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新判例マニュアル 商法 I
はしがき・目次

目次

はしがき

 商法を学ぶ者も、また教える者も同様に感じることは、八〇〇条を超える商法に、有限会社法や手形法・小切手法を加えた膨大な分量を、限られた時間内で理解・習得させることの困難さである。教える側からすると、まず教科書によって体系的抽象的に講義を行いながら、それに、具体的な適用例あるいは具体的な問題の展開を加えることによって、理解を深めたいと願う。この具体的適用例が判例教材の活用である。
 判例は、制定された商法の固定的条文を現代の流動している具体的事件に対して下した一定の法的判断であり、その法的解釈は今日の社会において、「生きている法」としての役割を果たしている。とくに商法は、商人間およびその取引社会の慣習や制度を基にして制定・改廃されていく性格を有する法であるだけに、他の法分野に比較して、より「生きている法」たる判例の利用価値は高く、またその利用意義も大きいといえる。

 そこで、商法全般を概観すると、会社法や手形法・小切手法の分野は判例も多く、必然的に判例を中心とした教材は多数存するが、総則・商行為の分野は判例も少なく、判例教材も少ない。また、この分野の判例教材に盛られている内容が、事実の解明においてあまりにも詳細であり、解説においては、それが小論文的体裁をとっていることも多い。さらにその判例そのものが少数であるという理由も含めて、学習教材としてはいささか普遍性に欠けているということもあり、判例教材を通して理解をより深めるという点では必ずしも最適とはいい難い面もあった。
 これらの点を解決するためにつくられた判例教材としての「判例マニュアル商法ソ総則・商行為」は、幸いにもこの意図するところが多くの読者に理解され、好評を博してきた。見開き二頁で、事実の概要、問題点、判旨、学習のポイント、関連条文・参考文献・関連判例などを簡潔にまとめ、文字どおり判例を学ぶ「手引書」、またはコンパクトな事典として広く利用されてきた。刊行以来一〇年近く経過したため新しい判例にさしかえる必要にも迫られてきたこともあるが、今ここであらためて本書を見直してみると、当初の意図したところよりも、判例そのものの個別的解説の色彩がやや濃く、そのため、事典的な要素が強くなっているような印象で、それは必ずしも本書刊行の本意とはいい難いものである。

 そこで今回の改訂にあたっては、右の諸点も考慮し、思い切って判例およびその解説を従とし、主として判例を素材とした「事例的設例」を前面に押し出し、設例を基に、そこで争われている論点の商法上の意味・位置づけを解説する形にあらためてみた。意図したところを詳述すると、従来どおり見開き二頁の中に、総則・商行為に関する重要項目を厳選し、その項目に関する主要判例を素材にした「設例」を提示し、読者が当事者であればどこを問題点とするかを問うている。これは演習書として、また現実に起きる問題への応用書として活用していただきたいとの思いからつくられたものである。そして「設例の狙い」を置いて、その設例が何を問うているのか、また読者に解答として何を求めているのかを示している。次に「学説と判例」においては、当該事案が学説上・判例上いかなる位置を占めているかを示し、学説および判例の推移と今日の問題点を分析する。「解説」においては、設例に関する主要な論点の意義、学説の分析、判例の動向などを通して、その問題の商法上の意味や位置が明示され、これらを総合して判例を通して理解を深められるよう考えている。もちろん主要判例については、簡潔で要を得た解説を付して紹介し、その内容において事典的要素を兼ね備えていることは従来どおりである。
 このように他書に例を見ない構成にしたのは、既存の判例解説書から一歩進め、「通読しておもしろい書」としての性格をも併せて追求したいとの願いからである。このような欲ばった「至難な業」を快諾され、見事に適えて下さった執筆者の諸先生に心から御礼を申し上げる次第である。本書に収録された珠玉の力作が学習者によって商法の理解の一助となれば幸いである。

平成11年春

神戸大学名誉教授 河本一郎
早稲田大学教授 奥島孝康


目次

◎凡例

 ◇序――判例を学ぶ意義[商法ソ総則・商行為法の場合]………………………河本 一郎・村田 溥積 22

 ◆第1章 商法総則

I 法源(小林  量)

01 白紙委任状付記名株式譲渡の商慣習法●大判昭一九・二・二九民集二三巻三号九〇頁
02 普通保険約款の拘束力●大判大四・一二・二四民録二一輯二一八二頁
03 無認可保険約款の効力●最判昭四五・一二・二四民集二四巻一三号二一八七頁

II 商人(小林  量)

