ことばは人を育て、未来をきりひらく知の源です。三省堂はことばをみつめて135年 サイトマップお問い合わせプライバシーポリシー
三省堂 SANSEIDOトップページ 三省堂WebShop辞書総合サイト Wrod-Wise Web教科書総合サイト ことばと教科
辞書教科書電子出版六法・法律書一般書参考書教材オンラインサービス
書名検索漢字かな著者名検索漢字かな詳細検索
新刊・近刊案内
メディアでの紹介
本の注文
書店様専用
大学向けテキスト
卒業記念
名入れ辞書
品切れのご案内
「ぶっくれっと」アーカイブ
会社案内
採用情報
謹告
三省堂印刷
三省堂書店へ
三省堂書店はこちら
声に出して読めない日本語。
「ほぼ日刊イトイ新聞」
(『大辞林』タイアップ・サイト)
  国際手話のハンドブック


国際手話のハンドブック 大杉 豊(全日本ろうあ連盟)編

1,500円 A5変 224頁 978-4-385-35982-X (品切)

海外旅行で、また、ろうあの人々との交流、国際会議などで使う「国際手話」のガイドブック。基本単語やいろいろな場面での会話を日本語・英語・イラスト(820点)でわかりやすく解説。世界各国の手話も紹介。

2002年8月5日 発行

編者紹介 はじめに 目次 コラム 身振りは万国共通ではない! 第1部 身振りから手話へ(内容の紹介の一部) 財団法人全日本ろうあ連盟の活動
アイコン 手話のハンドブック ハンドブック・シリーズ



●編者紹介

 財団法人全日本ろうあ連盟本部事務所長。1962年、東京都に生まれる。アメリカ、ロチェスター大学大学院言語学科修了、言語学博士。京都大学霊長類研究所共同研究員、ロチェスター大学アメリカ手話学科客員助教授などをへて、2000年より現職。主な著に、「手話通訳養成:ろう者講師に求められる役割と条件」(『手話コミュニケーション研究』第31号)、「コミュニケーション」(『聴覚障害の心理』所収)などがある。



●はじめに

 よく誤解されるのですが、私たちろう者の手話は世界共通の言葉ではありません。英語と日本語が違うように、アメリカの手話と日本の手話もまったく違います。ところで、アメリカ人と日本人が会ったら、言葉は通じませんね。ろう者も同じように言葉が通じませんが、少し努力して話しているうちに通じるようになります。

 これは手話が身振りだからという理由ではありません。たとえ、身振りであっても、身振りだけで難しい内容の話を伝え合うことはできないでしょう。手話は身振りと同じではありませんが、身振りが高度に発達して作られた言語なのです。この手話を使って生活しているろう者はみんなが身振りの使い方を自然に会得しているため、外国のろう者といきなり出会っても、お互いに知っている身振りを確かめ合いながら、会話の内容を膨らませていくことができるのです。

 このような外国のろう者との出会いから国際交流が発展してきた結果として、国際手話というものが形作られ、ろう者の国際的なイベントでは国際手話が公用語のひとつとされ、通訳者も増えてきています。

 本書は国際手話の基本をなす身振りコミュニケーションと各国の手話の違い、さらに世界のろう者福祉状況など、国際手話での交流に役立つ知識を第1部と第2部に収めています。第3部から国際手話の基本を紹介していますので、読者の皆さんが本書を通して国際手話を学ばれ、世界中のろう者との交流を愉しまれることを期待します。そして、世界中のろう者が抱える問題に関心をもってくださることをも編者として強く望みます。

財団法人 全日本ろうあ連盟
大杉  豊



●目  次

はじめに───────3

第1部 身振りから手話へ 7

国際手話とは────8
指さし───────9
シンボル─────12
描写的な身振り───16
指文字のルーツ───20

〈コラム〉
身振りは万国共通ではない!────22

第2部 世界各国の手話 23

世界の手話─────24
ネイティブ・アメリカン(インディアン)の手話────25
修道院の手話────28
アメリカの手話───30
イギリスの手話───32
フランスの手話───36
日本の手話─────39
タイの手話─────41
中国の手話─────43

〈コラム〉
アメリカのろう者福祉状況─────33
ヨーロッパのろう者福祉状況────38
アジアのろう者福祉状況──────46

第3部 国際手話の基本 47

指文字───────48
数の表現──────50
年・月・曜日────54
時間────────58
お金────────66
感情の表現─────69
問いかけ──────72
否定────────78
話し方・接続────81

