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在学契約上の権利と義務 在学契約上の権利と義務

中野 進 著

2,000円 四六 280頁 978-4-385-32113-X (品切)

入学から卒業にいたるまで学校現場でおこるさまざまな事例を素材に、「在学契約」の観点から問題を整理し、生徒・親・教師のそれぞれの権利・義務を捉え直す。教育現場の実態をふまえた「在学契約論」。

1999年10月20日 発行



●著者紹介

中野 進(なかの・すすむ)
1926年 大阪生まれ。1950年 東京大学文学部卒業。1989年まで都立高校に勤務。1992年から1997年まで中央大学非常勤講師。全国高等学校教育法研究会会員。日本教育法学会会員。

主要著書(共著)
柿沼昌芳編著『生活指導の教育法的検討』学事出版、1986年
坂本秀夫編著『生活指導の法的問題』ぎょうせい、1987年
坂本秀夫・中野進編著『生徒の学習権が危ない』ぎょうせい、1989年
坂本秀夫・山本廣三編著『文部省の研究』三一書房、1992年
柿沼昌芳・永野恒雄編著『問題をくり返さない特別指導』学事出版、1992年
ほか論文多数



●はじめに

 学校教師は権力者か

 学校の教師は、教科教育における学習成績評価権と生活指導における懲戒権という二つの権力によって、学生・生徒に君臨しているように見える。さらに指導という名目で、指示に従うことを命令し、従わない生徒には問題生徒のレッテルを貼る。このような教育評価権・懲戒権・生活指導権は、はたして教師の権力なのであろうか。また、それらはすべて国から法的に授権されたものなのであろうか。否である。教師の権力的支配は、教育にふさわしくないばかりか、ときには教育を破壊しかねないにもかかわらず、現実には学校の秩序維持という名目で、安易に肯定され、通用している。体罰は法の明文で禁止されているのに、相変わらず横行し、体罰に至らない有形力という脱法的表現が罷り通る。学校制度や入試選抜制度の改革がつぎつぎに進められて、高校入試では内申書の比重がいっそう高まるとともに、評価権の威力も拡大されている。

 教師と生徒はいつも信頼と愛情で結ばれているといわれる。ところが現実の姿を見ると、必ずしもそうとは言い切れない。むしろ、教師と生徒が対立する場面にしばしばぶつかる。そこで考える。いったい、教師と生徒が対立することは、まして生徒が教師に反発することは、否定しなければならないことであろうか。もちろん、どちらかが暴力的行為に走るならば教育は崩壊するであろうが、対立がいつも悪いとは限るまい。対立の原因を的確に探し出すことができるならば、その中から新しい何かが生み出される契機にもなろう。

 学習権は、社会権的基本権であるとともに自由権的基本権でもある。教師には、生徒の教育を受ける権利を保障すべき義務があるが、その義務は、学問の自由・教育の自由に立脚してはじめて教育専門職者としての水準を維持・向上させることができる。一方、学校内でも生徒の自律権・自己決定権は尊重されなければならない。生徒の自律権とは、生徒の自由といってもよい。本来は、教師の教育権と生徒の自律権との調和が保たれなければならないはずである。一方が優先されることによって、他方が無視されたり軽視されることがあってはならない。それぞれが、ともに本来の機能をゆがめられることなく十分に発揮されなければならないはずである。そうなって初めて教育本来の姿を取り戻すことができる。

 学校信仰と学校批判は同根

 学歴社会という言葉は少し古くさくなったようであるが、学校信仰はまだまだ衰えていない。何か事が起こると学校の欠点が指摘され、学校改革・教育改革が叫ばれる。近ごろはあまりにも改革のテンポが速く、現場教師は上から命じられる研修に追い回され、ようやく慣れたと思うとまたしても制度改革である。そこでは教師は権力者どころか、専門職者というにもほど遠い。かくして教師は、下には強いが上には弱い者になる。教師管理が強まれば強まるほど、教師の生徒に対する支配・管理も強められる。

 学校には世間から大きな期待が寄せられている。昔は、職人に学問はいらない、進学するよりも年季を入れて腕を磨くことが大事だといわれたが、近ごろは誰もが、できたら上級学校に進学したい、勉強はあまり好きではないが大学へは行きたい、行かせたいというようになった。そこで、学習成績を上げるように学校に熱いまなざしが送られる。学校だけでは頼りないと、早くから塾にかよわせる。しかし塾は実力をつけることはできても、内申書は学校が頼りなので、学校への期待は落ちるどころか、ますます高まってくる。学校教師も忙しさにかまけてか、親の熱意に動かされてか、子どもかわいさにほだされてか、自分の力量を発揮したいからか、とにかく世間の期待に応えようとする。

