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やさしく言いかえよう 介護のことば


やさしく言いかえよう 介護のことば

遠藤織枝・三枝令子 編著

1,400円 B6判 176頁 978-4-385-36580-0

介護記録や介護福祉士養成テキスト、国家試験問題等から、約130語のわかりにくい用語を抽出し、「わかりにくいことば→わかりやすいことば」として言いかえ語を提案。文例付き。円滑なコミュニケーションを第一に考えた、待望の書!

まえがき   言いかえを提案するまでの経緯
凡 例   目 次   見 本

2015年12月10日 発行




まえがき

 2008年夏、EPA(経済連携協定)の人材育成プロジェクトに志願した海外の看護師・介護福祉士候補者が初めて来日しました。その中の介護福祉士候補者たち(以下「候補者」と略します)は、4年間の日本滞在中に、介護施設などで3年間の研修を受け、国家試験を受けて合格すれば介護福祉士として日本で働ける、不合格だと帰国させられるという厳しい条件のもとでの来日でした(2011年、不合格者でも一定の条件を満たせば、再度受験することができる制度に変わりましたが)。

 大学で留学生の日本語教育に従事していた私たちは、日本語が大きな壁になっているという候補者たちを何とか支援できないかと考えました。介護現場の日本語のコミュニケーション力をつける手助けや、漢字の読み書き能力をつける手伝いならできると考えて支援に加わりました。ところが、少し、現場に足を踏み入れただけで、介護のことばのむずかしさ・わかりにくさが想像以上のものであることがわかってきました。これをなんとかしたい、なんとかしなくてはと思い、さらに、これはEPAの候補者だけの問題ではない、このままにしておいて困るのは自分たちなのだというところにまで思い及ぶにいたりました。

 そのむずかしさ・わかりにくさも、介護の現場のことばだけではありません。支援しながら私たちが直面したのは、現場の用語、介護教育のテキストの用語、国家試験問題に使われる日本語の問題です。具体的にどのようなことばがむずかしく、わかりにくいのか、分野ごとに紹介しましょう。

 まず、現場のことばの例として、引き継ぎのことばがあります。通常、介護現場は24時間体制ですから、毎日朝と夕方に夜勤者と日中勤務する人が業務を引き継ぎます。そのときのやりとりを、EPAの候補者に録音してきてもらいました。

「21ジ30プンニ ガショウシマシテ、イゴ ニュウミンサレテオリマス。」
「23ジ ホウシツシタトコロ、メ、カイガンサレテマシテ、ドウシテココニイルンダロウトオッシャッテオリマシタ。」

 「ガショウスル」「ニュウミンスル」「ホウシツ」「カイガンサレル」など、スタッフ間で日常使われていることばのようですが、外部の者にはすぐにはわからない用語がぞろぞろ出てきました。

 次に、介護の知識や技術を教える、介護福祉士養成講座のテキストをのぞいてみましょう。

「臥床生活から数週間もしないうちに、廃用症候群のいくつかは促進し、歩行能力が低下します。効果的に良肢位をとらなければ、膝や肘の各関節は驚くほど拘縮します。傾眠状態に陥る頃は全介護状態となり、入浴、清拭、更衣、移動、体位交換などいずれも2人介助の対象となり、介護量が圧倒的に増えていきます。」

 このように、「臥床生活」「良肢位」「拘縮」「傾眠状態」「全介護状態」「清拭」などなど、わからないことばの連続です。  さらに困ったのが国家試験問題です。

  ・吃逆(しゃっくり)が続くときは受診する。(第23回─問題108)
  ・松葉づえは、腋窩で体重を支える。(第23回─問題85)

 しゃっくりのことを「吃逆」、わきの下のことを「腋窩」と言うなど、あまりにむずかしい用語です。こんなことばを外国人受験者も覚えなければいけないのでしょうか。専門用語だから、介護福祉士という専門家になるための試験だから、そういうものだと思ってあきらめて覚えなさいということでしょうか。

 しかし、EPAの受験者たちは漢字のない国から来た人たちです。介護福祉士を養成するという協定を、日本政府が相手政府と結んで来日した人たちです。この人たちは4年間で国家試験に受からなければ帰国しなければならないという条件で来ているからといって、このようにむずかしいことばが多用される試験を受けさせ、受からなかったから帰国させるということでいいのでしょうか。


 ここで、日本語全体に観点をひろげて考えてみます。日本語がわかりにくくて困っているいろいろな分野で、日本語の見直しが始まっています。病院のことば、裁判のことば、行政のことばなど、2000年代に入っていろいろな方面で見直しが進んでいます。東日本大震災の後は、災害時に外国人にもすぐわかるような「やさしい日本語」作成の動きも盛んになっています。

