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  受刑者の法的権利 第2版

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受刑者の法的権利 第2版

菊田幸一 著

4,800円 A5判 336頁 978-4-385-32132-5


2001年刊行の現行版を改訂。日本の矯正行政の実証的研究。刑事収容施設及び被収容者の処遇に関する法律(旧監獄法)と憲法との関係および受刑者の法的地位(権利)の実態を、国際標準も参照しリアルに検討。

初版 はじめに   第2版 はしがき   目 次

2016年11月10日 発行



初版 はじめに

 矯正関係における基本法は、1908(明治41)年の制定にかかる監獄法である。ところが、わが国の矯正において、実質的な被収容者の権利の保障・制限にかかわるのは、それ以下の政令、省令による、いわゆる矯正法令であり、さらに、ほんらいは法的拘束力を有しない訓令・通達(国家行政組織法14条2項)に大きく依存している。むろん政令・省令はもとより、その他の訓令・通達においても法律を根拠とするものであり、その基本理念が憲法にあることはいうまでもない。ところが、ほんらい矯正の実務の細部にまで「法律による行刑」で対応できないことを根拠として、各種の行刑上の裁量権が付与されている。その裁量権は法の理念をこえるものであってはならないものであるが、現実には、つねに枠をこえる危険性を有している。

 かつての特別権力関係論は、そのような枠をこえ、施設長に包括的支配権を付与する論拠を提供してきた。しかし、こんにちでは行刑の法違反は、それ自体が司法判断の対象となることが確立している。ところが、たとえば最高裁昭和55年12月19日判決では「行刑及び未決拘禁に関する通達等は、もともと監獄法令を適用、実施するにあたっての職務上の指示ないし指針であって、収容者の目に触れることを前提として作成されたものではない。……通達等の定める収容者の処遇の内容そのものは特に秘匿する必要がない場合であっても、……これを収容者に閲読させることにより、無用の誤解を与え、ひいては不安、動揺の原因となりうるものがありうる」(訟月27巻3号552頁)として、被収容者の図書の閲読許可に際し通達類の部分を含めた雑誌の閲読不許可に違反はないと判示している。通達の内容そのものよりも、被収容者に見せること自体が不要であると判断している。

 他方では、東京地裁昭和50年11月21日判決(訟月21巻12号2493頁)では未決拘禁者に対する新聞図書閲読制限に対し、監獄法31条、同法施行規則86条1項および法務大臣訓令(昭和41年12月13日矯甲1307号「収容者に閲読させる図書、新聞紙等取扱規程」)3条1項(@証拠隠滅に資するおそれないもの、A身柄の確保を阻害するおそれのないもの、B紀律を害するおそれのないもの、に限り閲読させる)に依拠し、支障となる部分の切取りが「拘禁目的」からやむを得ないものであったと判示し、「これらの法令、訓令並びに通達は、いずれも監獄内における未決拘禁者の新聞図書等閲読の制限の実質的根拠及びその範囲等に関する基本的観点として、その制限範囲を順次具体的に定めたものと解せられるのであり……憲法19条、21条に違反するものでない」としている。

 ある場合には、被収容者に秘匿することが正当であるとし、他の場合は、その秘匿している通達・訓令を根拠に申立てを棄却している。つまり、いずれにしても行刑に対する司法判断自体が、被収容者に対し、アウト・ローの観念で支配されている疑念が、この二つの判例からも拭えない。わが国の行刑は「法律による行刑」には、はるかに遠い存在であり、しかもそれを司法が追認している。これらの諸問題について、個別的に理論と実際から検討するが、これらの判例は、現実の行刑のほんの一部分を垣間みるにすぎない。受刑者が訴訟を提起するということは、間違いなく仮釈放の希望を絶たれ、あらゆる手のいやがらせを覚悟しなければならない。そのうえで多くの場合において負けの結末である。このような想像を絶する犠牲のうえでの裁判例の積み上げを、単に判例として放置しておくこと自体が問題とされなければならない。なぜ負けなのか、この先も負けるはずのものなのかを検証する必要がある。むろんこれまでにもこの種の検証はなされている。しかし、その大部分は行刑当局か、それに近い人物による作業であった。しかし、判例解釈そのものまで行刑当局の恣意的判断にゆだねているわけにいかない。こんにちの行刑は、ひとり行刑当局に任せておくべき問題ではない。裁判例そのものに客観的検討が加えられなければならない。人権問題は普遍的であり、日本的行刑で人権が語られて合理化される課題ではないからである。無数の問題提起した受刑者の痕跡を無駄にしてはならない。

