初めて法学を学ぶ者に最適の入門書。多様かつ多彩な法学分野を簡潔かつ平易な表現で解説。法律文書の読み方・書き方、膨大な法律資料の検索方法も丁寧に解説。付録に「法律用語和英小辞典」付き。
日本社会において、近年、法の果たす役割が重要性を増している。市民生活においては、生活上生じる様々な紛争を法的に解決すること(「裁判に訴える」行動)が普通となってきている。また、グローバル化した経済のもとでのビジネス活動においては、紛争解決の基準としての共通の法(国際取引法など)の形成が進み、それに基づいて紛争が解決されることが通常となってきている。各企業においては、経営における法令遵守(コンプライアンス)体制の強化(入札談合への関与の禁止など)が必須となってきている。
ところで、法律学はローマ法以来の伝統を引きついで今日に及んでいるが、その対象となる領域には、(1)法解釈学の領域、(2)外国法・比較法を研究する領域、(3)法哲学や法思想などを研究する領域、(4)ローマ法以来の法の歴史や明治維新期にみられたような法の継受に係る問題を研究する領域、(5)法の社会における機能・役割の分析を対象とする法社会学の領域などがある。
本書は、変貌を遂げつつある現代の法律学への入門書として、特に「法とはなにか、法の領域にはどのようなものがあるか」「法学研究の方法とはどのようなものであるか」「法律家と裁判等紛争処理制度の実態、法律家の養成のシステムはどのようなものか」について重点的に、かつ簡潔・明快に説明することを目的としている。
ここで「法とはなにか・法の領域にはどのようなものがあるか」という点については、(1)法と倫理の違い、法と社会の関係、法の歴史、大陸法とコモン・ローの違い、日本人の法意識(法の機能・性格)の分析、(2)公法・私法、民事法・刑事法、国内法・国際法などの各法領域の内部編成と相互関係(法の体系・システム)の解明などが内容となる。
つぎに「法学研究の方法とはどのようなものであるか」という点については、「法律文書の読み方・作成方法」ということで、(1)リーガル・リサーチの方法、(2)法律文書の読み方・作成方法の基本を示し、「法律学研究の方法論」ということで、(1)法律論文の構成の仕方・書き方、(2)引用や出典表示のルールを明らかにすることが内容となっている。
さらに「法律家と裁判等紛争処理制度の実態、法律家の養成システムはどのようなものか」という点については、日本における企業法務や法廷通訳・法律会議通訳まで含めた広義の法律家の現状をできるだけ明らかにするとともに、法的紛争処理に係る制度の概略を示すことが内容となっている。
本書は、直接的には、明治大学法学部における1年生の法律学への導入科目「現代法入門」のテキストとして編まれたものである。法学部で4年間にわたって法律学を学んでいくための基礎を身につけてもらうことを目標にしている。「現代法入門」の講義においては、ほぼ本書の編成に沿った形で通年で講義が進行していくが、その特徴の一つは、法学部の専任教員と並んで裁判官、検事、弁護士、国会議員、内閣法制局、企業法務部の実務家等が各一度ずつであるが講師として教壇に立ち講義をしていることであろう。これにより、法律学を学び始めた1年生が法律家や立法者について具体的なイメージを法律学研究の早い時期から形成することが期待されている。
本書はまた、法に関心を有する市民に広く利用されうるものであることも想定して編集されている。新たに導入された裁判員制度、検察審査会制度のもとで市民の裁判への関わりは過去に例をみないほどに密接なものとなっているが、そのようなことから生じた市民の法への関心に応えようとするものである。
