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自殺をくい止めろ! 東尋坊の茂さん宣言


自殺をくい止めろ! 東尋坊の茂さん宣言

茂 幸雄 著

1,600円 四六判 192頁 978-4-385-36475-9

福井県・東尋坊の水際で多くの自殺をくい止めてきた茂さんが全国民に呼びかける自殺防止宣言の書。自殺志願者たちの人生や抱える困難を紹介、私たちでもできる支援の方法、そして全国に広がる市民ネットも紹介。

はじめに   目 次   著者紹介

2010年5月15日 発行



はじめに

 自殺の名所と呼ばれている、福井県・東尋坊の片隅に
 「たった一つの命、お持ち帰りできます」
 「1分58秒でお持ち帰りできます」
 こんなテイクアウトのメニューをかかげたお餅屋があります。
 店名は、「心に響く おろしもち」。
 お世辞にも、流行っているとはいえません。
 福井名物の、大根おろしをからめた「おろし餅」や「きなこ餅」「あべかわ餅」などのメニューがありますが、興味を持って立ち寄る観光客はまばらです。
 とくに夏場は、熱いお餅を食べる人はほとんどいないのに、このお店ではお餅にこだわっています。何故なら、お餅は日本人にとって祭事には欠かせない神事的な食品として重宝がられており、昔は、年末になると、家族や近所、親戚の人たちが当番の家に集まり、全員で蒸した餅米を搗き、人と人とのきずなを確認する大切な行事の一つとして正月用のお餅を用意していました。そして、正月になるとお餅や雑煮を家族全員で食べて、新年を迎えたのです。
 また、お祝い時のお土産物の一品として必ず提供されており、もらったお餅を親戚や近所の人に振る舞う、近所付き合いの糧になっていました。

 

 私たちは、東尋坊へ来ざるを得なくなった人たちにお餅をご馳走し、もう一度人間としての喜びと安らぎを取り戻してもらっています。

 来店するお客さんは少ないのですが、店の電話や携帯電話はひっきりなしに鳴っています。このお店は、自殺防止を目的としたNPO法人「心に響く文集・編集局」の活動拠点として開設したのです。

 東尋坊は、越前加賀海岸国定公園内にあり、安山岩の柱状節理の岩が高さ25メートルまで垂直に伸び、幾重にも日本海に突き出ているのです。岸壁から見おろせば、足がすくみます。ここは、景勝地として人気がある一方で、自殺の名所としての顔があり、毎年、20〜30人がここで命を落とし、100〜150人が自殺未遂者として警察に保護されています。

 このNPOでは、ここ5年11ヵ月で241人の「命をお持ち帰りいただいた」実績がありますが、今年は、全国的にも最悪の勢いで自殺者が増えており多忙を極めています。

 昨年(2009年)7月31日、福井県内の六呂師高原温泉・ピクニックガーデンでは、自殺未遂者が集う「〜体験者等との一泊二日の集い〜本音で語り合おう!」が開かれ、参加者のうち16人は、かつて東尋坊で助けられた自殺志願者であり、埼玉県、三重県、石川県、大阪府……から集まり、今では立派に社会復帰していますが、参加したくても仕事が忙しくて来られなかった人もいました。

 その人たちのほとんどが、かつては多重債務、派遣切りや生活困窮者、うつ病などで苦しんだ人たちでした。
 「自殺を考えるほど苦しかった時、まわりの人たちにどうして欲しかったの?」
 「あの時、何があれば東尋坊の岸壁に立たなくてもよかったの?」
 と、体験談を語りあい、その内容を自殺防止の対策に役立ててもらうため内閣府や厚生労働省にも報告しました。

 私たちに命を助けられた人は、二度と自殺をしません。それは、私たちに独自の自殺防止哲学があるからだと思います。

 自殺を考えて来られた人は、「死んだらアカン!」と、誰かに声を掛けて欲しいのです。問題は、自殺しなくてもいい環境になるまで、相手と一緒になって行動してあげることです。

