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取締役という人びと 取締役という人びと

浜辺陽一郎 著

1,400円 四六 288頁 978-4-385-31468-X (品切)

相次ぐ株主代表訴訟、問われる企業倫理、これまでの「日本型」取締役は、いま重大な変革を迫られている。インフォームド・ジャジメントを兼ね備えた、来るべき時代の取締役像をするどく活写する。

1998年6月15日 発行



●本書の内容

本書「はしがき」より

 取締役というのは形式的な地位になりがちで、実際の仕事の様子も目には見えにくい。ワンマンがいるかと思えば、取締役とは名ばかりの雇われ人もいる。法律のタテマエと現実のギャップが大きく、その実態もつかみにくい。その仕事の内容がはっきりとしていないために、取締役の実力とは一体何かということも、漠然としている。だから、取締役という人びとについては、意外と知られていない。……

 すでに取締役になった人も、これから取締役になるかもしれない人も、その部下も、そして取締役を遠巻きに見ているだけの人も、ぜひ、ちょっと考えてみて頂きたい。取締役とは本当に何なのかを。

本書からの引用

(取締役の)「忠実義務」を上司や上役の取締役に忠誠を誓うことだとカン違いしているような取締役もいる。しかし、本当は、この忠実義務は株主に対するものだ。会社法では、株式会社制度を利用する限り、法が定める枠組みから外れたやり方は認めない。取締役は、株主総会で選任されることからも明らかなように、株主の代表として取締役会に送り込まれる。だから、株主から経営の委託を受けた取締役は株主の意を受けて職務を遂行しなければならない。(31頁)

(会社)乗っ取り側の次の手口として、株主から株式を譲り受けてしまい、それとともに前の株主から株主総会での議決権行使の委任状をもらい、そういう委任状をできる限り集めるという方法がある。この段階ではまだ取締役会の承認がないから新しい株主として議決権を行使することはできないが、委任状をもらうことで代理人として議決権を行使できることがある。もし、この委任状によって過半数の議決権を行使できたら、株主総会で取締役会の多数を占める取締役を選び、その上で新しい取締役会に株式譲渡の承認をさせる。そうすれば、晴れて会社乗っ取りは成功することになる。(97頁より)

取締役がごく基本的な商法(会社法)のルールを知っておくべきことは当たり前のようにも思える。しかし、日本では法律のことなどさして重要視されず、形式的なものであるという程度の扱いも見られたし、細かいことは法律家に任せておけばいいという風潮もあった。(中略)ところが、グローバルな流れは、世間の取締役に今までの牧歌的な法感覚からの脱却を求めている。このことは、以前はそれで大丈夫だったとしても、これからはそうはいかないという場合が増えていくことを意味する。(121頁より)

これだけ世の中が安定し、高度化・複雑化すれば、取締役もそれなりの見識や身の処し方が求められる。民主的な運営とか環境問題とかが叫ばれるような社会では、そうした要請にも配慮した判断が取締役にも必要とされる。いたずらに消極的な態度を取れば倫理的に安全であるというわけでもない。その意味で、取締役は倫理的な問題から逃げるわけにはいかなくなっている。そうした前提からすれば、これからは倫理的であるためにビジネスを失うことを心配するなどということはなくなり、むしろ非倫理的であるためにビジネスを失うことのないように努力することが取締役にも求められている。(187頁より)



●目  次

プロローグ どこでボタンをかけちがえたか

   取締役の不倫はプライバシーか  きれいごとで済まされないというが
   取締役の真価が問われる  取締役は国会議員のようなもの

第1章 企業の隅々まで目を光らせて−取締役のお仕事

 取締役の仕事は見えにくい  激務をこなすエネルギー
 集合体から組織体へ  バージョンアップしていくプログラム
 会社の経営を任される役  取締役は経営のプロ
 担当部門の責任も  取締役は一人で何ができるのか
 忠実義務の履き違え  目上を監督する責任
 上司のために働く構造  メンツのためにつぶされる
 「猪突猛進型」にはブレーキを  法務担当取締役は役にたつか
 説明義務は厳しくなくても  なり手がいなくなる?
 取締役の向き不向き

第2章 誰が大企業の取締役になるか−人事抗争の背景事情

 取締役を決めるのは誰か  取締役選択の基準
 「人間性」と「大人しさ」の混同  民主的な取締役選任のはずが
 取締役人事が話し合えない理由  矛盾をはらむサラリーマン取締役
 外部取締役は難しい  当面はブレンド方式か
 少数株主の権利はどうなる  人事抗争の果てに
 世襲の是非  取締役が多すぎないか

第3章 それでも取締役といえるのか−中小企業の取締役

 世襲は当然  なんでもあり?の一人会社
 せっかく会社にするならば  うまくいっている中小企業ほど紛争の危険が
 取締役会の承認が必要なら安心か  定款の不備をつかれて
 書類だけでなく「儀式」も必要  余裕がないのか意識がないのか
 やる気がない経営者も  名目取締役でも責任あり
 一銭ももらっていなくとも  新しい会社の取締役

第4章 重くても仕方のない取締役の責任−株主代表訴訟の現在・過去・未来

 株主代表訴訟のパターン  なぜ株主に訴える権利があるのか
 ほどほどのリスクとほどほどのリターン  重くなる取締役の法的責任
 株主代表訴訟増加の原因  株主代表訴訟は見直すべきか
 株主のリスク  担保提供制度で門前払い
 反原発の株主代表訴訟  企業経営を萎縮させるか
 どういう場合に責任を負うのか  ビジネス・ジャジメント・ルール
 株主代表訴訟を提起された取締役の憂鬱  これからの株主代表訴訟

