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  ことばと認知のしくみ


ことばと認知のしくみ

河野守夫 編集主幹/井狩幸男・石川圭一・門田修平・村田純一・山根 繁 編

3,800円 A5 416頁 978-4-385-36308-0

言語の獲得およびその運用を演出する人間の認知機構のダイナミズムを学際的に解明しようとする認知科学の流れを展望し、その指針を示すガイドブック。外国語教育・応用言語学・認知心理学などの専攻者必読。

2007年 7月20日 発行

刊行のことば スタッフ一覧 目次 結びのことば




●刊行のことば

 ことばは人間だけがもつすばらしい能力である。地球上には、木をこすってつけた火で炊事をする集団がいる一方で、コンピューターや電子レンジを使う集団がいる。しかし、彼等の使う言語の精緻さの度合いには、甲乙をつけがたい。「石器時代さながらの部族はあっても、石器時代さながらの言語はない」(ピンカー、1994)。

 このことばを用いて、人間が意志の疎通をはかる仕組みを明らかにしたいという衝動に、ことばを研究する者は駆られる。しかし、これは大変な仕事である。大変な仕事ではあるが、今の時代の先端的な仕事の一つで、その応用範囲も広い。

 わたしどもの「ことばの科学研究会」は、過去40年近く運用言語を演出する人間の認知機構の研究を続けている。会員は多くの学会賞受賞者や博士号取得者を含め、総数100名に近い。この会のチャーター・メンバーたちは、今では各々が勤務する大学や大学院の中核をなす教授であり、毎年その人たちのもとに、その新しい学問を慕って多くの若者が集まってくる。ことばの仕組みを学際的、科学的に掘り下げることによって、ことばの研究をこれまでとは違った角度から掘り下げ、将来、教育や言語障害治療などに役立てようという人たちである。私どもはその未来を見据えた若者達に、研究上の指針をあたえてくれるガイドブックの必要性を痛感し、生まれたのがこの書物である。私達と同様に、このような書物を待っておられる先生方が、そして大学生が、全国にたくさん居られるはずである。もちろん、いわゆる大学関係者でなくとも、ことばに興味のある一般の方々にもひもといていただければ幸いである。

 上述のように、ことばを人間の認知機構にまで掘り下げて、学際的に解明しようというのだから、言語学のほかに、心理学や脳科学の知識が必要である。コミュニケーション論、それに民族文化学の知識も大切である。本書はそれらの性格を満たしている。

 ことばの科学的研究にはいろいろな側面がある。今回は、そのうち、「言語獲得」「脳と言語」「パイリンガリズム」「話しことばの認識と生成」「音声言語の学習と指導」「書きことばの処理」をとりあげた。これらが現在の大学に於ける、ことばの科学研究の焦眉の課題だからである。

 この本ができるまでに多くの人たちの手を煩わした。この本の全体の構成は「ことばの科学研究会」会長の門田修平氏が組み立てられた。各章の編集は各編集委員があたった。本書が組み立てられて一冊の本になる頃、丁度会長がアメリカに留学されていたこともあって、副会長の井狩幸男氏が、原稿の打ち方、図版やカット類の作り方、参考文献の書き方、人名の書き方などなど、執筆者間で不ぞろいになりがちな点を大きなところから小さな箇所まで、執筆者と出版社の間に入っていろいろと調整された。それはこの書物全体の編集をバランスのとれたものにするために必要な仕事であったが、とても煩瑣な仕事であった。また、井狩氏は私と一緒に上京し、出版社との交渉に当たられたこともあった。その井狩氏を助けられたのが、石川圭一氏であった。また、大阪市立大学の大学院生の橋本智也氏は巻末の「参考文献」を各章共通のものにするために、その清書にあたられた。河野は原稿全体の内容に目を通した。

 最後になってしまったが、三省堂の山口守氏はこの新しい、進歩の速い分野の出版をこころよく引き受けてくださり、ご協力くださった。これらの方々に、こころからお礼を申し上げる。(河野守夫)