 この活動を始めたのは、実は、自殺を防げなかった苦い経験があったからです。

 2003年3月、私が当時三国警察署(現坂井西警察署)の副署長に着任したとき、管轄内となる東尋坊で、毎年多くの自殺者や同未遂者がおり、そのたびに海上保安庁や消防署のレスキュー隊が出動し、警察が検視・保護を行なっていたのです。

 その年の秋のことです。日没時の退庁後に、自主的に一人で東尋坊を自殺防止のためパトロールをしていた時、松林の中にあるベンチで東京在住の72歳の女性と55歳の男性が手首を切り、タオルで止血して日没を待っている姿を認めたため、直感で自殺企図者と判断したことから近づいていき事情を聞きました。

 そうしたところ、

私たちは東京で居酒屋を経営していましたが200万円の借金が溜まり、もう再起不能で夢もなくなり、日没を待って岩場から飛び込み、自殺をするつもりでした。

 と、しぶしぶ説明したのです。そこで再起を約束させて病院に搬送し、地元役場に現在地保護の適用者として引き継いだのです。
 こんな場合、警察官は警察官職務執行法により「生命に危害を及ぼすおそれのある者」は、「これを保護しなければならない」と定められており、警察官の保護は「24時間以内に関係者に引き継ぐこと」という時間的制限があるのです。しかも、警察は「民事不介入」の原則があり、揉め事の中にまで入れないのです。一方、引継ぎを受けた地方自治体の義務として、生活保護法により「現在地保護」の規定があるため私は、生活保護の手続きをして引継ぎをしたのです。
 そんなことがあって数日が経ち、私宛てに一通の手紙が届きました。

 

三国署に行った際は、もう一度東尋坊より自殺しようと決めていた二人が、皆様の励ましのお言葉に頑張り直そうと再出発致しましたが、(中略)疲れ果てた二人には、とうてい「戦っていく」気力は有りません。(中略)これから、この様な人間が三国に現れて同じ道のりを歩むことの無いように二人とも祈ってやみません。

 

 日本国民は、憲法第25条で、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と保障されています。

 ところが、居住地以外で生活保護を申請しても、"交通費だけが支給されてたらい回し" が行われ、隣の地方自治体まで追っ払われていたのです。

 この二人は、三国町(現在・坂井市)の福祉担当者にも相談しましたが、「死ぬならどうぞ」と冷たく突き放されたそうです。

 隣接する石川県の金沢市役所や小矢部市、富山市、魚津市、直江津市(現、上越市)、柏崎市でも、500円前後の交通費を支給されただけでした。

 二人は三日間、野宿を続けたというのです。

 手紙に、「長岡が最終の地と決断」とあったため、胸騒ぎがしたので長岡市役所の福祉担当者に電話をかけました。

 ──私あてに遺書が届いたので電話をかけました。男女二人連れが、おたくを訪ねて行ったと思うんやけれど。
 「……(無言)」
 まったく返事がなかったため声を荒らげて
 ──どないしたんやッ!?
 「……実は、今朝、うちの役所の近くの神社で、首を吊っているのが発見されました」

 私は、人の命が、国や地方自治体の予算と天秤にかけられている現実を目の当たりにしてしまったのです。

 当時、東尋坊での自殺者や未遂者は増加傾向にあり、警察で保護されても対応する警官は若手が多く、中高年をアドバイスするのは不可能に近かったのです。

 そこで私は、自費で新聞広告を出して自殺を思い止まったり、自殺願望を克服した人から作文を募集し、団体名を「心に響く文集・編集局」と名づけて自費出版したのです。これが、私たちのNPO法人の団体名となり、活動母体の誕生となったのです。

 また、東尋坊で自殺を防ぐために会員を募集し、岩場をパトロールして声を掛けて歩くのですが、これが "東尋坊のちょっと待ておじさん" の誕生でした。

 

 ある日、パトロールをしていると、中年の男性が岩場でコップ酒をあおりながらシクシク泣いており、酒で勢いをつけ、まさに岩場から飛び込む寸前の人を見つけました。

 ──何しに来たん? 私は悩み事はすべて解決できるよ。
 しばらくして、男性は声を荒らげて
 「……おれがこれだけ悩んできたのに、誰が解決できるんや!?」
 ──ワシは200人以上も助けてきた。一度、ワシに話しをしてみいや。その後に飛び込んでも遅くないだろ! 名前や住所を言うのが嫌だったら言わなくても良いよ!

