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ニューヨーク
─〈周縁〉が織りなす都市文化─
NEW YORK ─Urban Cultures and the Marginal─

ニューヨーク

金田由紀子・佐川和茂 編

2,400円 A5変 272頁 978-4-385-35994-X (品切)

世界を魅了してやまない大都市ニューヨーク。〈周縁〉と〈中心〉をキーワードに、都市経済、ユダヤ系やヒスパニック、美術・演劇・ジャズ・黒人野球など様々なジャンルを通じてその文化的混沌=豊饒を描く。

2001年3月30日 発行


●ま え が き

 本書は、世界有数の大都市ニューヨークを「周縁」という視点からみた都市文化論である。ニューヨークが国際的なメガポリスとして発展するにあたっては、周縁からわきでるパワーが重要な役割を果たしてきた。「周縁」とは、地域・階級・ジェンダー・人種/民族的背景の周縁性を意味するが、ニューヨークの場合、これらの要因が重なりあっているのが特徴である。たとえば、移民の居住区として有名なマンハッタン東南のロウアー・イーストサイドは、歴史的に貧困からはい上がろうとする新移民の生活の場であった。また、芸術家の街グリニッチ・ヴィレッジには、古くからゲイのコミュニティが存在している(現在は、チェルシー地区もゲイ・コミュニティとして知られている)。

 「ニューヨークはアメリカではない」と、ニューヨーカーも他の地域のアメリカ人もよく口にする。「アメリカではない」というアメリカ人の感覚には、ニューヨークがかなりヨーロッパ的な要素をもった都市であるとの見方が背景にあるようだ。たしかに、ニューヨークの歴史にはヨーロッパとの関係が重要であるし、今でもニューヨークの文化人は、よくヨーロッパとの間を行き来する。東京からちょっと京都へ行くという感覚で、パリが息抜きと充電のオアシスになっているニューヨーカーも多い。

 しかし、外国人には、パリとニューヨークの空気の違いは、両都市間を移動すると、ほとんど呼吸困難が起るというほど大きなものに感じられる。そのニューヨークの「空気」とは、ひとことで言うならば、「周縁の力」であり、特に移民たちやマイノリティ(少数民族)のかもすパワーである。そして、そのパワーにこそ、さまざまな背景の移民によってつくられた国アメリカの本質がある。ニューヨークは「アメリカ」の縮図である。

 現在では、パリでもロンドンでも東京でも、外国人労働者やマイノリティの存在と彼らのコミュニテイが都市構造の重要な要素になっている。しかし、移民流入史が都市形成の歴史そのものであったニューヨークでは、移民とマイノリティの存在は都市構造の本質をなしている。移民といっても、古くはオランダ系やイギリス系に始まり、十九世紀に入り、ドイツ系やアイルランド系が増えるという具合に、時代によって移民の出身国は違うが、それぞれがやがてニューヨークの周縁的状況を抜けだしてこの都市に根づいている。

 このような歴史と地域性との関わりは、第一章で詳しく述べられている。ニューヨークにおけるマイノリティの代表は、何といってもアフリカ系とヒスパニックである。第五章と第七章ではアフリカ系を、第三章ではプエルトリカンを中心としたヒスパニックを論じている。

 ニューヨーク人口の四分の一近くを占めて社会的な成功者も多いユダヤ系がマイノリティかどうかは議論も出たが、移民の歴史という観点からは間違いなくマイノリティの代表であり、またアメリカ全土をみると、まだまだ差別を受けている民族だと言わざるをえない。ユダヤ系は第二章の中心的主題であるが、第四章と第六章でも触れている。ユダヤ系は、ニューヨークの文化論では欠かせない人たちである。

 私たちに最も縁の深いアジア系、特に中国系は、数の上からいっても現在のニューヨークで重要な位置を占めている。本書では、第四章でニューヨークの日本人を論じた。ニューヨークのマイノリティとしては、アジア系の歴史が浅いだけに、アジア系文化の発展は今後も注目したいテーマである。

 ニューヨークの社会も、まだ完全にはジェンダーへの偏見を乗り越えていないが、ジェンダーやセクシュアリティの自由に向けての葛藤と表現は、第五章の中心的主題であり、第二章と第四章でも扱っている。