04 商人資格の取得時期●最判昭三三・六・一九民集一二巻一〇号一五七五頁
05 相手方の行為者の営業意思の知・不知と開業準備行為の商行為性●最判昭四七・二・二四民集二六巻一号一七二頁
06 信用協同組合の商人性と一方的商行為●最判昭四八・一〇・五判時七二六号九二頁
07 信用金庫の商人性●最判昭六三・一〇・一八民集四二巻八号五七五頁

III 商業登記(尾崎 安央)

08 退社員の責任と商法一二条[合名会社新港シャーリング工場事件]●大判昭一四・二・八民集一八巻一号五四頁
09 商業登記の対抗力[株式会社近江屋商店事件]●最判昭三五・四・一四民集一四巻五号八三三頁
10 第三者相互間における商法一二条の適用の有無[宮関合名会社事件]●最判昭二九・一〇・一五民集八巻一〇号一八九八頁
11 商法一二条と民事訴訟[株式会社関口本店事件]●最判昭四三・一一・一民集二二巻一二号二四〇二頁
12 非営利法人の理事登記と商法一二条[社会福祉法人昭和学園事件]●大阪高判平三・四・二六判時一三九六号一三八頁
13 商法一二条と民法一一二条との関係[安威川ゴルフ株式会社事件A]●最判昭四九・三・二二民集二八巻二号三六八頁
14 商法一二条の事由[安威川ゴルフ株式会社事件B]●最判昭五二・一二・二三判時八八〇号七八頁
15 不実登記と故意・過失による同意[株式会社日本スタヂオ事件]●最判昭四七・六・一五民集二六巻五号九八四頁
16 取締役の辞任登記の未了[熊木産業株式会社事件]●最判昭六三・一・二六金法一一九六号二六頁
17 登記官の審査権限[株式会社高橋商店事件]●最判昭四三・一二・二四民集二二巻一三号三三三四頁

IV 商号(永井 和之) 
  
18 商号の成立時期●大決大一一・一二・八民集一巻一一号七一四頁
19 商号単一の原則●大決大一三・六・一三民集三巻七号二八〇頁
20 同一商号の登記禁止●大決大五・一一・二九民録二二輯二三二九頁
21 瑕疵ある商号登記抹消審査請求の可否●最判昭六〇・二・二一判時一一四九号九一頁
22 類似商号●最判昭四〇・三・一八判タ一七五号一一五頁
23 商法二〇条と営業の同一性●最判昭五〇・七・一〇裁時六七〇号一頁
24 不正の目的による商号の使用●最判昭三六・九・二九民集一五巻八号二二五六頁
25 商号の使用禁止●東京高判昭三九・五・二七下民集一五巻五号一二〇七頁
26 被許諾者の営業外使用と名称許諾者の責任●最判昭五五・七・一五判時九八二号一四四頁
27 商法二三条と取引相手方の重過失●最判昭四一・一・二七民集二〇巻一号一一一頁
28 商号使用許諾者の責任を生ずる取引の範囲[現金屋事件]●最判昭四三・六・一三民集二二巻六号一一七一頁
29 交通事故の示談契約と商法二三条[名板借人示談事件]●最判昭五二・一二・二三民集三一巻七号一五七〇頁
30 スーパーマーケット経営会社の名板貸責任●最判平七・一一・三〇民集四九巻九号二九七二頁
31 取引行為の外形をもつ不法行為と名板貸人の責任●最判昭五八・一・二五判時一〇七二号一四四頁

V 営業譲渡(山下 眞弘)
 
32 理髪業の譲渡と競業避止義務●大判昭一二・一一・二六民集一六巻二三号一六八一頁
33 営業譲渡と商号の続用[米安商店事件]●最判昭三八・三・一民集一七巻二号二八〇頁
34 現物出資と商法二六条の適用●最判昭四七・三・二民集二六巻二号一八三頁
35 挨拶状と債務引受の広告●最判昭三六・一〇・一三民集一五巻九号二三二〇頁
36 営業譲渡と労働契約の帰趨●大阪高判昭三八・三・二六高民集一六巻二号九七頁

VI 商業帳簿(田村 詩子)
    
37 輸出取引による収益の計上基準[為替取組日基準事件]●最判平五・一一・二五民集四七巻九号五二七八頁
38 商業帳簿の証拠力[取引日記入遅延事件]●大判昭一七・九・八新聞四七九九号一一頁
39 提出命令の対象となる商業帳簿[相場操縦文書事件]●東京高決昭五四・二・一五下民集三〇巻一=四号二四頁

VII 商業使用人(田村 詩子)
   