 

 その男性は、建設関係の仕事をしていたが、腰を悪くして働けなくなり、収入もなくなり、酒に浸るようになったそうです。すると妻は、夫を殴る蹴るの逆DV状態になり、夫の体はアザだらけだったのです。離婚にも同意してもらえず、生命保険をかけられて、「死んでこい」と家を追い出されたと言うのです。

 この男性が住む中国地方にある彼の自宅へ一緒に行き、マンションを売って引っ越す直前の妻と面接して、
 「あんたは、旦那さんに『死んで帰って来い』と言ったんやって? 自殺関与罪というのがあるのを知ってるか?
 ワシは元警察官や。DV法もあるし、生命保険詐欺にも該当する可能性がある。どうする?」
と言って、六法全書を提示して刑法第202条「自殺関与罪」について説明したところ、"鬼嫁" は、あっさりと離婚を承諾しました。この男性は、元気に社会復帰しています。

 

 また、別の日の夕方、岩場で若い女性が生後4ヶ月の男の赤ちゃんを抱えてボンヤリと座っていました。  ──何があったのですか?  彼女は泣きながら少しずつ話し始めました。結婚して7年間子供が授らなかった33歳の主婦でした。 「この子が産まれるまでOLとして働いていましたが、社内の男性と不倫関係に陥り、この子ができてしまったのです。そのことが主人にもバレてしまいましたが、主人は許してくれました。しかし、良心の呵責からどうしても主人に申し訳なく、この子を道連れに今から海に飛び込むところでした……」

 彼女は以降、何回となく私たちの元へ、子どもを連れて遊びに来てくれており、漸く生き続けていく希望が見えてきたみたいです。

 

 「死んだらあかん」と言うからには、その言葉に責任を持つべきだと私は思っています。

 遭遇した人たちの悩み事を解決するため、時には親になり、時には代弁役・付添い人になって関係先を訪問して問題解決に向けたサポートをしないとダメだと思っています。

 私たちは、問題を先送りしたら同じ出来事が何回も繰り返されてしまうとの考えのもとに、悩み事を解決して元の元気を取り戻してもらうための人命救助に取り組んでいます。

 

 なお本書は、イギリスで生まれた約200種類のスキンケア製品、ヘアケア製品、ソープ、入浴料などの手作り化粧品でおなじみの世界40ヶ国、日本国内でも134店舗を直営、商品開発と製造販売をしている株式会社ラッシュジャパンの助成金を頂いて書いたものであり、今後の自殺防止対策に何等かの役に立つことを願って出版しました。