なお、巻末付録として「日本法和英辞典」を載せている。現在日本政府の法整備支援事業が行われているが、これは明治維新で近代法を導入して以来140年にわたり独自に発展してきた日本法の軌跡やその内容を世界に知らせることも目的としていると解される。そのような努力もあり日本法に対する諸外国からの関心が高まりつつあるなか、日本法を紹介する文章や、さらには日本法と諸外国法を比較する法律論文・レポートを英語で書く機会も増えている。「日本法和英辞典」をおいたのはそのような需要に少しでも応えようとするためである。
本書の読者において、法律学における基礎的知識を確実に身につけ、法律学の研究方法を習得し、また法律家や紛争解決制度の実態を知って、法律学への興味を喚起し、持続してもらえるならこれにまさる幸いはない。
最後に本書の刊行にあたっては、完成稿の仕上がりを忍耐強く待っていただき、注意深い編集作業をしていただいた三省堂編集部の鈴木良明氏に厚く御礼申し上げる。
第1部 法とはなにか・法学方法論
第1章 法について
第1節 法とはなにか、近代法と現代法 (高橋岩和)
T 法とはなにか
1 法の意味 2 法と権利 3 法と権力 4 法と正義
U 近代法と現代法
第2節 法の分類 ──「公法・私法」「実体法・手続法」「国内法・国際
法」 (高橋岩和)
T 法の分類 ── 公法と私法
U 法の分類 ── 実体法と手続法
V 法の分類 ── 国内法と国際法
第3節 法解釈学と法社会学、法と経済学 (高橋岩和)
T 法解釈学
U 法社会学
V 法と経済学
第2章 法と社会 (村山眞維)
T はじめに
1 社会現象としての法 2 社会統治の仕組みとしての法
U 法と社会との関係がなぜ問題となるのか
1 法社会学の出現の背景 2 日本における固有の問題
V 法と社会に対する視座
1 社会が法に及ぼす影響 2 法が社会に及ぼす影響
W おわりに
第3章 法と歴史 ── 不動産所有と担保に関する法観念の変遷 (村上一博)
T 法史学の存在意義
U 近世の田畑所持とその制限
1 概説 2 田畑永代売買の禁止 3 山城国乙訓郡長岡の田畑売買証文
V 近代的不動産所有と担保法制
1 不動産売買契約 2 不動産担保法制 3 新治裁判所における不動産質処理
第4章 大陸法とコモン・ロー ── 法体系論 (小室輝久)
T 大陸法とコモン・ローの日本法への影響
U 大陸法とコモン・ローの歴史的生成・発展
1 ヨーロッパ古来の法と裁判 2 コモン・ローの生成・発達 3 ヨーロッパ大陸法の生成・発展
V 大陸法とコモン・ローの諸特徴
1 法の断絶性と連続性 2 制定法主義と判例法主義 3 演繹的思考と帰納的思考 4 公法・私法の区別
5 実体法と手続法の関係 6 職権主義と当事者主義 7 陪審制 8 法曹一元 9 法学教育・法曹養成 10 法の支配者 11 小括
第5章 法律文書の読み方・作成方法
第1節 リーガル・リサーチの方法 (佐々木秀智)
T 法情報調査の基本枠組み
U 法情報調査の流れ
1 テーマの設定、事実・問題の把握 2 法情報の収集
V 法情報・資料の種類
1 法令情報 2 判例情報 3 法律書籍・論文・記事など
第2節 法律論文の構成と叙述方法、注の方法 (高橋岩和)
T 法律論文の構成と叙述方法
U 法律論文執筆における引用、注とはなにか
第3節 訴状、準備書面、判決書の構造の理解、読み方の基本 (芳賀雅顯)
T 訴 状
1 訴状の必要性 2 訴状の記載事項 3 訴状の審査
U 準備書面
1 準備書面とは何か 2 準備書面の記載事項 3 準備書面の提出・交換 4 準備書面提出の効果
V 判決書
1 判決書の記載事項 2 判決主文のもたらす意味