40 表見支配人と営業所の実質[生命保険相互会社支社長手形事件]●最判昭三七・五・一民集一六巻五号一〇三一頁
41 出張所長と表見支配人[出張所長手形振出事件]●最判昭三九・三・一〇民集一八巻三号四五八頁
42 銀行の支店長代理と表見支配人[退職支店長代理手形事件]●最判昭二九・六・二二民集八巻六号一一七〇頁
43 表見支配人の相手方である第三者[営業所「所長代理」事件]●最判昭五九・三・二九判時一一三五号一二五頁
44 表見支配人が有するとみなされる「営業ニ関スル行為」の範囲[絹靴下事件]●最判昭三二・三・五民集一一巻三号三九五頁
45 信用金庫支店長と営業に関する行為[自己宛先日付小切手事件]●最判昭五四・五・一判時九三一号一一二頁
46 銀行の本店審査部付調査役と商法四三条[損害担保契約事件]●最判昭五一・六・三〇判時八三六号一〇五頁

VIII 代理商(江口眞樹子)
    
47 代理店と代理商[鎔接棒代理商事件]●大判昭一五・三・一二新聞四五五六号七頁
48 代理商と身元保証●大判昭一〇・五・二七民集一四巻一一号九四九頁
49 商法五〇条一項の任意規定性●横浜地判昭五〇・五・二八判タ三二七号三一三頁

 ◆第2章 商行為総則

I商行為の範囲(江口眞樹子)

50 投機売買と加工●大判昭四・九・二八民集八巻一一号七六九頁
51 賃搗と加工業●大判昭一八・七・一二民集二二巻一三号五三九頁
52 貸金業の商行為性●最判昭五〇・六・二七判時七八五号一〇〇頁
53 商人の雇傭と附属的商行為の推定●最判昭三〇・九・二九民集九巻一〇号一四八四頁

II 商行為の規整(大塚 英明)

54 商法五〇四条の法理[商事非顕名代理事件]●最判昭四三・四・二四民集二二巻四号一〇四三頁
55 商法五〇四条但書と消滅時効[相手方による時効援用事件]●最判昭四八・一〇・三〇民集二七巻九号一二五八頁
56 商行為の委任に関する代理権の有無[委任関係消滅事件]●大判昭一三・八・一民集一七巻一七号一五九七頁
57 商人の諾否の通知義務●最判昭二八・一〇・九民集七巻一〇号一〇七二頁
58 商法五一一条にいう「保証カ商行為ナルトキ」の意味[商事保証認定事件]●大判昭一四・一二・二七民集一八巻二四号一六八一頁
59 宅地建物取引業者の報酬請求権●最判昭四四・六・二六民集二三巻七号一二六四頁
60 商法五一四条にいう「商行為ニ因リテ生シタル債務」の意味[商事性のある原状回復請求事件]●最判昭三〇・九・八民集九巻一〇号一二二二頁
61 自賠法による直接請求権と商法五一四条●最判昭五七・一・一九民集三六巻一号一頁
62 入会金預り証の有価証券性●最判昭五七・六・二四判時一〇五一号八四頁
63 ゴルフクラブ入会証書と公示催告の申立●最判昭五二・六・一六判時八五八号一〇一頁
64 取引時間外になされた弁済の提供●最判昭三五・五・六民集一四巻七号一一三六頁   川島いづみ 150
65 不動産に対する商人間の留置権の成否●東京高判平八・五・二八判時一五七〇号一一八頁
66 非商人たる保証人の求償権と商事消滅時効●最判昭四二・一〇・六民集二一巻八号二〇五一頁
67 利息制限法違反による返還請求権と消滅時効●最判昭五五・一・二四民集三四巻一号六一頁
68 株式払込金保管証明銀行の債務の消滅時効●最判昭三九・五・二六民集一八巻四号六三五頁

 ◆第3章 商事売買(山手 正史)

69 当事者の意思表示による確定期売買●最判昭四四・八・二九判時五七〇号四九頁 
70 商人間売買における目的物の瑕疵と代金減額請求●最判昭二九・一・二二民集八巻一号一九八頁
71 商人間売買における買主の完全履行請求と検査・通知義務●最判昭四七・一・二五判時六六二号八五頁
72 商人間の不特定物売買と買主の検査・通知義務●最判昭三五・一二・二民集一四巻一三号二八九三頁

 ◆第4章 交互計算(河本 一郎+村田 溥積)

73 交互計算に組み入れられた債権の差押え●大判昭一一・三・一一民集一五巻四号三二〇頁        

 ◆第5章 匿名組合(河本 一郎+村田 溥積)

74 匿名組合の意義●大判大六・五・二三民録二三輯九一七頁      

 ◆第6章 仲立営業(河本 一郎+村田 溥積)

75 仲立人の代理権●大判大四・一〇・九民録二一輯一六二四頁       
76 排除された仲介業者の報酬請求権●最判昭四五・一〇・二二民集二四巻一一号一五九九頁