〈コラム〉
国際的なろう者会議────────68
国際的なろう者スポーツ大会────77

第4部 基本単語編 87

人/家族──────88
教育────────93
仕事────────95
生活────────97
乗り物──────100
趣味/スポーツ──101
福祉運動─────103
形容詞など────105
地域/国/都市──108

第5部 国際交流会話編 113

挨拶・自己紹介──114
家族構成─────130
国際大会─────136
旅行───────152
交通───────158
店で───────168
銀行で──────171
レストランで───174
ホテルで─────182
スポーツ─────188
趣味───────198
病院で──────204

〈コラム〉
デフリンピックに参加して────207

財団法人全日本ろうあ連盟の活動───208

参考図書──────────────214
索引────────────────221



● コラム 身振りは万国共通ではない!

 アジアのろう者会議でインドからの代表と話をしていたときのことである。何かの確認で問い掛けたところ、そのインド人は首を横に振った私の話が通じていないのだろうと思い、もう一回話してみても、やはり同じように首を横に振る。内容は伝わっているようだったので、一応確認をすると、こちらの意図は正確に理解ていることがわかった。後で知ったことであるが、インドの人たちは「分かった」とか「OK」というときに首を縦に振るのではなく、横に振るしぐさをするそうである。

 次の文章は、1991年に東京で開催された世界ろう者会議の演劇祭典舞台監督を担当したときの経験をつづったものである。

 「フィンランドのダンスグループとの打ち合わせで、リーダーが舞台にあがって少し踊るや否や、突然私に“親指を舌につきたてる”ジェスチャーをした。それには「よくない」という意味があって、ヨーロッパではよく使われるものだそうだ。しかし、そのジェスチャーを見慣れていない私は、「最低だ!」と苦情を浴びせられたように受け止めて、気が動転してしまった。・・・(中略)・・・ドイツとの打ち合わせでは、彼らを舞台に呼ぶとき、掌を下向きにふって招くジェスチャーをしたのだが彼らはきょとんとした顔を見せるのみでぜんぜん来てくれない。通じていないことに気づいて、掌を上向きにふって招いてみたら、彼らはすぐ舞台の上に来てくれた。」(日本障害者リハビリテーション協会「障害者の福祉」1991年9月号)

 身振りは、国や文化の違いによって、さまざまである。また、同じ身振りでもまったく異なる意味をもつこともある。身振りは万国共通ではないという事実をつくづく思い知らされた経験であった。 (大杉 豊)



●第1部 身振りから手話へ(内容の紹介の一部)

図版は省略してあります。

国際手話とは

 本著で取り上げる「国際手話」は、世界ろう連盟でつくられた共通手話ジェスチューノ(GESTUNO)とは、少し別のものです。

 GESTUNOとは、イタリア語のGEST(ジェスチャー)とUNO(ひとつ)の組み合わせによってつくられた名前です。これは1951年から世界ろう者会議が開かれ、世界各国の異なる手話同士でコミュニケーションの疎通をはかる必要が生じてきたために、1959年に世界ろう連盟の国際共通手話統合委員会からGESTUNOの手話辞典第1集が刊行されたものです。この時は614語の共通手話単語が載っていました。それから1971年発行の第2集を経て、現在の第3集が1975年に発行されました。この第3集には1500語の共通手話単語が収められます。

 しかし、この手話にはいろいろと問題がありました。とくに、この手話を編纂するときに、ヨーロッパやアメリカのろう者の間で使用されている手話の表現を参考にしたものがほとんどであり、アジアやアフリカ地域で使用されている手話の表現はあまり参考にされませんでした。そのため、ヨーロッパやアメリカのろう者は比較的簡単にこのGESTUNOを使用してコミュニケーションをはかりやすくなりましたが、アジアやアフリカのろう者にとっては困難な状態でした。

 それでも、国際的な場で使用する共通手話としてGESTUNOが及ぼした影響は大きいものでした。世界ろう連盟主催の国際会議や国際大会など多くの国際交流の場で、世界ろう連盟の理事長などが自ら積極的に使用して、世界各国のろう協会の代表者などに広めていきました。そのような長い経緯を経て、世界のほとんどのろう者に受け入れられやすい表現の単語はそのまま残り、通用しにくい表現は使われなくなり、別の表現による手話が使用されるなど、淘汰されていきました。初めて編纂された当時のGESTUNOの手話辞書を見てみると、現在でも国際交流の場で実際に使用されている手話もあれば、まったく使用されていない手話もあります。

