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提言[子どもの権利]基本法と条例 提言[子どもの権利]基本法と条例

日本教育法学会子どもの権利条約研究特別委員会 編

2,600円 A5 288頁 978-4-385-31442-X (品切)

「調書裁判」「人質司法」と評される現代の刑事手続。本書は,豊富な事例を基に,刑事司法の病理を克服し,違法捜査の抑制,防御活動の充実,証拠開示を実現する「理論」と「実践」を追究する。

1998年6月10日 発行



●はじめに

 子どもの権利条約が日本で発効してから4年が経ようとしているが、条約が効果的に実施されているとは言い難い現実がある。国連・子どもの権利委員会へ日本政府が提出した締約国報告書の作成過程やその内容をみても、また児童福祉法の改正や少年法の改正動向を検討しても、日本社会において条約が活かされているとはいえない。それどころか、子どもが引き起こす最近の衝撃的な事件をきっかけにして、「子どもの人権バッシング」ともいえる状況が生じている。こうした中で、私は子どもの権利を保障し促進するための法的・制度的整備にとって不可欠な「子どもの権利基本法」「子どもの権利基本条例」の必要性を、以前よりも強く感じている。本書の冒頭にあたって、私たちがこのような基本法や条例の要綱案を作成する経緯や本書の構成などについて述べておこう。

条約研究特別委員会の設置

 日本教育法学会は、1993年の第23回定期総会において「子どもの権利条約研究特別委員会」を設置した。ちょうど条約の批准案件が最初に衆議院に上程された時期であった。次のような意図から、この特別委員会を設置した。

 子どもの権利条約は、人権条約としてはかつてないほど多くの市民の関心を批准前から集めていた。日本弁護士連合会をはじめ広い分野にわたる民間団体・市民グループが、この条約の批准に伴う国内法の改正や立法および条約の名称や訳文の修正などを要求し、かつ、この条約の早期批准そして完全な実施を要請してきた。ところが、政府は国会に求める批准承認案件に伴い政府訳を示し、1つの留保と2つの解釈宣言を行い、また条約実施については新たな立法措置・予算措置は必要ないと説明していた。さらに、名称も「児童の権利に関する条約」という訳文のままで国会の承認を求めた。この条約について早くから国内法との関連を含め総合的な検討を進めてきた研究者としては、このままでは、この条約が日本社会に効果的に適用されることにはならないと危惧し、この条約にもとづく国際協力が進められることもおぼつかないように思われた。そして、子どもを取り巻く世界の現実に対して、人権条約史上最多の締約国をもつこの条約の国際的な実施およびその監視の課題も山積していた。このような中で、子どもの人権および子どもの権利条約研究に実績をもつ日本教育法学会が、学会として国内外の社会的要請に応え、条約の実施に関して研究し提言していくことは急務であると考えられた。

 それゆえ、当時日本教育法学会会長であった私自身が、この条約研究特別委員会を設置して、その委員長となった。そして、その特別委員会委員は学会会員からの公募により、教育法はもとより、憲法・行政法・家族法・少年司法・国際人権法・比較法あるいは教育学・児童福祉などの諸研究分野さらには弁護士等の実務家などから、実数34名により構成された。

 かくして本委員会は、国内および国際社会における条約実施の課題等を研究するにあたって、とくに次のテーマを設定した。(1)子どもの権利基本法案を作成し、子どもの権利保障にかかわる国内法・制度の基盤の構築を図ること、(2)子どもの権利基本条例案を作成し、自治体レベルでの条約の実施と普及に貢献すること、(3)条約を子どもの権利保障のための国際基準として発展させていくための諸課題を探ること。

本委員会の活動

 本委員会は当初、3年計画で活動を開始した。

 1年目(1993年度)には、主として、子どもの権利基本法と条例のそれぞれについて、それらの制定の必要性と意義、基本的性格づけ、そこに盛り込むべき内容、あるいは国連・子どもの権利委員会の動向や諸外国における本条約の実施事例等に関して委員からの報告を受け、活発な議論を行った。

 また、本委員会は条約の国会承認のあり方について問題提起するべく、条約の名称や訳文の変更その他の要請を記した「意見書」を内閣と国会に提出することを決め、内容を検討した。その結果としての「意見書」は、学会理事会の承認を得て、10月6日、内閣宛を武村正義官房長官へ、国会宛を土井たか子衆議院議長と原健三郎参議院議長(代理)ならびに菅直人衆議院外務委員長へ手渡した。その「意見書」の内容は、法律時報1993年11月号に掲載されている。