 生活指導についても、学校への期待は大きい。バイク運転は勉強と関係のない遊びであり、バイクに取りつかれると勉強がお留守になるし、生命・身体への危険も大きいので、高校生のバイクを禁止してほしいという。同じ論法で、ジャズ・バンドを毛嫌いし、ウインド・サーフィンを敵視する。茶髪やピアスも禁止してほしい。アルバイトも禁止してほしい、となる。しかも、そのような禁止事項を守らせるのに、親の力だけでは足りないので、学校の力を借りて目的を果たそうとする。私生活の問題が学校に持ち込まれる。学校の管理体制が際限なく拡大されていく。

 校則を守らない生徒は、教師の指導に従わない者であり、学校の秩序を乱したというレッテルが貼られる。学校のかかげる旗印が正義であり、それに背く者は悪者とされる。奇妙なことに、人間を育てるべき学校が悪人をつくりだす。管理主義教育のなかで生徒の自由があまりにも制限されて、学校は息苦しくなり、生徒にはストレスがたまる。学校が荒れる、教室が崩壊する。

 一流大学を出て、一流進学校の教師経験しかもたない人には分からないが、いわゆる「底辺校」の生徒は、さまざまな傷を負いながらも必死になって自己の才能を伸ばそうとし、人間的成長を求めて学校に来ている。授業をさぼって学校の廻りをうろついているような生徒でも、学校から離れることができないのである。彼らの心情を理解することなしに、彼らの表面的な言動だけで画一的管理を押しつけようとするならば、若い芽を育てるのでなく、逆に踏みつぶすことになるのは明らかであろう。

 キーワードは「在学契約論」

 市民社会の法は、個人の尊重と契約自由の原理から成り立っている。電車に乗る、バスに乗る、雇われて働く、買い物をする、すべて契約法の世界である。自分の自由意思で契約を結び、責任は自分でとる。ところが、そこに行政の網がかぶせられて免許とか認可とかの問題が起こると、私法だけというわけにはいかず、公法がかかわってくる。教育を受けることは個人の権利であり、学校に行くことは個人の自由であるはずだが、そこに行政がかかわってくると、ことは複雑になる。公教育を受けることは、個人の自由であるのかどうか、議論が面倒になる。

 そのとき、「在学契約」という視点が問題解明の糸口を提供する。在学契約論では、まず学習権とは、個人の学習の自由と、教育を受ける権利の二面から成り立つと考える。学習の自由とは、学問・思想・信条・表現・幸福追求などの文化的活動の自由と一体のものである。その自由は、私的な権利であり、個人の自由である。ところが、日本国憲法・教育基本法は、国民の教育を受ける権利を保障するために、国に公教育制度を整えるよう義務づけた。そのために、行政が学校教育にかかわり、学校制度を定め、国の財政で資金を賄い、あるいは私立学校に助成金を出したりすることになった。しかし、学習権は個人の学習の自由(=私的権利)を基本とするものであるから、どの学校を利用するかは個人の意思で決めることができなければならない。したがって、生徒と学校の関係は、在学契約関係ということになる。在学契約関係を規律する法は、公法ではなく、たんなる私法でもなく、公法と私法の区別を超えて公教育に適用される特殊法である。

 生徒の学習権保障といっても、その具体的内容はどのようなものか。教師の教育権は、学問の自由・文化的自由に支えられた教育専門職者としての権利であるが、それはまた生徒の学習権を保障すべき義務と離れがたく結びついている。教師の教育権は、生徒の学習権にどのようにかかわるのか、個別・具体的な事例に即して研究がおこなわれる必要がある。それは、生徒の教育を受ける権利とのかかわりだけでなく、生徒個人の学習の自由、文化活動の自由とのかかわりについても研究されなければならない。

 在学契約「各論」の意義

 在学契約論の細部の具体的内容は、今のところまだ研究が進んでいないように思われる。それは、一つには学校現場の実態が研究者たちによく分からないことが原因となっているのかもしれない。判例を読むと、法律家には学校現場の実態がわかっていないと思うことがある。例えば、教務措置と生活指導措置の混同ということがある。ホテルの室内で煙草をすったから自主退学だとして処分された生徒が、処分の無効確認を請求して裁判に訴えた。裁判所は退学処分の無効を認めたが、喫煙したので特別活動の成果が満足できると認められないから、卒業認定の要件を満たしていないとして、学校の主張どおり卒業を認めないことを是認した。これは、特別活動の成果の認定という教務措置に、それとは関係のない生活指導上の問題を持ち込んだもので、他事考慮という裁量権の濫用にあたる。裁判所の判断ミスというべきであろう。