第2部 市民生活・経済社会と法 T
第6章 民 法
第1節 契約法 (有賀恵美子)
T 契約の意義
1 契約の締結 2 契約自由の原則とその制限 3 契約が守られなかった場合 4 契約の拘束力と無効・取消事由
U 契約が無効になる場合
1 意思無能力 2 意思の不存在 3 強行法規・公序良俗違反 4 無効の主張
V 契約を取り消しうる場合
1 制限行為能力 2 瑕疵ある意思表示 3 取消の主張
W 消費者契約法
1 消費者契約の特殊性 2 民法と個別業法による対応と限界 3 消費者契約法による規律内容
第2節 物権法 (神田英明)
T 物権法概説
1 はじめに 2 近代物権法の成立とその特徴
U 物権の性質・客体・効力 ── 債権との対比を中心に
1 物権の性質 2 物権の客体 3 物権の効力
V 物権の種類
1 物権法定主義 2 民法が定める物権 3 商法その他の特別法が定める物権 4 慣習法上の物権
W 公示の原則と公信の原則
1 公示の原則 2 公信の原則 3 不実登記を起点とする民法94条2項類推適用論の展開
第3節 家族法 (星野 茂)
T はじめに
1 家族と家族法 2 家族法の変遷 3 氏と戸籍
U 家族法の構成
1 親族法の構成 2 相続法の構成
V 論 点
1 家族法と財産法との違い 2 家事紛争はどのように解決されるか
第7章 商 法
第1節 私法学総論 ── 民法と商法の体系について (燒リ正則)
T はじめに
U 民法の体系
V 商法の体系
1 序論:民法と商法の関係 2 商法の体系 3 民法の商化
第2節 会社法 ── 会社とはなにか (南保勝美)
T 個人企業と共同企業
U 会社法上の会社とは ── 営利を目的とする社団法人
V 会社の種類 ── 株式会社と持分会社
W 株式会社
1 株式会社の基本的特色 2 機構上の特色 3 大規模公開会社の機関
X 大規模公開会社のガバナンス ── 内部統制システム
第8章 経済法 (高橋岩和)
T はじめに
U 独占禁止法 ── 市場経済体制の法的保障
1 独禁法の歴史 2 独禁法(日本)の内容
V 産業法 ── 各種事業法と独禁法からの適用除外
W 論点 ── 著作物再販の妥当根拠等
1 著作物の再販売価格維持制度 2 著作権法に基づく頒布権の行使と独禁法の適用
X おわりに
第9章 民事訴訟法 (芳賀雅顯)
T 民事紛争と民事訴訟
1 民事紛争 2 処分権主義
U 民事訴訟法と実体法の関係 ── 法的三段論法
V 民事保全・民事執行との関係
W 民事訴訟手続の流れ
1 訴訟手続を起こすのはいつまで可能か 2 どのような救済方法が認められるのか 3 訴状にはどのようなことを記載するのか 4 どの裁判所に訴えを提起するのか 5 誰が当事者になるのか 6 どのようにして審理が進むのか 7 訴訟手続の終了 8 判決に不服があるとき
第3部 刑事法
第10章 刑 法 (内田幸隆)
T 刑法概説
1 刑法の目的・機能 2 刑罰の正当化根拠
U 法人処罰の根拠
V 窃盗罪の保護法益
第11章 刑事訴訟法 (山田道郎)
T 刑事手続と民事手続
1 目的・対象の相違および主体の相違 2 刑事手続における被害者の地位 3 判決の相違 4 無罪の推定 5 付帯私訴 6 訴訟構造
U 日本の刑事手続
1 日本の刑事手続 2 現行刑事手続の特色
第4部 国際社会と法
第12章 国際法 (水田周平)
T 国際法の基本的枠組み
1 はじめに 2 国際法の意義:合意規範としての国際法
U ケース・スタディ:日本の調査捕鯨とNGOの抗議活動
1 事案の概要 2 検討すべき点 3 捕鯨は国際法違反か? 4 公海上の不法行為をどのように規制すべきか?