●スタッフ一覧

編集主幹 河野守夫

編集委員 井狩幸男・石川圭一・門田修平・村田純一・山根 繁

執筆者一覧

河野守夫(神戸市外国語大学名誉教授)第4章4.4
井狩幸男(大阪市立大学)第1章・第2章概説、第1章1.5、第2章2.3、2.4
魚崎典子(関西大学・非常勤)第1章1.1
対馬輝昭(神戸流通科学大学)第1章1.2
佐々木緑(関西国際大学)第1章1.3
中村弘子(筑波大学・非常勤)第1章1.4
村山潤子(言語聴覚士)第2章2.1
西岡有香(大阪市教育委員会事務局指導部)第2章2.2
桐谷 滋(神戸海星女子学院大学)第2章2.5
林 良子(神戸大学)第2章2.5
村田純一(神戸市外国語大学)第3章概説、3.1
山本雅代(関西学院大学)第3章3.2
嘉納もも(京都女子大学)第3章3.3
八島智子(関西大学)第3章3.4
石川圭一(京都女子大学)第4章概説、4.3
野澤 健(立命館大学)第4章4.1
森 庸子(関西大学・非常勤)第4章4.2
山根 繁(関西大学)第5章概説、5.1
有本 純(関西国際大学)第5章5.2
神崎和男(大阪電気通信大学)第5章5.3
野村和宏(神戸市外国語大学)第5章5.4
門田修平(関西学院大学)第6章概説、6.3、6.4
西山正秋(神戸市立工業高等専門学校)第6章6.1
中西 弘(神戸大学・非常勤)第6章6.2
長尾知子(大阪樟蔭女子大学)第6章6.4
吉田晴世(大阪教育大学)第6章6.5



●目  次

第1章 言語獲得

1.1言語獲得研究の歴史
1.2音声の記号
1.3意味の獲得
1.4文法の獲得
1.5その他の言語獲得研究

第2章 脳と言語

2.1神経言語学研究の歴史
2.2脳機能と言語障害
2.3記憶の発達と言語習得
2.4言語習得と意識・注意
2.5その他の言語獲得

第3章 バイリンガリズム

3.1バイリンガリズムの言語能力の仕組み
3.2バイリンガリズムの言語習得と喪失
3.3バイリンガリズムと社会
3.4バイリンガリズムと教育

第4章 話しことばの認識と生成

4.1母音と子音の知覚と生成
4.2モーラの認識と生成
4.3音節とストレスの認識と生成
4.4リズムとイントネーションの認識と生成

第5章 音声言語の学習と指導

5.1日本人英語学習者の音声
5.2発音の学習と指導
5.3リスニングのメカニズムと指導
5.4スピーキングのメカニズムと指導

第6章 書きことばの処理

6.1語の視覚認知のメカニズム
6.2読みとワーキングメモリ
6.3文処理のメカニズム
6.4読みと音声の統合
6.5これからのリーディング指導への提言

結びのことば
参考文献
索引



●結びのことば

 ことばと人間の心理に関係する最近の主要なテーマを解説したのが本書である。6つのテーマはそれぞれ章を構成し、その章には編集委員がいて、章全体を統括している。各章の最初に書かれた「概説」は編集委員が書いたもので、日本ないし世界の研究状況やそのテーマを今後扱うための全体の展望や視点などを述べている。つぎに、そのテーマ毎に今日の学界や教育界で話題になり、その解明が求められている分野が「節」を構成し、おのおのその分野の専門家が執筆している。その「節」は「概要(=節の要約)」「キーワード」「本文」「まとめ」「詳しく研究する人のために」に分かれ、「詳しく研究する人のために」は「関連必須文献紹介」と「卒論・修論のための可能な研究テーマ」に分かれている。「刊行のことば」に書いたように、本書はことばに関する最先端的な話題を扱った。それらを単に読んでいただくだけでなく、その知識を武器にして、毎日の教育や研究に役立てていただくためにこの本は作られている。具体的には、大学院生、英文科、心理学科、情報学科などの学部上級生、中学校・高等学校の英語の先生方、英語教育・応用言語学・認知心理学の研究者など、ことばを科学的、学際的に究めようとする人たちのためにこの本は作られている。

 ことばは人間によって造られ、話され、理解され、書かれ、読まれているのだから、どうしても医学や心理学の知識が、言語学とともに必要である。本書はその方面の知識の紹介にかなりの紙数をさいている。問題は、これらの知識を、ただ、並べたのでは、人間がことばを運用するメカニズムは明らかとはならない。ことばの研究に動員された学問の学理から、最初に何が、次にどういう側面が作動するのかが明らかにされなければならない。そのためには、外国語学習成功者の軌跡からこの問題の糸口を見つけるのも1つの方法かもしれない。乳幼児の場合、言語障害治療の場合はどうなのか。

 ことばを巡るテーマは今回とり上げたのがすべてではない。「ことばの科学研究会」にはことばを今回とは違う側面から研究する会員も多い。またの機会に別の側面から、ことばの研究を紹介できる日のあることを期待している。

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