 国際手話とは英語でInternational Signと訳されます。日本手話やアメリカ手話のように文法が明確に規定された言語というよりは、GESTUNOで広まった手話単語をもとにして相手にわかるように工夫した方法で表現するという、コミュニケーションのひとつの方法として捉える見方が強いのです。

指さし

 国際手話の基本は自分の国の手話を十分にこなせていることです。手話は身振りが発達してでき上がった言語ですが、私たち人間はどういう種類の身振りを身につけているのでしょうか。また身振りがつくられる仕組みはどうなっているのでしょうか。

 人間は生まれて間もなく手指を直接ものに当てるしぐさを始めます。やがて手が届かないところにあるものを手指でさすようになりますね。これが指さしの始まりですが、1年して声の言葉が出るようになり言葉の数が増えていくにつれて、指さしを使う回数が減っていくようです。ものの名前をしゃべることができるようになるわけですから、「呼びさし」といってもよいのかもしれません。

 手指による指さしは成人になっても使っていますが、人前で他人を指さすのは失礼なことにあたるので、健聴者は社会的な場面ではあまり使わないでしょう。

 しかし、ろう者は逆に指さしをコミュニケーションのなかで盛んに使っているのです。指さしは手話を構成するもっとも大事な要素でもありますから、ろう者は指さしがなければ生きていけないといっても過言ではありません。

 指さしは実際に視界にある人やものをさして使われるのが一般的ですが、視界にない人やものをさして使われることもたびたびあります。たとえば、部屋の中にいて遠くにある空港への行き方を話すときに、手が自然にどことなく空港のありそうな方角を指さしていることがありますね。その方角が正確ではなくても、コミュニケーションは通じるわけです。また、さっきまで隣の席に座っていた人が退席したあと、そのだれも座っていない椅子を指さして「さっきここに座っていた人、だれだったかしら?」と話すこともあるでしょう。このように視界にないものを指さすような、抽象的な使い方もあるわけです。

 ろう者の話に戻りましょう。手話での指さしの使い方ですが、まず「あなたはきれいですね」と話すような場合には、目の前にいる相手を指さします。でも実際にその場にいない人についての話で「あの女の方はきれいですね」と話すときは、話し手の右横にその女性がいるような感じで、その方角を指さして話します。または、左手で「女性」という手の形をつくってそれを右手で指さ差す方法もできます。2つの方法はどちらも日本の手話の文法の基本とされています。

 上の例のような場合、国際手話には「女性」を示す手の形がないので、右横の方角を指さして使うことが多くなります。ここでのポイントは、あいまいな指さしでは何も伝えられないので、そこに本人がいるとしても、はっきり方角を定めて指さしをすることです。

 指さしは強く指でささないで、指さしの形を表すだけでも意味は十分に通じます。後ろにあるものを指さすときは人差し指の代わりに親指を使っても構わないでしょう。

 一般的な指さしと、手話で使われる指さしについて簡単に解説しましたが、指さしを使えるのは人間だけというのも興味深いことでしょう。チンパンジーなどの類人猿は手先がいくら器用であっても、指さしを使ってコミュニケーションを取る事は訓練なしにはできないのです。

 たかが指さしですが、人間だけがもっているコミュニケーションのたいせつな道具であり、国際手話でもコミュニケーションの確実性を高めているものなのですから、あらためて指差しの役割を見つめなおしてみたいですね。

シンボル

 日本では親指と人差し指で丸をつくると「お金」の意味になりますが、アメリカでは指全部をこするようなしぐさで表します。また、小指を立てる形のジェスチャーは日本本土では「女性」を意味しますが、沖縄地方以南、台湾や香港などでは「悪い」という意味をもちます。コラムにも数例を紹介していますが、このように手の形そのものが特定の意味をもち、国や文化によって意味が変化する身振りをシンボルとよびましょう。

 シンボルは手話を知らない健聴者もみんなが知っていて、普段からよく使っているものです。そして、指差しや描写的な身振りのように発声を伴わなくても、手の形を示すだけで相手にメッセージが十分に伝えられるという特徴があります。

