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  日本のことばと古辞書


日本のことばと古辞書

山田俊雄 著   (品切)

2,100円 四六判 224頁 978-4-385-36127-7

「日本のことばとは、日本人が今も用い、過去の時代にも用いていた言語である」を軸に、ことばの発展と萎縮、新生と枯死とを追う。ことばの研究に古辞書がどのように役立つのか、実例を掲げてその利用法を示す。「日本のことばと古辞書」など、21編からなる。

2003年 5月20日 発行

詞苑間歩 (品切)
忘れかけてゐた言葉 (品切)



●目  次

「闇から牛」 7
   ──漢字とその訓についての話──

酉年のちなみに 36

明治初期の闕畫(けっかく) 40

随想(退職に際しての口演) 44

「かみ・しも(かみ[衣偏+上]、しも[衣偏+下])」の話 59

ある擬製漢字についての所感 66
   ──「裃」と「かみ・しも」と──

書名の讀み方 83

梅の道地 87

日本のことばと古辞書 91

漢和といふこと 113
   ──「聖」の字などについて──

漢和辞典と国語辞典とのあはひ 120

国語辞典を讀む 126
   ──和漢洋にわたる語について──

『兵員要語帖』といふ資料 147

明治五年の「學制」の「仰せ出され書」の本文について 164

漢文訓讀の入門(その一) 173

漢文訓讀の入門(その二) 180

漢文訓讀の入門(その三) 185

漢文訓讀の入門(その四) 193

漢文訓讀の入門(その五) 201

漢文訓讀の入門(その六) 207

漢文訓讀の入門(その七) 214

あとがき 221

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●日本のことばと古辞書(一部)

 標題の示すところを、前以て一言解説して置く。

 「日本のことば」とは、日本人が、今も用ゐ、過去の時代にも用ゐてゐた言語といふ意味であること、今更言ふまでもない。けれども、世間で往々にして、その言語を現代日本の口頭のことばに限つて指して、話題にすることがある。口で語り、それを耳で聽いて、また口で答へる、といふ循環を、言語の原初からの姿とか、あり方だとか言ふのは、間違ひではないけれども、歴史をつらぬくことば、社會をたばねることばの全貌といふには遠い。そして、言語は、發展と萎縮、新生と枯死とをその中にふくみ乍ら、變遷する。一瞬一瞬のことばのみではなく、文字化されてゐるものにこそ、その傳承はたしかに認識されるのである。

 「日本のことば」といふ用語を用ゐて、私が示さうとするものは、右のやうな、變化をしながら、大きな時間の流れの中で、歴史的變遷といふべき變貌をつづける、日本人の言語である。そして、口頭の言語とともに、殊に書記の言語の一面を重要視する態度をもつて、そのことばを捉へたいのである。

 つまり、日本人が、歴史をつくり、社會をなして來た際の、口頭言語・書記言語の兩面をもれ落ちなく考へながら、その變化、その變遷をもつて、「日本のことば」の實態を見ようとするのである。

 さて、「日本のことばと古辞書」とあるが、その「古辞書」といふ語の意味は、きはめて明晰で「古い辞書」といふことだが、同時にそれだけの事でもなささうである。普通の国語辞書の項目に「コジシヨ」といふ項目は見当らない。専門の『国語学大辞典』と銘打つた術語辞典にも、そのやうな項目は設けてない。つまりは明確な定義のある一語として弘通してゐるとはいひがたい面がある。

 世に『古辞書の研究』(川瀬一馬著)とか、『古辞書索引叢刊』(島田友啓編)、またごく最近では、『日本古辞書を学ぶ人のために』(西崎亨編。一九九五・五・三〇刊 世界思想社)など、「古辞書」といふ用語を用ゐてゐるものがある。またある大學には「古辞書研究会」といふ名のサークルがある由で、そのさすところ、大體の共通点として「室町時代末期(慶長)までに著作された辞書類を総稱する」に定まつてゐるように説かれる。むろん、これは嚴格にではなく、「一般に」さういはれてゐる事實があるといふことである。しかし、だからといつて、江戸時代に入つて成立したものを嚴密に排斥するといふのでもない。

 今回の天理圖書館蔵の古辞書の展観にしても、「辞書」の範圍を、かなり幅廣く考へられてをり、時代についていへば、江戸の末期までに及んでゐる。また、「古辞書」といつても「日本語の」といはずに「日本の」になつてゐるので、和漢・漢和はいふまでもないが和洋對譯のものにも及んでゐる。