第5章 ビジネスか倫理か、迫られる選択−企業責任と取締役の倫理

 犯罪は倫理以前  倫理にも三つのレベル
 まちがいだらけの倫理観  会社自体が独立していなければ
 「楽をして儲ける」構造  幅広い制度的欠陥
 はじめから教えもしないでは分からない  広がりつつある倫理規程制定の動き
 コンセンサス作りの第一歩  法は二つに分けられる?
 「赤信号みんなで渡れば……」を逆に  商業道徳は倫理的か
 「接待」は倫理的か  メンツを守ろうとして
 広報担当取締役の手腕とは  倫理的であるためにビジネスを失うか

第6章 取締役会議の活性化のために−取締役会復活のシナリオ

 シャンシャン取締役会  準備が大切
 取締役会通知に議題は不要  ちゃんと会議をやること
 報告されても分からなければ  専門家の意見を信頼すれば
 議事録の証拠価値  議事録よりも議論の中身
 少数意見を述べる勇気  なぜ「会議の達人」になれないか
 「和」のせいにする筋違い  インフォームド・ジャジメント
 「決断」から「判断」へ  取締役は孤独か

第7章 悔いを残さない総仕上げとは−取締役の身の引き際

 取締役の終了事由あれこれ  自ら身を引くべきときが分からない
 会社を見限るとき  クビになりやすい?
 能力があるのかないのか  代表取締役の解任劇
 恐怖で支配する独裁者の末路  逮捕される取締役
 任期二年の意味  長くなるほどダメになる
 取締役の高齢化  いつまでも金儲け
 難しい後継者の育成  何が人生としての「成功」か

エピローグ−これから期待される取締役

   新しい取締役像  財界という「業界」にも変化が
   無知は罪  増えていく取締役



●『取締役という人びと』

(「ぶっくれっと」131号「自著自讃」より)

浜辺陽一郎

 書店に行くと取締役に関する本は結構多い。取締役向けの法律専門雑誌もある。その意味で、取締役にとって必要な情報は世の中に山のようにある。しかし、情報があるのと、人々がそれに慣れ親しんでいることとは別だ。

 昨今の企業不祥事は、日本社会の病理をまざまざとみせつけてくれたが、なかでも企業における「取締役という人びと」のおそまつな法感覚が際立った。どうも法律的なことは二の次、三の次だ。これからそういうことではやっていけない。そんなことは自明なのだが、企業社会の法律の問題点を本音で語っている本はあまり多くない。読んだ瞬間に忘れてしまうような法律本は役に立たないし、買って置いておくだけの本ばかりをそろえても生きた知識は身につかない。取締役の方々はプライドも高いし、弁護士の分際で偉そうなことを書くと依頼者に逃げられると思われているのか、なかなか書きにくいことも多い。

 そこで書いてみたのがこの本。あくまでも読み物として書いた。読み物であるからには、つまらない法律の解説に終始しているわけにはいかない。はしがきとエピローグを除けば、女性に関わる話に始まり、女性に関わる話で終わっているというのも意識的にそうしたものだ。とっつきやすいテーマから入るというのは定石だが、これを「取締役」というテーマで、かつ真面目に論じているところがミソである。

 本書は取締役に関する主だった有名な裁判例を踏まえ、世間を騒がせた事件も色々と出てくる。ただし、どこの誰かの名前は伏せてあるので、一体誰のことを書いているのか想像しながら読むのも一つの楽しみ方だろう。どこにでもいそうでいて、ひょっとしたら、ほんの身近にいる取締役のことかもしれない。

 しかし、今まであった事件の分析や解説にとどまっているだけでは仕方がない。取締役のことを真面目に考えれば考えるほど、従来の通り一遍の「取締役論」では納まらなくなり、「これからの取締役はどうあるべきなのか」という問題に取り組まざるをえなくなった。前著『弁護士という人びと』と同じように、現代のプロフェッションであるはずの取締役という人びとの問題は「倫理」の問題に突き当たる。

 本書は「豪華」七章立てで、各章ごとに大きなテーマがある。どれも現代のサラリーマンや取締役にはちょっと面白くない話も入っているかもしれない。編集者とは「こういう本には多少毒がないとね」という話をしたのだが、全体としてはまだおとなしすぎたかもしれない。まあ、行間から滲み出てくるメッセージを汲んでいただければ幸いである。

 現場にいる取締役の人々にとっては、それぞれの問題に対して具体的な解決や処方箋も欲しいところだろう。そこで、本書にはできるだけノウハウ的な要素も盛り込んだ。本全体としての流れは、章が進むにしたがって高度な問題に迫ろうとしたつもりだ。

 こうなれば、あとは読んで考えてもらうだけのことである。ただ、どちらかといえば、この本はもう既に取締役を長年勤めてきた人よりもこれから将来取締役になろうとしている人か、あるいはなりたいと思っている人に、より多く読んでもらいたいと思っている。なまじ実力もないまま取締役になってからでは遅い。取締役になる遥か前から本書に書いてある程度のことは常識として知っておいてもらいたい。そうすれば何か得するかも。

 現在、日本は不況の真っ只中で先が見えにくいという。本書は取締役が本来の仕事をすることによって、現在の危機を乗り越えていくことを願って書かれた。健全な企業社会の構築こそが堅実な発展の土台となる。政策不況か何か知らないが、とにかく今の閉塞状況の突破口にもなれば、と本書を読み直しながら、ちょっとそんな大それた思いを抱いた。

(はまべ・よういちろう 弁護士)

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