 手話は身振りが発達してできた言語ですから、その国や文化のなかで通じるシンボルの身振りも手話を形づくるうえでの重要な要素となっています。日本の手話では「銀行」「支払う」「店」「お金持ち」「募金」「経済」「貯金」「わりかん」「給料」「税金」など、お金に関係する手話単語が「お金」を意味するシンボルを元にしてつくられています。家族関係の手話単語も男性、女性それぞれを意味するシンボルの組み合わせでつくられたものが多くあります。

 しかし、国際手話では、このようなシンボルの身振りを使うことが難しくなります。理由は国や文化によってシンボルの形と意味が異なってくるからです。アメリカ人を相手に小指を立てた形のシンボルを見せても、アメリカ人にはそれが何を意味するのか理解できません。日本のなかで通じる身振りが国際交流の場面では通じないということになりますし、逆に相手の反感を買うことも少なからずあるでしょう。たとえば、OKという手の形が、ある国では侮辱的な意味をもつことも実際にあります。日本のシンボルにどのようなものがあり、どのシンボルが世界共通ではないのかを前もって知っておくことがたいせつですね。

 国や文化によって異なるシンボルは国際手話では使いにくくなるのですが、そこで話している相手が同じシンボルを知っていることがわかれば、もちろんそのシンボルを使ってコミュニケーションを取る事ができます。何かのメッセージを伝えたいときに、シンボル以外の身振りが思いつかないときは、まずは日本のシンボルを表現してみるのもひとつの方法でしょう。

 シンボルはひとつの国や文化のなかで手の形と意味を結びつけて規定したものですから、手指でつくる記号体系ということになります。私たち人間はこのように手や指を使って記号をつくる能力をもっているのです。したがって、国際交流で国際手話を使う場面でも、その場で手指の記号を新しく確認しあうこともできることになります。実際にお互いが意味が通じていてもそれに相当した、共通する身振りをもっていないときは、それぞれが使っている身振りや手話単語のなかからもっともわかりやすい形の身振りや手話単語を選んで使う傾向が見られます。

 第三章から紹介する国際手話の単語のなかにアメリカの手話と同じ形の単語がいくつかあるでしょう。これは共通する手話単語がないので、アメリカ手話の単語が取り入れられたものです。

描写的な身振り

 言葉でうまく説明できないとき、または言葉だけの説明では相手にわかりにくいようなとき、私たちは自然に身振り表現で補っていますね。たとえば、スーツケース同士がぶつかって倒れた様子を言葉で説明することはできますが、それだけではスーツケースのぶつかり方とか、倒れ方まで細かく言葉で説明するには時間を要しますし、聞いている立場でもわかりにくく感じられることがあるでしょう。そういうときに、両手の掌をそれぞれのスーツケースに見立てて細かく表現することができます。右手を左手に強くぶつける表現で「スーツケースが別のスーツケースに強くぶつかった」様子を表せますし、両手を何回かぶつけ合う表現で、「スーツケース同士がなんかの振動でぶつかりあった」様子を表すことができます。

 この例では、スーツケースの形の特徴を掌で見立てて、その具体的な動作を両手の動きや位置関係などで表現することになりますが、このように物の形の特徴や、そのものの具体的な動作を表現する方法を、描写の身振りとよびます。

 実際に目に見えるものの表現例をあげましたが、目に見えないもの、抽象的な事柄の説明でも、描写の身振り表現がよく見られます。これはメタファー的な表現方法になりますが、たとえば、「私は大学で心理学と歴史学の2つを専攻している」と話すときに、人差し指を立てた形を両手でつくって、駒を進めるようなイメージで前に動かすといった表現です。

 手話では指さしが指示機能を担っていることを前節で説明しましたが、描写機能も手話の重要な要素です。つまり、健聴者を含めた人間がもっている描写的な身振り能力を、ろう者は手話の形でさらに発達させて、健聴者のそれよりも複雑で細かいルールを手話のなかにつくり上げてきているのです。ものの形の特徴それぞれに対応してどのような手の形を使うかが決まっており、ものの具体的な動作それぞれに対応してどのような手の動きで表すかが体系化されているわけです。

 たとえば、たくさんの自転車が一列に並んで道を走っている様子を表現するときは、まず「自転車」の手話を表してから、手刀の形を作って一列に並べるような表現が見られます。ここで、手刀を自転車に見立てているわけですが、もし拳の形を作って自転車に見立てようとしたら、それは難しいでしょう。自転車のイメージはやはり手刀でないと表せませんね。また、手刀の形を上向きに立てると自転車のイメージよりは本のイメージになりますから、手の形だけでなく手の向きも注意しなければいけません。そして、一列に並べた両手をそのまま前に進めることで、道を走っている様子を表現します。横に揺らしながら前に進める表現で「自転車が風か何かで揺れながら走っている」イメージが浮かびますね。もし右手を左手の後ろから前に出すと、自転車が前の自転車を追い越したことになります。