 2年目(1994年度)には、主として、教育・福祉・少年司法等個別分野の法と条約実施のあり方、あるいはそれらの個別法と基本法案との関連、オンブズパーソン制度・子どもの参加権など基本法や条例に盛り込む内容などを検討し、さらには自治体職員から自治体での取り組みについて報告を受け、その検証などを行った。また、弁護士会で子どもの権利救済にあたっている弁護士による問題提起を受けたり、川崎市「市民オンブズマン」の調査員から人権救済制度のあり方について示唆を得たりした。

 そして、本委員会は研究成果の中間報告と意見交換のために、第25回定期総会において分科会を1つもたせていただいた(1995年3月)。その分科会では、「子どもの権利条約と国・自治体の役割」というテーマのもと、4つの報告がなされた。すなわち、(1)平野裕二「子どもの権利条約をめぐる各国の動き」は、国連・子どもの権利委員会における締約国報告書の審査状況を分析し、各国の法改正等の動向を明らかにした。(2)荒牧重人「条約実施と子どもの権利基本法要綱案」は、条約実施における基本法の意義、目的、その主な内容等についての報告であった。(3)野村武司「自治体の子ども施策とその条例化」は、子どもの権利保障における自治体の役割に焦点をあて、条例のあり方と内容を示した。(4)田辺裕子「自治体における子ども施策の現状と課題」は、中野区での条約をいかす取組みの経験にもとづいて、行政の立場から自治体での可能性と課題を提示した。そこでの討論では、子どもの権利基本法の位置づけ、「子ども庁」という条約実施の総合的推進機構の創設、条約推進とその監視機構としての「子ども審議会」のあり方、「子どもの権利オンブズパーソン」などの子どもの権利救済制度の整備、さらには子どもの参加の原則や制度化などをめぐっての意見交換が活発になされた。その詳細は日本教育法学会年報第25号『教育参加と子どもの権利条約』(1996年・有斐閣)に収録されている。

 3年目(1995年)には、主として、学会外の実務家の意見を聴取し、基本法・基本条例の内容の掘下げと現実化をめざす論議が多くなされた。参議院法制局や調査委員会の職員から、子どもの権利基本法の可能性と課題についての報告を受けて、基本法要綱案の意義と可能性を検討した。また、条約実施に伴い設置された子どもの人権専門委員からは、この制度の実情と問題点についての報告を受け、制度の活性化の課題とより効果的な救済制度のあり方を探った。中野区の「福祉オンブズマン」からは、福祉部門ではあるが、自治体におけるオンブズパーソン制度のあり方に関する報告を受け、検討した。さらに、大阪府児童福祉課の職員からは、自治体での子ども施策として「大阪府子ども総合ビジョン」の作成、「子どもの権利ノート」の作成・普及等についての報告を受け、自治体での施策策定のあり方などについて検討した。

 こうして、本委員会は予定の3年間の活動を終えたが、研究成果のまとめとその出版のために、もう1年活動を継続することになった。その結果として刊行されたのが本書である。

 また、本委員会の中心メンバーは委員会終了後もグループでの研究を継続している。そこで、国レベルでは、最近の児童福祉法の改正や少年法改正論議を検討したり、自治体レベルでは、「青少年健全育成条例」を唯一制定していない長野県、「買春処罰規定」を導入した東京都、初の「子どもの権利オンブズパーソン条例」を制定しようとしている兵庫県川西市などについて調査・研究したり、国際レベルでは、子どもの権利に関する国際文書の収集・分析や子どもの権利委員会における日本政府報告書の審査にかかわる取組みの検討なども進めている。本書には、これらの成果も部分的に反映させている。

本書の構成

 本書は、第1章として最初に、子どもの権利基本法要綱案の意義と内容を示した。それらの課題と可能性を法律制定の実務面からも検討した。あわせて、基本法と現行法体系との関連や基本法制定に伴う法改正の課題を明らかにした。その際、要綱案の作成にあたって視野に入れていた国連・子どもの権利委員会の動向や日本との関連についても、最新の情報にもとづいて1節設けている。

 第2章として、子どもの権利基本条例要綱案の意義と内容を提示した。条例制定の課題について、自治体での取組みの経験から問題提起をしている。また、多様な子どもの施策を展開している自治体の事例を紹介・分析している。この基本条例要綱案を参照しながら、広く各自治体で子どもの権利条例を実際に制定する可能性は十分にあるだろうと確信している。