 ◆第7章 問屋営業(重田 晴生)

77 問屋営業の対象と有価証券●最判昭三二・五・三〇民集一一巻五号八五四頁     
78 委託者の指示に基づかない問屋の取引●最判昭四九・一〇・一五金法七四四号三〇頁
79 問屋による再委託●最判昭三一・一〇・一二民集一〇巻一〇号一二六〇頁
80 問屋が破産した場合の委託者の取戻権●最判昭四三・七・一一民集二二巻七号一四六二頁

 ◆第8章 運送取扱営業(重田 晴生)

81 運送取扱人の損害賠償責任
●最判昭三八・一一・五民集一七巻一一号一五一〇頁    
82 運送人が負う責任の消滅時効と悪意
●最判昭四一・一二・二〇民集二〇巻一〇号二一〇六頁

 ◆第9章 運送営業

I 物品運送
(山下  丈)
83 いわゆる「空券」である貨物引換証の効力●大判昭一三・一二・二七民集一七巻二四号二八四八頁   
84 貨物引換証の要式証券性●大判大五・七・四民録二二輯一三一四頁
85 貨物引換証と運送品の滅失●大判昭六・一一・一三民集一〇巻一二号一〇一三頁
86 貨物引換証の処分証券性●大判大一三・七・一八民集三巻一〇号三九九頁
87 貨物引換証の物権的効力●大判昭七・二・二三民集一一巻二号一四八頁
88 荷受人以外の者への運送品の引渡し●最判昭三五・三・一七民集一四巻三号四五一頁
89 商法五八〇条一項の趣旨●最判昭五三・四・二〇民集三二巻三号六七〇頁
90 商法五八一条にいう重過失の意義●最判昭五五・三・二五判時九六七号六一頁
(山田 泰彦)
91 C&F売買契約と船積期間の経過●神戸地判昭三七・一一・一〇下民集一三巻一一号二二九三頁    
92 取消不能信用状の条件変更●東京地判昭五二・四・一八判時八五〇号三頁
93 相次運送の意義●大判明四五・二・八民録一八輯九三頁
94 商法五七八条にいう高価品の意義●最判昭四五・四・二一判時五九三号八七頁
95 商法五七八条と鉄道営業法一一条ノ二[函館駅盗難事件]●最判昭六三・三・二五判時一二九六号五二頁
96 港湾運送契約中の保険利益享受約款[石川組事件]●最判昭五一・一一・二五民集三〇巻一〇号九六〇頁
97 ワルソー条約二二条二項の適用範囲[日本航空損害賠償事件]●最判昭五二・六・二八民集三一巻四号五一一頁
98 航空貨物運送における契約運送人と実際運送人[KLM航空事件]●東京地判昭六〇・七・一五判時一二一一号一二〇頁

II 旅客運送(栗田 和彦)
   
99 回数乗車券の性質[旧回数乗車券効力確認事件]●大判大六・二・三民録二三輯三五頁
100 回数乗車券の失効●名古屋地判平三・三・一五判タ七六四号二四五頁
101 主催旅行と旅行業者の責任[安全確保義務違反事件]●東京地判平一・六・二〇判時一三四一号二〇頁

 ◆第10章 場屋営業(栗田 和彦)

102 使用人の不法行為による場屋主人の責任[高価品横領事件]
●大判昭一七・六・二九新聞四七八七号一三頁    

 ◆第11章 倉庫営業(栗田 和彦)

103 荷渡指図書に基づく寄託台帳の書換え[寄託物占有移転事件]●最判昭五七・九・七民集三六巻八号一五二七頁     
104 倉庫業者の責任[受寄物返還不能事件]●最判昭四二・一一・一七判時五〇九号六三頁
105 質入証券記載事項の効力[品違い倉庫証券事件]●大判昭一一・二・一二民集一五巻五号三五七頁
106 倉荷証券上の免責約款[内容不知約款事件]●最判昭四四・四・一五民集二三巻四号七五五頁
107 倉荷証券と保管料債務負担の記載[保管料債務承継事件]●最判昭三二・二・一九民集一一巻二号二九五頁
108 倉荷証券と裏書の方式[裏書署名欠缺倉庫証券事件]●最判昭五七・七・八判時一〇五五号一三〇頁
109 倉荷証券の受戻証券性[受寄物仮渡し事件]●大判昭八・二・二三民集一二巻五号四四九頁
110 寄託物の仮処分と倉庫業者の業務[保管換え不通知事件]●最判昭四〇・一〇・一九民集一九巻七号一八七六頁

  判例索引/253
  事項索引/259

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