 このように体系化された手話の描写機能は世界各国の手話にあまり違いは見られません。指さしと同様に、描写的な身振りは人間が自然に授かっている能力のひとつなのでしょう。ただ、健聴者は耳で聞いて声を出す方法で音声コミュニケーションを取っていますから、目で見て身振りで表現する能力はもっていても、あまり使うことなく眠らせているのではないでしょうか。ろう者は日常生活で身振りコミュニケーションに頼っていますから、身振り能力が落ちることなく、手話の形で活用できているのでしょう。

 国際手話も描写的な身振りが基本ですから、まずは日本の手話を学びながら、描写機能を使いこなせるようになれば、国際手話もスムーズに操れるようになることでしょう。

指文字のルーツ

「指文字」とは、文字とおり、指で表す文字です。文字は通常、紙の上に書かれるか、印刷されるもので、半永久的に記録して残すことができます。しかし、指文字は指で文字をつづるので、いつでも繰り返し読めるものではなく、音声のようにその場限りで消えてしまいます。だから、指文字は厳密には文字ではないという考え方もありますが、一般的にはろう者のためにひらがなの文字を下敷きにしてつくられた「ろう者の文字」として捉えられています。

 ろう者にとって指文字とは、たとえれば日本語のカタカナのような感じです。日本語ではオランダ語や英語などの単語を日本語に取り入れるときに、外来語としてカタカナで表しますが、同じようにろう者も手話の表現方法が決まっていない単語を表すときに、日本語をそのまま手話に取り入れるような形で指文字を使います。ただし、英語を全部カタカナに置き換えて書いても意味が通じないのと同じく、日本語をすべて指文字に置き換えて話しても、ろう者に通じるわけではないことに注意して下さい。

 指文字はいつごろ生まれたのかはっきりしていませんが、キリスト教の修道院でろう児への教育を目的に指文字が使用されていたことが知られています。キリスト教ベネティクト派の修道院では「沈黙の精神」が尊ばれ、無駄に会話を交わしてはいけないという厳しい戒律がありました。声で話してはいけない代わりに、手話や指文字を使うことは許されていたため、修道院の中で手話や指文字が使われていたようです。どちらかといえば指文字が使われていたようですが、健聴者にとっては普段から使い慣れている音声言語をそのまま指文字で表すコミュニケーション方法が望まれたのでしょう。

 修道院で考案された指文字がろう者にも使用されたことを示す最古の資料では、1545年に北スペインのサン・サルバドル・ド・オーニャの修道院の修道士ペトロ・ポンセ・ド・レオンが、名家ベラスコ家の2人の息子(ろう者)に指文字を使って読み書きや会話を教えたということです。当時の名家では、ろうの子どもが生まれると、人目をはばかり子孫を残さないために、修道院に入れるのが慣例だったようです。ろうの子どもに読み書きを教えるために指文字が使われたことからわかるように、ろう者の間で使われている指文字は教育で使われて広まったのです。

 それからフランスのろう学校で使用され、ヨーロッパに広まり、アメリカやアジアにも伝わりました。それは各国さまざまなな言語の文字に対応する形で変化してきています。このように、ジェスチャーをもとにした手話とは違い、指文字は書き文字をもとにしているので、同じ文字を共有していなければ通じないことは言うまでもありません。たとえば、国際手話の指文字は、英語が公用語であることを前提に、英語のアルファベットをもとにした指文字が使われています。しかし、たとえ、その指文字で英単語を表したとしても、相手が英語を知らなければどうしようもないので、国際交流の場では氏名や特別の単語を表すときにのみに使われています。



●財団法人全日本ろうあ連盟の活動

財団法人全日本ろうあ連盟は、全国47都道府県に傘下団体を擁するろう者の当事者団体です。ろうあ者の福祉の増進や社会的地位の向上、ろう問題の啓蒙等のための諸事業を行っています。