 「一般に」「室町時代末期迄」の成立に限つていふ習慣があるといつても、それは、元來研究對象の範圍を恣意的に設定するときの便宜(たとへば、自由に調査し得るものの制約、また便宜、あるいは、資料の得られる利便など)から生じたもののやうである。

 したがつて、「古辞書」といふ用語には、研究者全體に通じる定義を敢て決定する必要も感じられてゐなかつた次第で、この口演では、つまりここに會衆としておいでになつた方々の机邊にある現代の辞書以外の、古いものは、すべて古辞書とすることにして、英語でいへば Old Dictionary と同じことだとして話をすすめてゆくことにする。

 さて日本の辞書は、中国の辞書を土臺にして、それに和訓を萬葉假名や片假名で補ふといふ形で發生したから、日本語の辞書を考へるときは先づ中国の辞書についての種類などを考へておくことが必要である。それぞれの種類の下に生じたものを示しながら、次に概念圖のやうな圖式を示しておく。

(A) 字書
 1) 小學教科書──千字文・急就篇──(往來物) 〔語彙連想〕
  字形分類の字書──説文・玉篇──倭玉篇・名義抄 〔部首別〕
 2) 韻による字書──韻書──切韻・廣韻──聚分韻略・いろは韻 〔四声別・反切〕

(B) 辞書
 3) 意義分類體の字書・辞書(類書)──釋名・爾雅──字類抄・節用集・いろは集 〔いろは別・部門別〕
 4) 佛教經典の巻末要語解 glossary (用語索引 concordance)──〔語の総索引〕
大般若經音義・一切經音義・日本霊異記注 
────────────────────
 5) 歌語辞書 語釋・用語集・かなづかひ書
  連歌俳諧辞書 作法書・方言辞書・諺集──物類稱呼・俚言集覽
  物語その他の用語を加へて 和語辞書──雅言集覽・倭訓栞

 さて古辞書は日本のことばの研究に役立つと考へられるわけだが、どんな風に役立つのかを實例によつて分つて頂きたいと思ひ、實際の問題によつて實習をしようと思ふ。
 具體的に二つの問題をあらかじめ掲げておく。

 イ 『竹取物語』の「なたねの大きさ」
 ロ 『今昔物語集』の「草馬」

古辞書を役に立てると、こんなことがわかる、古辞書は日本のことばのかういふ面にかゝはるのだ、といふことを大體知つて頂くことができれば幸ひだと思ふ。

 ここに示した如く、古辞書の利用はどんな場面にもつとも効果的か、あまり多くの場合を實驗したものではないが、古典の注釋のやうな場合は、かなり顯著であらうと思はれる。その意味で古典注釋をした經驗にもとづいてこの二つの主題をえらんだのである。

 古辞書そのものの歴史を研究することも大切なことであるが、私には、古辞書研究は、何か日本語の歴史や日本語での古典の理解に古辞書を役立てたいといふ氣持がつよいのでその方向で話をしたいのである。

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●あとがき

 この一冊に収めた文章は、どれも既に一度雑誌などに發表したものばかりである。

 いくつかのものは雑誌ではなく、いはゆる月報といふ形式の冊子に發表したが、それらと共に、どの文章についても、最初に活字にした時の發表機關名を、それぞれの文章の末尾に、發表年月と共に記しておいた。

 中には、はじめの發表が口頭によるものも交じつてゐる。口演の後に原稿を再治して活字にしたものであつて、ここに掲げるものも口演そのままではない。

 日本語の歴史を調べてみるといふ廣大な研究領域に、正面から向ふことはなかなか困難なわざである。私は先學の業績の恩恵に浴しながら、極めて狹い局面に拘泥して漢字・漢語を對象にした研究の眞似をした者であるが、何ほどのことも成し得なかつた。わづかになし得たところは、既に學會の雑誌や勤務してゐた大學の、調査報告として公表してある。私は、それらを再度公刊する煩を不要であらうと思ふので、ここには、業餘に書き置いて、一般の人々にも讀みやすいもののみを掲げた。

 もしその意圖を説明せよといふことなら、それは、言語の歴史にかかはる論文の讀みにくさを、少しでも取り除いた讀み物として提供せんが為である。

 無論、そのやうなことを私が意圖しても、内容の乏しさは掩ふことができないから、識者の笑を買ふのみであらう。それを敢て顧みないのは、ただ、自分の老後の生活について、一つの句切りを設けようと思つてゐるからである。

  平成十五年三月下旬

山 田 俊 雄

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