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実践
管理会計と
企業価値経営

実践 管理会計と企業価値経営

宇野永紘 著

2,800円 A5 264頁 978-4-385-32192-9

企業価値経営(VBM)実践のための管理会計のすべてを分かりやすく解説。難解な管理会計の理論を、豊富な図版と実例を駆使して解説。実務経験豊富な著者によるもっとも分かりやすい管理会計の入門実践書。

2003年4月10日 発行



●はじめに

 本書で筆者がとりあげたいテーマは2つあります。

 ひとつは、企業会計の世界で「管理会計」と呼ばれている手法や考え方をもっと手軽に日頃の経営活動に活かすことができないのかという筆者自身の疑問に筆者なりの答を出してみようという試みです。

 もうひとつは、「企業価値経営」と呼ばれている経営手法への取組みについて難しく考えるのではなく、企業経営に関わる方たちがこの問題にどう向き合ったらよいのか、今すぐにでも実践できるやり方としてどんなことが考えられるのかを模索してみることです。

 「管理会計」とは、事後会計である「財務会計」と違って、将来に向けての会計、将来に向けての課題を分析する事前会計です。企業は常に将来に向かって活動しているわけで、「管理会計」は企業経営に極めて重要な意味合いをもっています。

 筆者はかつて銀行に勤務しておりましたが、かなり長い期間、プロジェクト・ファイナンスやM&A(企業の合併・買収)業務に関わった経験があります。プロジェクトもM&Aもこれに関わる企業にとってはすべてこれからの話です。したがって、こうした分野で用いられる会計手法はその殆どが「管理会計」的手法です。

 筆者が「管理会計」の効用を身をもって体験したのは今からかれこれ四半世紀前、マレーシアのペレリス州カンガーという町にあるセメント工場で仕事をしていたときでした。当時、筆者はアジア諸国の民間資本の育成を目的とした投資会社(一種のベンチャーキャピタルです)に出向中で、シンガポール本社勤務をしておりましたが、このセメント会社(マレーシア連邦政府、ペレリス州政府の他に現地の民間資本が共同で設立)の建て直しプロジェクトに日本のさる大手セメント会社から派遣された技術者の皆さんと一緒に悪戦苦闘しておりました。そのとき、この日本のセメント会社から技術顧問として派遣されていた方から「限界利益」の実践的使い方を学びました。「限界利益」とはまさしく「管理会計」の概念であり、筆者も知識として知らなかったわけではありませんが、その実践的使い方を改めて目の当たりにしたというわけです(このケースの詳細については本文を参照してください)。

 ところがその後経営コンサルティングの世界に入ってみて感じたことですが、不思議なことに日本の企業の間ではこの「管理会計」があまり活用されていません。この理由や背景には色々なことが考えられますが、それはともかくとして、使って意味のある、本当に経営に役立つ手法、考え方を使わない手はありません。

 それでは、企業経営者はこの「管理会計」をどのような経営に活かしたらよいのでしょう。

 これからの経営のベクトルをどこへ向けるべきかという問題ですが、筆者は「企業価値経営」こそがこのベクトルの目指す方向であると考えています。冒頭でふれた二番目の課題です。

 現在、アメリカでは企業の経営指標として何を使うべきかをめぐって静かな、しかし熱い戦い、論争が展開されています。この戦いの主役は経営コンサルティング会社ですが、その中心的な課題は、EVA(Economic Value Added)を主張するスタン・スチュアート社とCFROI(Cashflow Return on Investment)を掲げるホルト社の戦いです。経営ジャーナリストのR.Myers氏はこの論争をその著書"Metric

 Wars"(「モノサシ戦争」とでも訳したらよいのでしょうか)と題する記事にまとめています。どちらも「企業価値経営」(Value-based Management、略してVBMと呼ばれています)を実践し、実現するための指標です。

 日本企業のなかには最近EVAに興味をもち、実際に活用している企業もあらわれつつありますが、経営者の間で依然人気の高い経営指標はROE(株主資本利益率)のようです。しかしこの指標も多くの欠陥を抱えた指標です。かつてはアメリカ企業もROEを使っていた時代がありましたが、現在進行中の「モノサシ戦争」のなかでは殆ど省みられない指標になっています。「モノサシ戦争」はROEにかわるVBMのための経営指標を模索するプロセスでもあるわけです。

 ところで、VBMとは、企業価値の最大化こそが企業経営の究極の目的であるととらえ、経営活動のベクトルの向きを「企業価値の向上」として、日頃からそのための活動を実践していくことに他なりません。既にこうした考え方を導入した企業もいくつか見受けられますが、日本でのVBMはまだまだようやく緒についた段階といったところです。

 本文のなかで詳しくふれますが、「企業価値」を作り出すのは「キャッシュフロー」、正確には「フリーキャッシュフロー」といわれるファクターです。企業価値の最大化をはかるためには、この「フリーキャッシュフロー」を永続的に少しでも多く生み出していく必要があります。これからの企業経営にはこうした視点が不可欠になると考えております。

 平成12年3月期より、上場企業は貸借対照表、損益計算書に加えて「キャッシュフロー計算書」の作成を義務づけられました。VBMに向けてのインフラが整備されたわけです。

 ところで、従来作成を義務づけられていた財務諸表、とくに損益計算書はいわゆる実現主義・発生主義という会計的考え方に基づいていますが、「キャッシュフロー計算書」はすべて現金主義で作成されます。ここにも従来型の会計思想からの「発想の転換」がみてとれます。

