(親が住宅の一部の居住を留保してそれを子どもに売却し,子どもが売買代金を一時金ならびに年金の形で親に支払う契約など)とかが,考えられている。この種の議論は,今後ますます高まることであろう。

 本巻には,第14巻および第15巻(相続編)の索引がついているが,これは,大阪大学・床谷文雄助教授のご尽力によるものである。また,三省堂編集部の方々には,最後まで,原稿の督促・整理などについてお世話になった。ここに厚く謝意を表しておきたい。

1992年7月

島津一郎
久貴忠彦

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