 本著は判例時報(1531号〜1597号、1995年〜1997年)に22回にわたって連載したものに加筆したものである。ところが、この数年において裁判にも顕著な変化がみられる。たとえば平成9年11月25日の高松高裁判決(保安情報80号1頁)では弁護士との接見時における看守の立ち会いを違法であると判示している。こうした裁判所による積極的な違法判断の背景には、国際人権規約など国際的な影響もあるが、民間による「監獄人権センター」の設立や、マスコミによる行刑の実態報告等の影響もあるものと判断される。

 受刑者による訴訟提起はその背景に自由を拘束されているという特殊な状況がある。その問題提起は自ずから訴訟提起者の特殊な状況と無関係のものであろうはずがない。これに対する血も涙も感じられない裁判がいかなる場においても真理であるとは思わない。しかし最近の裁判の動きには血と涙を回復させるかの兆しがみられる。

 本著執筆に際しては、監獄人権センター、日本弁護士連合会(法制課)および長年にわたる僚友である鴨下守孝氏(現・仙台矯正管区長)による資料の提供、同氏の著書『新行刑法要論』(1980年、東京法令出版)に負うところが大きい。また朝倉京一氏(元・法務省矯正局参事官、現・弁護士)にも長年にわたり御教示を受けてきたうえ、同氏の著書『改訂監獄法(ポケット註釈全書)』(1970年、有斐閣)に負うところも大きい。この御両人らにまず感謝申しあげる。立場は異なるが、本書を通じさらなる叱咤、批判をいただき次の課題にしたいと念じている。

 本書がわが国における受刑者の法的権利にいささかの貢献するところがあれば幸いこれに過ぎるものはない。なお、菊田幸一編著『受刑者の人権と法的地位』(1999年、日本評論社)も併せ参照いただければ幸いである。


2001年4月

菊田 幸一


第2版 はしがき

 本著出版から15年が過ぎた。この間に「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」が成立した(平18・5・24施行)。

 改訂作業では、当然ながら新法下での裁判例検討作業に重点をおいたが、新法施行後10年が過ぎても、新裁判例は10件に満たない(選択基準に左右されるが)。しかも数少ない裁判例でも、旧監獄法下での裁判例を基本に論理構成されているきらいがある。

 新法129条1項「刑事施設の規律及び秩序の維持を害する結果を生ずるおそれがある」の文言は、監獄法47条1項「不適当ト認ムルモノハ其発受ヲ許サス」に該当する。ほぼ100年目に成立した新法も、実質的に「法の支配」には遠い存在であり、司法がそれに追従している。

 2020年の東京オリンピック開催時に、第14回国連犯罪防止会議が日本で開催される。この会議では、「国連被拘禁者処遇最低基準規則」改訂(マンデラ・ルール)が採択される予定である。