V おわりに
第13章 国際私法 (芳賀雅顯)
T 国際私法はなぜ必要か
1 生活関係の国際化 2 世界的な統一私法 3 法廷地法による処理とフォーラム・ショッピング 4 国際私法
U 国際私法と国際裁判管轄の関係
V 国際裁判管轄
1 国際裁判管轄の決定基準 2 説例の場合
W 国際私法
1 法律関係の性質決定 2 連結点の確定 3 準拠法の決定 4 準拠法の適用 5 説例の場合 6 説例以外の場合
第5部 市民生活・経済社会と法 U
第14章 消費者法 (高橋岩和)
T はじめに
U 日本における消費者の地位
V 消費者法の編成と運用体制
1 消費者法の編成 2 消費者法の運用体制
W 消費者被害の構造と消費者被害救済のあり方
1 消費者被害の現状と原因 2 消費者被害救済とその方法
X 消費者の組織化
第15章 知的財産権法 ── 著作権の保護期間と著作物の私的利用の範囲
をめぐって (高橋岩和)
T 著作権法概説
1 著作者 2 著作物 3 著作者の権利
U 著作権の保護期間 ── 著作権は「永久的に」保護されるべきか
V 著作物の私的利用の範囲─著作物の「私的複製」はどこまで許されるか
第16章 情報法 ── インターネット規制と表現の自由 (佐々木秀智)
T はじめに
U 名誉毀損・プライバシー権侵害をめぐる法的問題
1 名誉毀損 2 プライバシー権侵害 3 メディア別の対応
V インターネット上の名誉毀損・プライバシー権侵害
W インターネット上の性表現規制
1 性表現規制と表現の自由 2 インターネットへの対応
X インターネット規制と表現の自由の調整に向けて
第6部 日本の法律家
第17章 日本の法律家(1)法曹三者
はじめに (高橋岩和)
1 法律家 2 古典的プロフェッションとしての実務法曹
第1節 裁判官 (高橋岩和)
1 最高裁判所の裁判官 2 下級裁判所の裁判官
第2節 検察官 (高橋岩和)
1 検察官の職務 2 検察官の任免と組織
第3節 弁護士 (高橋岩和)
第18章 日本の法律家(2)企業法務 (燒リ正則)
T 企業法務が対象とする法律関係
1 はじめに 2 企業法務が対象とする対外的法律関係 3 企業法務が対象とする対内的法律関係
U 最近の企業法務で注目に値すると思われる事柄
1 コンプライアンス 2 企業法務の担い手としての企業内弁護士
【コラム】企業法務 (伊達裕成)
第19章 法律家の養成
第1節 実務法曹の養成 ── 法学部、法科大学院、司法研修所 (神田英明)
T 法曹養成の基本理念
U 司法試験
1 新司法試験 2 旧司法試験 3 司法試験予備試験
V 法科大学院
1 法曹養成制度の中核としての法科大学院 2 入学試験 3 法科大学院における人材の多様性の確保について 4 法科大学院の教育内容
W 法学部教育の位置付け
X 新司法修習
第2節 リーガル・トランスレータの養成 (伊賀良子)
T はじめに
U リーガル・トランスレータとは
V 必要とされる場面
W 基礎能力と通訳技術および法知識の習得
1 基礎能力 2 通訳技術 3 法知識
X 考 察
1 適正な通訳とは/270 2 職業倫理/271
第7部 日本の紛争処理
第20章 日本の裁判制度と裁判の実際(1)民事裁判 (芳賀雅顯)
T 序 論
U 調 停
1 調停手続の概要 2 調停手続の利用件数
V 民事訴訟
1 紛争処理の最後の砦としての民事訴訟制度 2 法の担い手としての裁判官および弁護士の数 3 本人訴訟の数 4 訴訟の終了原因 5 審理期間 6 不服申立
【コラム】医療裁判と法
(鈴木利廣)
第21章 日本の裁判制度と裁判の実際(2)刑事裁判 (黒澤 睦)
T はじめに
U 刑事手続の大きな流れ
V 刑事裁判制度とその実際
1 起訴前手続 2 公訴の提起 3 公判手続 4 救済手続
第22章 日本の裁判外紛争処理制度 ── 消費者被害に係る行政型ADRの実態 (高橋岩和)
T はじめに
U 消費者被害と行政型ADRによる救済
V 神奈川県における消費者の権利の確立と消費者被害救済制度の実際
1 序説 2 消費者被害救済委員会の活動
W 消費者被害救済にみる行政型ADRの今後