◆はしがき
「六法」とは、直接的には憲法・民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法の六大法典を意味するが、一般的には、これら六大法典を総称するために「六法」の語が用いられることはほとんどなく、「六法」の語は、もっぱら参照の必要性が高い多数の重要法令をまとめて収録した法令集の意味で用いられている。既に古く明治10年代末には、表題に「六法」の語を含む実用的法令集が刊行されており、憲法を初めとする六大法典が形式的に出そろった明治23年以後は一気にその数を増している。それ以後、法令集を「六法」と呼ぶ慣行が定着したものと思われる。
「六法」が実務・研究・学習上の必要に十分に応えようとするならば、収録法令が多く、参照条文や判例等の参考資料も詳しく掲げられていることが望ましい。しかし、その一方で、学習や日常的な業務の便宜を考えると、携帯が容易であり、必要な条文や参考資料を簡単に探せることが望まれる。しかし、必要かつ十分な法令の収録と携帯・参照の便という二つの要請を同時にみたすことは極めて困難である。現に、欧米諸国には「六法」のように便利な書物は存在しない。わが国ではおそらく、法令の簡潔さ、漢字文化、製紙・印刷・製本の優れた技術等が相まって、重要法令のすべてを一冊にまとめることに成功してきたが、近年は、それも限界に達しつつある。
そうした中で、この「デイリー六法」は、学習上の必要に応えることを第一目標として、参照条文を学習に必要で有益なものに限定して、条文中心主義を徹底し、読みやすさを追求するとともに、収録法令については、学習上の必要性の高い基本的な法律を中心としつつ、利用頻度の高い特別法令・条例・規則や関係資料等も掲載することによって、日本法の全体的構造を把握できるように配慮することを基本的な編修方針として、一九九一年秋に創刊され、幸いにして今日まで多くの読者の支持を得てきている。
「デイリー六法」創刊の年である1991年は、バブル経済が崩壊し、「失われた10年」の始まった年であるとされている。これ以後、金融機関等の破綻処理から経済の再生・構造改革に向けた長い道のりが始まる。さらに、1993年には、いわゆる55年体制が崩壊し、立法のメカニズムにも大きな変化が生じた。これ以外にも、IT化の進展等さまざまな要因が作用して、近年では立法活動が極めて活発になり、明治期や第二次世界大戦後に続く、第三の大きな立法の波が押しよせている。しかも、最近は、迅速な改正を可能にするため、細目を政省令に譲る例も多くなり、「六法」に収録されるべき法令の数は飛躍的に増大している。そしてまた、近時の規制緩和・行財政改革・司法改革等々の根本理念は「明確なルールと自己責任原則に貫かれた事後チェック・救済型社会への転換」というものであり、この理念を実現するためには、誰もが容易かつ確実に結果を予測できるように、できるだけ平易な言葉で具体的にルールが定められていることが必要となる。そのため、近年の法令は、条文の数が多く、各条文も長文で詳細になる傾向がある。
法令を平易で具体的なものにすることは、法律を一部の専門家の独占物から誰にでもアクセス可能なものとし、社会の隅々まで法の支配を及ぼすという観点からは、大いに歓迎されるべきことがらである。「デイリー六法」が、創刊にあたって、すべての市民・学生が、基本的な条文を正確に理解し、それを“生きた”ものにするための道筋をつけようという編修方針を打ち立てたのは、司法制度改革等の目指すところを先取りし、いち早く具体化したものであったということができる。
とはいえ、収録されるべき法令の数と量の大幅な増加は、一冊で総てのニーズに対応できるという学習用小型六法の利点の維持を困難にしていることは否定できない。この点、「デイリー六法」においては、これまでも、特別法等については、抄録・抜粋などに加えて、必要な条文のみを参照法令として基本法中に挿入するなどの工夫を凝らしてきた。こうした手法をさらに洗練されたものにすることなど、「デイリー六法」をより親しみやすく役に立つものにするために、最大限の努力を続けていきたいと考えている。
今後とも、読者諸賢のご助言とご教示をいただければ幸いである。
編者を代表して
鎌田 薫