 「周縁」をキーワードにする時に、「周縁」を「中心」に向かう前向きの強いエネルギーをもつ「プラス」の記号としてみる試み、というのが本書の問題意識である。本書で扱う地域がニューヨーク五区の中で特にマンタッタン中心にならざるをえなかったのは、「中心」に向かうベクトルに着目したためである。また、二〇世紀を中心に各章が展開されているのも、ニューヨークの文化がアメリカ文化の中心として充実した現代に焦点があてられたためである。本書を出版するにあたって、「周縁」の定義についての討論の場を何度ももったが、それぞれの分野における周縁状況の違いから、また「中心」とは何かが各執筆者の担当領域によって判断が異なることから、統一的な定義や見解を最初に規定するのはふさわしくないというのが執筆者たちの得た結論であった。

 第一章は地域経済学の立場から「周縁」を論じ、第二章は文学(小説)、第三章は思想、第四章は美術と文学(詩)、第五章は音楽(ジャズ)、第六章は演劇、第七章はスポーツ(野球)と、それぞれの分野での「周縁」の問題を扱っている。周縁から中心へ向かう度合いは、各執筆者の分野によって見方が異なるのではないか、というのが私たちのいたった認識である。

 ジュリアーニ市長の就任以来、格段に安全で清潔になったとはいえ、ニューヨークはまだまだ外国人には危険の多い大都市である。しかし、ニューヨークは学生や若者にはとりわけ人気のある都市である。貧乏旅行を余儀なくされる彼らは、ちょっと危なげな地域の安ホテルに寝泊りし、かつての危険地域にも踏み込んで、ニューヨークの周縁を自分の目の高さで楽しんでいる。本書は、経験豊かと自負する大人たちから、若いきらめく感性へ向けたメッセージである。また、アメリカ文化の深さと豊かさを楽しみたい読者にもひもといてほしい著書である。

 本書は、一九九八年四月から二年間行った青山学院大学総合研究所学際プロジェクト「ニューヨーク都市文化研究」(代表 金田由紀子)の成果刊行である。本プロジェクトの遂行と本書の出版にあたっては、青山学院大学総合研究所から助成金を受けている。ここに記して、感謝を表したい。

二〇〇一年二月

金田 由紀子


【NYCの文化的豊饒を描く7篇】

第一章 「ニューヨーク」を見る視点 須田昌弥

第二章 ユダヤ人のニューヨーク 佐川和茂

第三章 ニューヨークのヒスパニック/ヒスパニックの〈ヌエバヨール〉 後藤雄介

第四章 画家と詩人のニューヨーク 金田由紀子

第五章 ビックス、ビリー、そしてバード──三人のジャズの開拓者たち 椿 清文

第六章 女たちのブロードウェイ 堀 真理子

第七章 黒い手に白球をつかんで──ニグロ・リーグの光と影 田中啓史


●執筆者紹介(*は編者)

◆須田昌弥(すだまさや)

・青山学院大学経済学部助教授(地域経済学専攻)

【共著】『都市と土地の経済学』(日本評論社)、『立地論入門』(古今書院)ほか

◆佐川和茂(さがわかずしげ)*

・青山学院大学経営学部教授(アメリカ文学専攻)

【共著】『映像文学にみるアメリカ』(紀伊國屋書店)、『ユダヤ系アメリカ短編の時空』(北星堂書店)、『アメリカ小説の変容』(ミネルヴァ書房)【共訳書】S. L. ギルマン『「頭の良いユダヤ人」はいかにつくられたか』(三交社)ほか

◆後藤雄介(ごとうゆうすけ)

・早稲田大学教育学部専任講師(ラテンアメリカ思想文化史専攻)

【訳書】C. ビアンチ・ロス『キューバのヘミングウェイ』(海風書房)【共訳書】J. マルティ『ホセ・マルティ選集 (3) 共生する革命』(日本経済評論社)ほか

◆金田由紀子(かねだゆきこ)*

・青山学院大学経済学部教授(比較文学・アメリカ文化専攻)

【共著】『たのしく読める英米詩』(ミネルヴァ書房)、『有島武郎と西洋』有島武郎研究叢書第九集(右文書院)【共訳書】 The New Poetry of Japan : The 70s and 80s (T. Fitzsimmons & G. Yoshimasu, eds./ University of Hawaii Press)ほか

◆椿清文(つばききよふみ)

・津田塾大学学芸学部教授(アメリカ文学・文化専攻)

【共著】『アメリカ合衆国とは何か─歴史と現在─』(雄山閣)、『ヒロインから読むアメリカ文学』(勁草書房)、『アメリカ小説の変容』(ミネルヴァ書房)ほか

◆堀真理子(ほりまりこ)