 第3章は、右の基本法・条例要綱案の内容にかかわってとくに重要と思われる理論的かつ実践的な具体的諸課題について論述することにした。子どもの意見表明・参加の権利の意義づけと内容、手続的権利の保障のあり方と内容、とりわけ論争がある司法手続のあり方などについて、それぞれの角度から論じている。また、子どもの権利救済のあり方については、現行の子どもの人権専門委員の可能性を探るとともに、新たにオンブズパーソン制度についての問題提起をしている。さらに、たんに子どもの救済にとどまらず、非行等からの立ち直りについても模索している。

 第4章では、子どもの権利委員会の審査状況をふまえ、各国の子ども法改革の動向を示した。また、いち早く子どもの権利基本法を作成したベラルーシ等の事例などを取り上げた。

今後の課題

 子どもの権利条約の実施と普及には多くの課題がある。本委員会が予定しながら十分に取り組めなかった点として、子どもの権利条約の裁判への適用の研究と従来の判例分析、自治体における子どもの権利条約の実施に関するより広く深い研究、子どもの権利条約に関する国際基準の研究などがある。これらはいずれも、本特別委員会のメンバーであった者が中心となり、別個に研究が進められており、その研究成果は、すでに公刊されたり、予定されている。たとえば、永井憲一編『子どもの人権と裁判』(1998年・法政大学出版局)、永井憲一監修・子どもの人権連編『自治体でとりくむ子どもの権利条約』(1997年・明石書店)、国際子ども法研究会編『子どもの人権条約・資料集』(1998年・東信堂)(刊行予定)などである。あわせて参照していただきたい。

 本書が研究者のみならず、国会や地方議会さらには行政関係者、子どもの権利にかかわる研究者や弁護士や専門職員、また子どもの権利保障を推進している市民のみなさんのために役立ち、子どもの権利の向上に貢献するものであることを願っている。



●執筆者

永井 憲一 ながい・けんいち  法政大学法学部教授
荒牧 重人 あらまき・しげと  山梨学院大学法学部助教授
川崎 政司 かわさき・まさじ  参議院法制局参事
広沢  明 ひろさわ・あきら  育英短期大学教授
平野 裕二 ひらの・ゆうじ   ARC(Action for the Rights of the Children)代表
野村 武司 のむら・たけし   獨協大学法学部助教授
田辺 裕子 たなべ・ゆうこ   中野区役所福祉事業課長
喜多 明人 きた・あきと    早稲田大学文学部教授
矢吹 芳洋 やぶき・よしひろ  専修大学経済学部助教授
津田 玄児 つだ・げんじ    弁護士
佐々木光明 ささき・みつあき  三重短期大学法経学科助教授
坪井 節子 つぼい・せつこ   弁護士
平 清太郎 たいら・せいたろう 法務省人権擁護委員・子どもの人権専門委員
笹沼 弘志 ささぬま・ひろし  静岡大学教育学部助教授



●目  次

はじめに──永井憲一

第1章 子どもの権利基本法の提言
1 子どもの権利基本法要綱案の意義と内容──荒牧 重人
2 子どもに関する法制度の再構築と子どもの権利基本法──川崎 政司
3 子どもの権利条約の批准と国内法の問題点──広沢 明
4 子どもの権利委員会の活動と日本とのかかわり──平野 裕二

第2章 子どもの権利基本条例の提言
1 子どもの権利基本条例要綱案の意義と内容──野村 武司
2 子どもの権利基本条例制定の課題と展望──田辺 裕子
3 自治体における条約の実施と子ども施策の動向──荒牧 重人

第3章 子どもの権利の今日的保障
1 子どもの意見表明・参加の権利──喜多 明人
2 子どもの意見表明権と手続保障──矢吹 芳洋
3 子どもの権利と司法手続──津田 玄児
4 子どもの非行と立ち直り支援──佐々木 光明
5 子どもの権利救済活動と救済システム──坪井 節子
6 子どもの人権専門委員の可能性と課題──平 清太郎

第4章 子ども法改革の国際的動向
1 ヨーロッパ──平野 裕二
2 ラテンアメリカ──平野 裕二
3 アジア・アフリカ諸国──平野 裕二
4 旧ソ連─ロシア、ベラルーシ──笹沼 弘志

資料
子どもの権利基本法要綱案

子どもの権利基本条例要綱案

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