書名 漢字 よみ 著者名 漢字 よみ
さらに詳しく検索

トップ・ページ  新刊・近刊
辞書  電子出版  一般書  六法・法律書  教科書  参考書  教材  品切一覧

ある日、化学物質過敏症

表紙の写真

山内稚恵 著

1,400円 四六 240頁 978-4-385-36131-X (品切)

「毎日が拷問のようです」と語る化学物質過敏症患者の手記。ある日、油絵の下塗り中に激しい頭痛とめまいに襲われ、次々と身の回りの化学物質に反応して外出も不可能になってゆく6年間の赤裸々な記録。「いのちのことばシリーズ」(の一冊。

2003年3月12日 発行

 化学物質過敏症支援センターのHP
 医療・健康サイト



●目  次

はしがき

発症/テンペラよ、お前もか/絵の具の攻撃/原因不明・治療法なし/近所の新築工事/アパート探し/どこへ行けばいいの/施主への要望書/その後のてんまつ/アトリエ行き/木炭で勉強したこと/ガスよ、お前もか/酒席の辞退/アルコールのいたずら/無農薬・有機栽培/卵と鶏と牛と豚/夫とゲンタシン/シンナーの処分/化学物質追い出し作戦/私たちの親しんできた化学物質というもの/入浴−キシギシ・ネチネチとのたたかい/洗濯てんまつ記/ストレッチ体操と指圧/うどんとイカナゴ/怪人プラスチック/怪人プラスチック−塗装/怪人プラスチック−波板/怪人プラスチック−食品包装/改築の挨拶/襤褸のカシミヤ/便座カバーと抗菌処理/カモミールと入浴/水道の水/マチの死/新しいものはみな怖い/失われた日/化学物質過敏症の治療/農薬の来襲とセラミックの空気清浄器

付録・化学物質過敏症を発見したランドルフ医師の生き方

あとがき

資料/化学物質過敏症の患者に対応している医師・医療機関等リスト



●はしがき

 七年前の初夏の頃でした。油絵の下塗り中に急に激しいめまいと頭痛、何もかもうっちゃりたい疲労感におそわれました。これが、私の化学物質過敏症のはじまりでした。

 それ以来、下塗りの塗料だけでなく、さまざまな化学物質に出会うたびに、頭痛、目のかすみ、筋肉痛、関節痛、呼吸困難などを起こすようになりました。

 無知な私は、使い慣れた品にどれほどの化学物質が使われているかを知りませんでしたから、避けることもできないままに、次々と身の回りの物に反応していきました。

 いちばん困ったのは、友人、知己から来た郵便物で、何日か濡れ縁に出して外気にさらさなければ、手にとることもできません。電話も、電磁波に反応して数分でのぼせあがって頭痛がし、午後には発熱して、ひどい疲労感で、ものを言うのも億劫になります。人々からのお見舞いや話しかけに応じられなくなり、人様に対応するのもつらくなっていきました。

 三年前からは、農薬に激しく反応しはじめました。夏が近づくと、私は青い空と太陽を失ってしまいます。晴れた日は茶畑に農薬をまく日が多くなるからです。予告があると、雨戸をしめ、ガラス戸との間に詰め物をして恐ろしい時間が過ぎ去るのを待ちます。

 四年前の夏には、墓参に出かける途中、電車内の消毒や乗客の衣服や化粧などの刺激に耐えられずに下車して、目的を果たせずに帰らなければなりませんでした。以来、外出ができなくなり、翌月の親戚の葬儀にも参列できませんでした。

 四年の間、門を閉ざして人に会えないことが、どんなにつらいことであるか、自由に人と交われる方たちには想像もつかないことでしょう。

 化学物質過敏症の恐ろしさは、普通の人には感じられないような、ごく微量の化学物質に反応して苦しむので、人に理解されにくいことです。時にはそれが誇張と思われたり、異状な性格のめんどうな人と解されます。家族にすら理解されないことがあります。

 患者は、日常接している化学物質に思いもかけない反応を起こすので、どんな化学物質に、いつおそわれるかもしれないとおびえ、人々が身辺にただよわせている化学物質を避けようとします。隣人に配慮をお願いすることから、相隣関係がまずくなることもあります。なかには住めなくなって、十回も転居した人がいます。

 こうして患者は自らを隔離し、孤立してゆきます。

 私は発症してから一年三か月の間に、三つの病院を受診しましたが、どこの病院でも「原因不明・治療法なし」と言われている間に、次々と新しい化学物質に反応するようになっていきました。もしこの頃、日本でも化学物質過敏症の研究が進んでいて、病気の性質や治療法がわかっていたなら、私もここまで症状が悪化することはなかったのでないかと悔やまれます。

 発症初期に自分の病名すらわからず、あとで北里大学で治療できると知った時には、新幹線にもバスにも乗れず、受診すらできなかった私は、各都道府県に最低ひとつは、この病気を診断し、治療できる病院が必要だと痛感します。患者の置かれている実態を知って、化学物質過敏症の診断・治療を志す医師がふえてほしいと願っています。

 化学物質過敏症は、たとえて言えば、コップに満たされた水の最後の一滴、それがあふれだした状態だと、北里大学医学部の宮田幹夫先生はおっしゃいました。

 私たちは今、家の内でも外でも化学物質にとりまかれて暮らしていて、十人に一人は、化学物質過敏症の潜在患者だとも言われています。プラスチック製品や抗菌グッズ、駅や電車、店の消毒。米や野菜や果物に使われる農薬、排気ガスや建材や殺虫剤など、業務用、日常用に七万種の化学物質が使われ、健康な人は、それらを使いこなして、便利で豊かな現代文明の中に生活しています。

 すでに、自分のコップの水があふれる寸前になっているのに気づかずにいる人も多いのではないでしょうか。かつての私も、天下泰平に暮らしておりました。

 近頃は、シックスクールの問題について、文部科学省も対策を考えはじめたようですが、小・中・高校生の中には、学校の床のワックス、石油ストーブ、抗菌加工の制服や学用品、教科書の紙や印刷インクなどに反応して、学校から帰るとぐったりしてだんだん症状をひどくし、ついには不登校になる生徒がふえているそうです。化学物質を避けられない現代文明の中で働く青壮年がひとたび化学物質過敏症になれば、この病気に対する配慮のほとんどない生活環境で苦しまなければなりません。

 今、健康な人にこそ、一見清潔で豊かに見えるこの社会環境の危なさを知ってほしいと思いはじめました。

 私のこの七年間の化学物質過敏症の体験を読んで、みなさんが、化学物質のあふれる中で、その濫用を避け、改めて、自分の身辺を見回して身を守ってくださるようになればと願っています。

2003年1月

著者 山内稚恵(やまうち・ちえ)

このページのトップへ
トップページへのアイコン




Copyright (C) 2014 by SANSEIDO Co., Ltd. Tokyo Japan