 勉強することは生徒の義務だといわれるが、はたしてそのとおりであるか、学習権は権利であって義務ではないはずだが、と疑問に思える。権利と義務の関係はなかなか簡単にとらえることができず難しいが、在学契約上の債権と債務の関係でとらえることは、それほど難しいことではない。学習権保障は生徒にとって債権であり、それは教育給付を受ける権利である。学校には教育給付の債務がある。しかし、生徒が欠席したり、勉強を怠けていた場合には教育の給付ができないから、生徒には出席して給付を受け取る義務があるのだという主張が出てくる。とくに中学校では、義務教育なのだから出席の義務がある、といわれたりする。しかしこれは、教育を国民の三大義務の一つとした明治時代の考えであって、日本国憲法ではそうではない。在学契約からいうと、一般に契約に基づいて受領すべき義務があるわけではない。欠席は受領遅滞であって、その場合に債務履行が遅れることになるが、その責任は債権者にあるので、その限りにおいて債権者がその権利のうち相当部分を失うことになるのはやむをえない。

 学校には、さまざまの問題で悩みを抱えている多くの生徒たちがいる。在学契約各論は、それらの問題を解明する手がかりを提供できるようになりたい。今は、まだ研究が始まったばかりであり、残念ながら解明できた問題は数少ない。今後の追究を期したい。



●目  次

第一部 実際編◆教育をめぐる権利・義務の実態

第一章 喫煙の罰による学習権の侵害

一 退学処分は無効でも卒業ができない事例 3
二 喫煙による退学処分を容認した判例 5
三 生徒の喫煙は罰すべきか 7
四 生徒の私生活に教師の懲戒権は及ぶのか 9
五 卒業認定は債権の目的物である 11

第二章 いじめ・校内暴力における生徒・親・教師の責任

一 中学生に責任能力はないか
二 責任能力とは何か
三 判例に見る中学生の責任能力
四 親の監督責任と損害との因果関係
五 判例に見る教師の監督責任
六 自殺は本人の過失?
七 加害行為と教師の過失との連帯性についての疑問
八 いじめた生徒に対する懲戒処分
九 教師・学校の被害

第三章 私生活上の問題による自主退学処分

一 バイク禁止校則違反で退学処分にするのは違法
二 自主退学は違法でないとする判決
三 校則の効力と憲法の人権保障原理
四 在学契約上の債務不履行にならないか
五 自主退学勧告は懲戒処分か、事実上の懲戒か

第四章 校則に関する判例の批判的検討

一 校則の効力についての判例の解釈
二 判例の解釈を吟味する
三 隠された問題のありか
四 校則違反に対して懲戒は必要か

第五章 子どもの能力に応じた教育の選択

一 障害児の入学決定は行政処分か
二 学力が低い生徒の学習権保障

第六章 教師の教育権の範囲と限界

一 不適切な授業
二 教師の教育権と親の宗教教育権との衝突
三 教師の教育権と生徒の信仰との衝突
四 教師の授業内容決定権と一律評価問題

 

第二部 理論編◆在学契約各論

第一章 在学契約の法的性質

一 在学契約の法的性質
二 教育給付の事実行為
三 教育給付の法律行為

第二章 在学契約の当事者

一 公立小・中学校の児童・生徒と父母
二 高校以上の学校における契約当事者
三 在学契約の他方当事者としての学校設置者と教師

第三章 在学契約の約款

一 約款とは何か
二 学則等のどこまでが約款か
三 約款の具体的内容
四 教務措置の裁量基準
五 募集要項にも約款の効力がある
六 学則・教務内規の現状と問題点
七 約款の公示と開示の義務

第四章 在学契約の締結と生徒の債務

一 入学の「願」「許可」という用語
二 生徒募集の意義
三 入学手続の解釈
四 入学試験の意味と入学者選抜権
五 生徒の負う債務

第五章 教育事実行為における学校の債務

一 教科の成績評価における教師の義務
二 生徒の安全を確保する義務
三 進路指導における教師の責任
四 生徒・父母の教育内容要求権と教育情報請求権
五 指導要録・調査書の本人開示
六 事実行為における債務不履行責任の追及

第六章 教務措置における債務不履行

一 不適切な教務措置の是正
二 単位修得の認定
三 進級(各学年の課程の修了)の認定
四 内部進学拒否の適否
五 教育課程編成についての取消請求

第七章 教育的懲戒と給付の制限

一 教育的懲戒の意義
二 教育的懲戒権の成立原因
三 懲戒処分における教師の裁量権
四 懲戒行為における裁量権逸脱
五 学校教育法一一条にみられる勅令主義時代の影

第八章 在学契約の中途解約

一 中途退学の分類
二 法定解約による退学
三 約定解約としての退学処分
四 解約契約による退学
五 退学後の再入学

第九章 教育給付の受領遅滞

一 勉強する義務はあるか
二 受領遅滞に対する教務措置
三 不登校の権利

第十章 在学契約の終了

一 卒業の認定
二 教科・科目の履修と修得の区別
三 卒業認定要件となる特別活動
四 卒業資格の取得
五 卒業後の進路指導と公証行為

あとがき

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