2010年3月吉日

茂 幸雄



目  次

 はじめに  ………… 1

第1章 東尋坊の水際の現場から 13

自死遺族の苦しみからの脱出福本さくら ………… 19

●2010年1月、2月の自殺企図者との遭遇状況 ………… 27

第2章 東尋坊で巡りあった人たち …この苦しみを乗り越えて 33

[1]多重債務からの脱出 ………… 34

[2]パワー・ハラスメントからの脱出 ………… 39

[3]生活苦からの脱出 ………… 44

[4]家庭崩壊からの脱出 ………… 49

第3章 自殺ってなに? 53

第4章 どうしたら良いの?
     ──「自殺のない社会づくりネットワーク・ささえあい」の構築 71

●自殺のない社会に向けて
     ──「大きな福祉」の視点から 佐藤 修 ………… 72

1 コムケア活動と自殺防止活動の出会い 72

2 「自殺のない社会づくりネットワーク・ささえあい」 75

3 大きな福祉の理念での支え合う生き方の回復 76

4 お互いに気遣い合うことが自殺のない社会への第一歩 79

●医療現場から           福山なおみ ………… 82

1 わたしを自殺防止活動に突き動かし、支えてくれた人たち 82

2 医療現場にみられる自殺問題 84

3 医療現場でリスクが高いといわれている身体疾患
  および精神疾患をもつ人の苦悩 84

4 救急外来に運ばれる自殺未遂の人と家族のかかわり 88

5 医療の現場から、なぜネットワーク・ささえあいを
  立ち上げようとしたのか 90

第5章 自殺を考えた体験者との「語る会」の開催報告 93

《1》2009年「第1回夏のつどい」 in 東尋坊報告報告者 福山なおみ 94

《2》2009年「第2回冬のつどい」 in 東尋坊報告報告者 茂 幸雄 103

第6章 自殺多発場所での活動者サミット報告記 107

           佐藤 修 108

自殺多発場所での活動からの問題提起 109

ゲートキーパーの活動を支えるシェルター活動 113

自殺を思い止まった人たちからの発言 120

自殺のない社会に向けて 125

それぞれができることをやっていこう 128

第7章 シェルター・ネットワークの構築 133

シェルター・ネットワークの事例と対応 134

あなたならどうしますか? 135

シェルターとして応募してくれた人たちの苦労 141

第8章 自殺防止活動が、いまだに理解されないのは何故? 147

おわりに  ………… 166

■写真撮影=吉村拓治


著者紹介

東尋坊〜命の灯台守   茂 幸雄(しげ ゆきお)

〈プロフィール〉

●事務所 福井県坂井市三国町東尋坊 64‐1‐154
  1944年2月 生まれ 66歳
  TEL: 0776‐81‐7835 Fax: 0776‐58‐3119

■経歴
1962年、福井県警察官を拝命
2004年3月31日、福井県警察 警視(三国警察署副署長)で定年退職
  在職42年間のうち約27年間を生活経済事犯(サラ金、マルチ商法、薬物事犯、福祉事犯、少年事件等)の   捜査官として従事
2004年4月、NPO法人「心に響く文集・編集局」代表理事
  東尋坊に活動拠点 茶屋「心に響くおろしもち」店を開設、会員数78人
2006年、福井県「自殺・ストレス防止対策協議会」委員
2007年、福井市中部民生委員・児童委員
2009年、「自殺のない社会づくりネットワーク・ささえあい」代表(東京・湯島)

■賞
2006年、(財)毎日新聞社会事業団の「毎日社会福祉顕彰」
2007年、(財)あしたの日本を創る協会「振興奨励賞」
2007年、関西・経営と心の会「心の賞」
2009年、日本民間放送連盟賞ラジオ報道番組部門「最優秀賞」
2010年、シチズン・オブ・ザ・イヤー賞

■資格など
剣道二段、柔道三段、アマ囲碁四段、行政書士
日本カウンセリング研究会の研修受講

■主な著書
「心に響く文集〜勝たなくてもいい 負けたらあかん!」(自費出版)
「東尋坊〜命の灯台」(太陽出版)
「自殺したらあかん! 東尋坊の“ちょっと待ておじさん”」(三省堂)

(参考資料) ※過去10年間の東尋坊での自殺者数
平成(年)11121314151617181920 合計
人員数31293024212526222115244人
【第1章 執筆者】

福本さくら(仮名)

2004年4月より東尋坊でNPO法人を立ち上げ、茂代表と共に自殺防止活動に取り組んでいます。 また、東尋坊の活動のみならず、全国的に自殺防止活動を呼びかけるため、いろいろな団体との交流に参加しております。

【第4章 執筆者】

佐藤 修

25年間の会社勤務を経て、1989年、(株)コンセプトワークショップを設立し、コモンズの回復をテーマに各地のまちづくりや住民活動の支援を開始。 2001年8月、コミュニティケア活動支援センターを創設し、事務局長として、さまざまな分野のNPOやボランティアグループをつないでいく活動に取り組んでいる。

福山なおみ

大学病院看護師、短大看護教員、大学付属病院看護管理者を経て、2000年から再び教育現場に移り、それまでの体験を活かし、精神看護学の中で自殺予防と看護をテーマとした教育研究活動を開始する。 2005年から自殺対策支援センターライフリンクで自死遺族支援活動に参加。 2009年から「つながり」、「ささえあい」をビジョンに「自殺のない社会づくりネットワーク・ささえあい」を立ち上げ、事務局長として、活動に取り組んでいる。 2010年4月からは群馬医療福祉大学看護学部の創設に従事する。

【第6章 執筆者】

佐藤 修(同上)



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