・青山学院大学経済学部教授(演劇専攻)

【共著】『現代英米の劇作家たち』(英潮社新社)、『女性・ことば・ドラマ─英米文学からのアプローチ』(彩流社)【共訳書】C. イネス『フェミニズムと演劇』(明石書店)、G. オースティン『アバンギャルド・シアター』(テアトロ社)ほか

◆田中啓史(たなかけいし)

・青山学院大学文学部教授(アメリカ文学・文化専攻)

【著書】『サリンジャー イエローページ』(荒地出版社)、『ミステリアス・サリンジャー 隠されたものがたり』(南雲堂)【訳書】P. H. ブフィジス『ノーマン・メイラー研究』(荒地出版社)、J. ホークス『罠─ライム・トゥイッグ』(彩流社)ほか


●【あ と が き(抜粋)】

 本書の内容は、経済・文学・思想・美術・音楽・演劇・野球などにまたがるが、各論はそれぞれ「周縁」を含めてニューヨークを多面的に捉えようとする試みである。一章に「ニューヨークを見る視点」を配置し、それを踏まえて「ユダヤ人のニューヨーク」、「ヒスパニックのニューヨーク」、「画家と詩人のニューヨーク」、「ニューヨークのジャズ」、「ブロードウェイの女性劇作家たち」、「黒人ベースボール・プレーヤー」を論じてきた。七編の内容が響き合うように、互いの文章を査読し、編集段階において若干の工夫をした。本書を読まれる方は、「ニューヨークを見る視点」を確認した後、各論に進まれてもよいし、あるいは最も関心ある分野から読み始めていただいても結構だと思う。

 本書を執筆する過程で、私たち七名は、全員で、または単独で、幾度か調査研究のためにニューヨークを訪れた。雪で始まり、雨で終わる旅行もあったが、集団での名所訪問や資料館巡りは、大学キャンパスを離れた同僚たちの交わりを深め、多くの体験や情報を与えてくれた。

 また、各執筆者がそれぞれのテーマを追及した単独行動も有意義であった。ニューヨークの地下鉄全線を乗りまくり、ロウアー・イーストサイドをくまなく歩き、ラテン・アメリカ研究者をグリニッチ・ヴィレッジに訪ねた。あるいは、深夜まで詩の朗読会に熱狂し、ジャズの名所に浸り、ブロードウェイに繰り出し、野球場で声援を送った。また、資料を求めて大学・図書館・古本屋巡りをすることも楽しかった。幸い一人も事故に遭わず、多くのよい思い出を持ち帰ることができた。

 振り返れば、思い出の中には、ニューヨークで出会ったさまざまな人々の顔が含まれている。宿泊先で世話になったドミニカ出身の黒人ドアマン、ロイとモリス、早朝からごみ収集に精出す黒人の人々、高層建築から出て犬の散歩を楽しむ老若男女、公園のベンチで時間を過ごすお年寄り、地下鉄で分厚い専門書を読む乗客たち、ボロ・パークで買い物をする黒づくめの正統派ユダヤ人、食料品店で威勢の良い声を張り上げる韓国系のおばさん、いつも暖かく迎えてくれたバングラデシュ出身の博物館員、文献検索に協力してくれた古本屋の店員たち、大学図書館で勉強に励む学生たちや市立図書館に集う人々、博物館で孫に歴史を教えるおじいちゃん、ユーモアの巧みなギリシア系レストランの女主人、地下鉄で親切に道を教えてくれた日系四世、早口で喋るインド系のタクシー運転手、そして、ブロードウェイに集う人々・・・・・・。ふとした機会に出会い、言葉を交わし、親切にしてもらった人々の顔が浮かんでくる。ニューヨークは意外に清潔であり、ニューヨーカーたちは意外に親切であった。彼らの思い出も本書のページに見え隠れしているかもしれない。 ところで、今回の執筆段階で、日系市民の活躍を含めることも提案され、それは部分的に言及されているが、日系とニューヨークとの詳しい関係については、今後の課題としたい。私たちは、これからもニューヨークをテーマに、あるいは周縁をキーワードにして、各自の調査研究を続けていくことが楽しみである。本書を読まれた方々も、テーマを持ってニューヨークを訪れ、関心領域を探り、その成果をまとめていただけるならば、私たちとしては大変嬉しいことである。

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