その運動の理念は、「自立した運動を基本とし、ろうあ者が手話によって社会的に自立し、人間としての権利が守られる」環境を整備することです。具体的には、ろう教育における手話の導入や、手話通訳制度の充実による「情報・コミュニケーション」の保障を目ざしています。また、ろうと知的などの障害をあわせもつ重複障害者(児)の生活拠点となる施設づくりにも努力しています。法律の改正では、障害者の社会参加を阻んでいる医師法などの決格条項の改正運動も手がけてきました。運動勢力面の特徴としては、47都道府県に支部を有し、1万人の会員をもつ全国手話通訳問題研究会や都道府県単位の手話サークルとの連携があり、ろう者団体と手話関係団体による一体的な運動で、ろう者福祉や手話通訳事業の法定化などの成果をあげています。このような運動形態は国際的に見ても特異なものであり、モデル的なろう者運動のあり方として評価されています。近年では、その運動の経験を活かして、アジア各国のろう者を支援するなど、国際分野にも活動の幅が広がっています。

<事業>

【全国ろうあ者大会】

毎年6月に各県もち回りで開く、全日本ろうあ連盟の一番重要な大会です。この大会には全国各地から2,000〜3,000人が参加し、ろうあ者の社会的自立と社会的地位の向上および社会福祉の増進を目ざして研鑽と交流を深めています。

大会期間中、多くの催しが開かれます。そのなかでも、評議員会では福祉、教育、労働等、ろうあ者が直面する問題解決に向けた大会決議、年度方針の決定等を行います。大会終了後、この方針に従って関係省庁への働きかけや、各地域におけるろう運動が繰り広げられていきます。

全国ろうあ者大会の付帯行事として、「聴覚障害者に関わる研究分科会」や「全国聴覚障害者美術展」「全国聴覚障害者写真コンテスト入賞作品展」「全国ろうあ者演劇祭典」「全国ろうあ団体機関紙展」が行われています。

【全国ろうあ者体育大会】

全国のろうあ者がスポーツを通じて技を競い、健康な心と体を養い、自立と社会参加を促進し、あわせて国民のろうあ者に対する正しい理解を深めるために、1年に2回、夏季と冬季に開催しています。

夏季の体育大会では、野球、卓球、陸上、バレーボール、サッカー、テニス、ゲートボール、ボウリング、バドミントン、ソフトボール、バスケットボールが、冬季体育大会では、スキー各競技(大回転、スーパー大回転、回転競技、技術)スノーボード各競技(回転、大回転)が行われています。

【各種研修会等】

ろうあ者に関する諸問題に対してより効果的な取り組みをはかるため、各種研修会を行っています。

(1)全国組織活動者研修会(担当:組織部)

加盟団体の幹部養成を目的に、毎年開催しています。

(2)全国専従職員研修会(担当:組織部)

加盟団体の専従職員の質を高めるため、毎年開催しています。

(3)全国ろうあ者相談員研修会(担当:福祉対策部)

全国の自治体に設置されているろうあ者相談員の専門性を高めることを目的として、毎年開催しています。

(4)全国職業安定所手話協力員等研修会兼ろうあ者労働問題フォーラム(担当:労働対策部)

全国の職業安定所の障害者担当官や手話協力員、連盟加盟団体の労働担当役員を対象に、研修と情報交換のため毎年開催しています。

(5)全国ろうあ青年研究討論会(担当:青年部)・全国ろうあ婦人集会(担当:婦人部)・全国ろうあ者老人大会(担当:老人部)

おのおの、ろうあ青年・婦人・老人の交流・研修の場として、毎年開催しています。

【委託事業】

(1)厚生労働省

 1) 手話通訳指導者養成研修事業

  全国の手話講習会の指導者養成のための研修会で、全国各8か所で開催しています。

 2) 標準手話研究事業

  日本語に対応した新しい手話を創作する事業で、年間100語程度の単語を手話化しています。

 3) 手話普及定着事業

  標準手話研究事業で創作された手話を全国のろうあ者に普及させることを目的に、全国8か所
  で研修会を開催しています。

(2)国際協力事業団(JICA)