 残念ながら日本の行刑は、国際的圧力に頼るしかない。本書が何らかの意義ある資料となれば幸いである。

 本著は、三省堂編集部のご理解と助力なくしては第2版に至らなかった。ここに衷心より感謝致します。


2016年8月20日

著 者


目   次

第2版 はしがき  i

初版 はじめに  iii

第1章 収容関係

[1] 刑事施設拘禁関係の特殊性 1

1 特別権力関係論 ──── 1

2 比較較量論 ──── 7

3 「明白かつ現在の危険」の原理 ──── 11

[2] 裁判を受ける権利 12

1 証拠書類を閲読する権利 ──── 13

2 訴訟準備のための防御権と外部交通権 ──── 14

3 受刑者の法廷出頭権 ──── 15

4 義務づけ訴訟、違法確認など ──── 20

5 行政事件訴訟で勝訴した事例 ──── 21

6 行政事件訴訟の対象とされたが却下または棄却された事例 ──── 23

7 裁判を受ける権利 ──── 24

[3] 新法における分類と不服申立て 25

1 累進制と分類 ──── 25

2 新法における受刑者の分類 ──── 26

3 新法における分離処遇の課題 ──── 29

[4] 移 送 31

1 法的性質 ──── 32

2 移送の告知義務 ──── 36

3 移送の相当性 ──── 37

[5] 独居拘禁 39

1 独居拘禁の法的性質 ──── 40

2 昼夜独居 ──── 43

3 旭川刑務所厳正独居事件 ──── 49

4 国際基準に違反 ──── 54

[6] 戒 護 55

1 制裁具の使用 ──── 55

2 保護室拘禁 ──── 57

3 死刑囚の特殊房 ──── 61

4 全裸検身 ──── 62

第2章 作 業

[1] 刑務作業 65

1 禁錮刑受刑者の勤労の権利と義務 ──── 65

2 懲役刑受刑者の就労の義務 ──── 67

3 作業報奨金の法的性質 ──── 68

4 報奨金の削減 ──── 72

5 その他の諸問題 ──── 74

[2] 刑務官の職務上の注意義務 76

1 戒護上の注意義務 ──── 76

2 作業上の注意義務 ──── 80

3 医療上の注意義務 ──── 83

4 刑務官の不法行為責任 ──── 87

第3章 教 育

[1] 図書・新聞の閲読 91

1 未決拘禁者の閲読 ──── 92

2 既決拘禁者の閲読制限 ──── 99

3 死刑囚の閲読制限 ──── 106

4 購読紙の一部削除 ──── 110

5 書籍の証拠上程方法 ──── 112

6 閲読誌の冊数制限 ──── 114

7 閲読時間の制限 ──── 117

8 証拠書類の閲読 ──── 117

9 新聞紙の閲読 ──── 118

10 閲読禁止の根拠 ──── 122

[2] 宗教の自由 123

1 信仰の自由と収容の目的 ──── 124

 宗教家への公金の支払い ──── 127

3 受刑者への宗教の強制 ──── 130

4 死刑確定者への宗教の強制 ──── 131

5 刑務所における宗教 ──── 132

6 アメリカにおける裁判例 ──── 133

第4章 給 養

[1] 糧 食 137

1 憲法25条と糧食給与基準 ──── 137

2 糧食の一般基準 ──── 139

3 アメリカの給食 ──── 144

[2] 喫 煙 145

[3] 差入れ・自弁・領置・宅下げ 148

1 未決拘禁者への差入れ ──── 149

2 受刑者への差入れ ──── 155

3 自 弁 ──── 157

4 領置・宅下げ ──── 160

5 新法における差入れ・自弁・領置・宅下げ ──── 163

第5章 外部交通

[1] 在所者と外部との面会 165

1 未決拘禁者の面会 ──── 165

2 受刑者の面会 ──── 170

3 死刑確定者の面会 ──── 181

4 面会の意義 ──── 191

[2] 信書の発受 192

1 未決拘禁者の信書の発受 ──── 194

2 受刑者の信書の発受 ──── 203

3 死刑確定者の信書 ──── 210

4 信書の発受と人権 ──── 214

[3] 著作および著作物の発表 215

1 未決拘禁者の著作 ──── 216

2 確定死刑囚の著作発表 ──── 220

3 既決囚の著作 ──── 224

4 刑事施設における「著作」 ──── 226

5 受刑者の表現の自由 ──── 227

第6章 保健と医療措置

[1] 保 健 229

1 頭 髪 ──── 229

2 入 浴 ──── 232

3 運 動 ──── 233

[2] 医療措置 236

1 医師不足 ──── 236

2 法条の有効確認 ──── 238

3 医療行政上の不当 ──── 239

4 医療技術上の過失 ──── 242

[3] 医療措置に関する最高裁判断 247

第7章 懲 罰

[1] 懲罰と適正手続 249

1 懲罰手続の不備 ──── 249

2 懲罰事例 ──── 253

3 未決勾留中の懲罰 ──── 259

4 懲罰の量定 ──── 260

5 行政手続の保障原則 ──── 263

6 刑事施設法の懲罰規定 ──── 265

7 アメリカの懲罰 ──── 266

8 国際準則と懲罰 ──── 269

[2] 軽屏禁罰と行動の規制 272

1 運動・入浴の禁止と軽屏禁 ──── 273

2 その他の懲罰と軽屏禁 ──── 278

3 未決拘禁者の軽屏禁 ──── 280

4 刑事施設法の閉居罰 ──── 281

第8章 刑務官の職務権限と守秘義務

[1] 刑務官の職務権限 283

1 保安作用の内容と限界 ──── 283

2 違法とされた事例 ──── 286

3 適法とされた事例 ──── 288

[2] 刑務官の守秘義務 291

1 職務上の秘密 ──── 291

2 被収容者の身分帳簿 ──── 292

3 接見表・書信表、願箋・診療録 ──── 294

第9章 代用監獄

1 代用監獄制度の意義と弊害 ──── 297

2 代用監獄の問題点 ──── 300

判例索引  303

事項索引  316