 実現主義・発生主義による財務会計を否定するわけではありませんが、財務会計の縛りを離れて、例えば現金主義で経営活動を分析してみると違った「絵」がみえてくるケースがあります。

 ある投資案件を実行すべきか、断念すべきかといった意思決定を行う際に財務会計的な分析だけでは判断を誤る可能性が多々あります。原価計算を行う場合でも、全部原価計算のかわりに直接原価計算や「スループット会計」(キャッシュフロー・ベースの会計手法)を使うと原価が違ってきます。このことは、財務会計の中心思想である特に発生主義から一度離れて、違った角度から経営をみることの重要性を私たちに教えてくれます。

 このように、筆者が冒頭に掲げた2つの課題は実は互いに密接な関わり合いをもっています。VBMの具体的実践に役立つ管理会計的手法を探るのが本書のテーマです。

 ところで、筆者がニューヨークに勤務していた1980年代終わりから90年代の前半は日本企業がわが世の春を謳歌していた(今から思えば実際にはその陰でバブル経済の崩壊がしのび寄りつつある時期でもありましたが)一方で、アメリカ企業は不振のどん底にありました。そうしたアメリカ企業がやったことといえば徹底した日本研究、日本の企業経営の研究でした。日本企業の優れている点を謙虚に、しかし徹底的に研究し、良い点、学ぶべき点はどしどし採用しようというわけです。日本の企業はもともと生産管理、品質管理で世界をリードしていましたが、例えばトヨタの「カンバン方式」が"JIT"(Just in time)と名を変えてアメリカ企業にどしどしとりいれられたことは皆さんご承知のとおりです。

 「企業価値経営」が注目を浴び、EVAやTOC理論といった管理会計手法をアメリカ企業が採用し始めたのもまさにその頃のことです。

 財務マネジメントの分野はどうかというと、少なくとも筆者の感想ですが、当時から日本企業の遅れが気になりました。例えば、今でこそ「キャッシュフロー経営」が注目されていますが、当時のアメリカでは既にキャッシュフローの分析を抜きには銀行融資もM&A(企業の合併・買収)も考えられない状況にありました。ひとつのプロジェクトを立ち上げる、工場設備を拡張する、他社の買収を考えるといった投資行為の是非を判断する際にはあらゆる可能性を見越した上で周到なキャッシュフロー分析が行われます。投資にまつわるリスクについても統計的な手法を駆使したリスク分析が投資意思決定に重要な役割を果たします。

 ここでも「管理会計」分野での彼我の差を感じざるを得ませんでした。

 アメリカ企業が日本企業を徹底的に研究して立ち直りに成功したのであれば、今度は日本側がアメリカのやり方を徹底的に研究する番です。財務マネジメントに関する限り、我々が彼等から学ぶべきことはまだまだ沢山あります。もちろん、筆者もアメリカのやり方がそのまま日本企業に適用できるとは考えてはいません。参考にできるもの、利用して効果のあるものだけを考えれば十分です。

 本書は、中堅・中小企業といった日本経済を支えている企業が今後VBMを導入・実践することを想定して、そのために使えそうな「管理会計」的考え方、手法をまとめたものです。「管理会計」全般に興味をもっている方、「管理会計」をもっと有効に活用したいと考えている方、「企業価値経営」を実践するにはどんなアプローチが考えられるのか考えている方はもちろん、経営トップの方たちにも是非ご一読いただきたいと思います。

 この種の本はわかりやすいことが第一です。できるだけ多くの事例で説明するように心掛けました。本文中の事例は筆者の体験や最近関わったコンサルティング案件を参考に作ったものでフィクションではありますが、かなり事実に近い事例です。

 本書が読者諸賢の企業経営の現場で少しでもお役に立つのであれば、これにすぐる喜びはありません。



●【CONTENTS】

I.管理会計の重要性9

第 1章 財務会計と管理会計10

雑学NOTE●複式簿記の誕生/企業会計原則 20

第 2章 企業価値経営について21

第 3章 財務諸表について31

雑学NOTE●「ヴィルヘルム・マイスターの修行時代」/EBIT、EBITDA/ROE 45

第 4章 利益とキャッシュフロー46

雑学NOTE●キャッシュフロー計算書/キャッシュフロー経営 56

II.原価計算の基礎知識57

第 5章 原価計算58

第 6章 直接原価計算73

第 7章 スループット原価計算80

雑学NOTE●スループット会計/小説『ゴール』 86

第 8章 活動基準原価計算(ABC)87

雑学NOTE●原価計算 101

第 9章 CVP分析と限界利益102

第10章 意思決定に使われる特殊原価概念115

III.VBM(企業価値経営)の理論123

第11章 資本コストについて124

雑学NOTE●CAPM小史 133

第12章 投資の採算性について(その1)134

雑学NOTE●DCF法 146

第13章 投資の採算性について(その2)147

雑学NOTE●キャピタライズ(Capitalize) 156

第14章 VBMのための指標(その1)157

第15章 VBMのための指標(その2)164

雑学NOTE●残余利益/ジェネラル・エレクトリック社(現在のGE)と残余利益 175

第16章 VBMのための指標(その3)176

第17章 VBM指標の選び方193

第18章 経営分析と残余利益の計算205

第19章 バリュードライバー分析224

IV.実践・VBM(企業価値経営)231 

第20章 将来業績ならびにVBM指標の予測232

第21章 VBMの実践に向けて241

第22章 VBMの実際248

結びにかえて254

事項索引 256

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