国際協力事業団からの業務委託で、1か月半にわたる研修プログラム「聾者のための指導者(アジア・大洋州諸国)」を実施しています。

【その他の事業】

(1)全国手話通訳問題研究集会・全国手話通訳問題研究討論集会

全国手話通訳問題研究会と共催で、手話通訳についての諸問題を話し合い通訳制度の発展をはかるために年に2回、夏と冬に開催しています。

(2)全国高校生の手話によるスピーチコンテスト

朝日新聞厚生文化事業団と共催で全国の手話を学んでいる高校生を対象に毎年8月に実施しています。

(3)ろう教育を考える全国討論集会

毎年夏に開催し、ろう学校の教育実情やろう教職員の採用問題、ろう教育に手話を取り入れる問題など、幅広く討論しています。

【出版事業】

手話やろうあ者をめぐる諸問題を、手話を学ぶ人や一般の人たちに正しく理解してもらうため、出版事業を行っています。

『わたしたちの手話』(単語編1〜10巻、会話編1〜3巻、スポーツ用語1巻、新しい手話1〜3巻、続I)は、連盟が独自で編纂した語彙集で、1969年(昭和44年)の第1巻創刊以来各地で広く使われ、全国的普及に役立っています。

また、厚生労働省の「手話奉仕員・手話通訳者養成カリキュラム」に沿って『手話教室入門・基礎』『手話通訳者養成講座基本・応用・実践』を発行し、各地の手話講習会で普及しています。

その他、世界で初めて8000用例を掲載した『日本語 ─ 手話辞典』、ろうあ者問題に関する出版物の発行(『手話の知恵』『新しい聴覚障害者像を求めて』『財団法人全日本ろうあ連盟五十年のあゆみ』『50年の歩みそして未来へ』『きこえない子どもと共に』等)のほか、ビデオ、CD-ROMの販売も行っています。

【機関紙活動】

「日本聴力障害新聞」は連盟の機関紙で、1948年(昭和23年)5月1日、戦前の「聾唖月報」紙の伝統を受け継いで創刊しました。当初は「日本聾唖新聞」と題していましたが、1952年(昭和27年)から現在の「日本聴力障害新聞」に改題し、毎月1回発行しています。また、この新聞を『日本聴力障害新聞〈縮刷版〉』として数年に1回発行しています。

国内外のろうあ者と連盟の活動に関するさまざまなニュースを報道するとともに、埋もれている差別や人権侵害の事実を掘り起こし、紙面を通じて読者・市民に理解を広げ、よりよい社会をめざす一役を担っています。
また、機関誌として、『季刊MIMI』を年4回発行し、ろうあ者に関するさまざまなニュース、特集、連載記事、対談等を紹介しています。

【国際活動】

(1)世界ろう連盟

世界ろう連盟は、1951年に設立された各国のろうあ者の団体をとりまとめるNGOで、国連と障害分野でのつながりをもっています。

連盟は1959年(昭和34年)に世界ろう連盟へ加盟し、1967年(昭和42年)の第5回世界ろう者会議に初めて代表を派遣しました。1975年(昭和50年)の第7回世界ろう者会議からは毎回代表を派遣しています。

1991年(平成3年)7月には54か国7,000人の参加を得た第11回世界ろう者会議(於:武道館、東京)を日本で盛大かつ充実した内容で開催し、参加国や国内の関係者から賞賛と高い評価を得ました。

また、そのとき開かれた世界ろう連盟評議員会で、連盟理事長(当時)の高田英一が日本人として初めて世界ろう連盟理事として選出されました。

(2)世界ろう連盟アジア・太平洋地域事務局

1983年(昭和58年)イタリア・パレルモで開かれた第9回世界ろう者会議開催時に、世界ろう連盟アジア・太平洋地域事務局の日本設置を世界ろう連盟から要請され、連盟はその年の10月設置受諾を決定しました。

世界ろう連盟アジア・太平洋地域事務局は、アジア・太平洋地域代表者会議を各国もち回りで毎年開催し、アジア・太平洋地域のろう者の福祉向上のために活動しています。

(3)「アジアろう者友好基金」の活動

1996年(平成8年)に連盟の創立50周年の記念事業として「アジアろう者友好基金」を設立しました。この基金は、「アジア・太平洋障害者の十年」の理念に基づき、連盟としてアジアの聴覚障害者の実情に合った支援体制をつくり、共にアジアのろうあ者の完全参加と平等を実現することを目的とし、全国で募金活動を行っています。

【その他】

●日本手話研究所

日本手話研究所は、手話に関する研究を行う連盟の内部組織です。日本手話研究所では、『手話コミュニケーション研究』という研究誌を年4回発行し、その他手話に関するセミナーの開催、『日本語 ─ 手話辞典』ほか手話の書籍の編集等を行っています。

このページのトップへ