 介護の世界もまさにその流れの中で考えるべきでしょう。超高齢化が進んで、日本人のほとんどすべてが、どこかで介護に関係を持つ時代が目前です。2015年7月の厚労省の発表で、2025年には介護人材が38万人も不足するということですから、外国人の手を借りずにはすまなくなるでしょう。外国人のための介護のことばの見直しは、ひいては日本人のための見直しでもあるのです。介護のことばが今より少しでもわかりやすくなれば、ことばの勉強で苦しむ人も少なくなるはずです。

 2015年9月現在、EPAの候補者は2000人も来日しています。また、外国人技能実習制度の中に介護人材を含むという新しい制度も近く発足します。一方で、介護福祉士を目指して来日したけれど、残念ながら国家試験に合格できなくて帰国した人たちが、すでにかなり出ています。

 よく、専門用語はむずかしいものだ、むずかしいから専門用語なのだと言われますが、はたしてそうでしょうか。かつて、医師は患者にわからないようにドイツ語でカルテを書くと言われました。専門のことばは患者や一般人にはわからない方がいいという考え方でした。新聞の社説は漢字が氾濫していました。むずかしいことばの方が立派な内容を含んでいて、崇高な記事になるという考え方でした。

 しかし今では、医師も患者にわかってもらえるようにどうやって説明するか、そのための勉強会が開かれる時代です。新聞の記事も、読者にすぐ理解できるようなことばづかいに変わってきています。内容が深いことを正確に伝えるためにはむずかしいことばを選ぶしかないとか、むずかしいことばに頼るのも仕方がないという考え方は今では通用しません。故・井上ひさしさんも言っています。「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」と。むずかしいことばをやさしく言いかえられるなら、それに越したことはないのではないでしょうか。


 少し古くなりますが、国立国語研究所が2003年と2004年に「外来語に関する意識調査(全国調査)」をしています。外来語の理解率や認知率などを調べたものですが、「外来語をわかりやすく言い換えてほしい分野」の調査では、1位が「政治・経済」56.4%で、2位が「医療・福祉」56.0%になっています。「医療・福祉」は1位との差もわずかな2位です。介護用語の調査ではないとはいえ「医療・福祉」の分野の外来語がわかりにくくて「言いかえてほしい」と思っている人が半数以上もいるのです。

 さらに介護の仕事とことばとの結びつきです。薬で病原菌を弱めたり、手術で悪いところを取り去ったりして患者の苦痛をなくそうとするのが医療です。介護は、人の生活を支援すること、不自由になった体の機能を少しでも残し使えるようにして、人がその人らしい生活を維持できるように助けることです。人の生活自体を見守ることです。そう考えると、そこで使われることばも、日々の暮らしや日常の感覚にいちばん近いものが選ばれるべきでしょう。「点滴施行」などと言われると、体のどこかで工事でもされているような錯覚に陥りませんか。「褥瘡」よりも「床ずれ」のほうが痛みの感じがよく伝わると思いませんか。


 本書は、介護現場の記録や介護福祉士養成のテキスト、国家試験問題などの中で、なんともむずかしい、わかりにくいと思われる用語を約130語拾いだし、それらをやさしい用語で言いかえる提案をしようとするものです。中には、すっきりと言いかえ語が提案できないものもあります。もっといい言いかえができる例もあるかもしれません。かえってわかりにくくなるとお叱りを受けるものもあるかもしれません。しかし、いずれにしても、このようにむずかしい・わかりにくいことばが介護の世界で使われていることを知っていただきたいと思います。

 ことばはとてもたいせつなものですが、それをマスターするのに割く時間とエネルギーは、少なくてすめばそれに越したことはありません。本書のようなことばの言いかえによって、現場でのことばの選び方や使い方が少しでも楽になることを切に願っています。




言いかえを提案するまでの経緯

 介護用語をわかりやすくしたいという私たちの研究会は、2012年から3年にわたる科学研究費補助金(「介護の用語の平易化─開かれた介護をめざす営み─」JSPS24520570研究代表者三枝令子)の助成を受けて進行してきました。この研究会のメンバーは、以下の介護教育の専門家3名と、日本語教育の専門家4名です。

介護教育  青柳佳子  目白大学短期大学部
        是枝祥子  元大妻女子大学
        佐藤富士子 大妻女子大学
日本語教育 遠藤織枝  元文教大学
        川村よし子 東京国際大学
        三枝優子  文教大学文学部
        三枝令子  一橋大学
  (所属は2015年3月末現在)

 以下に、3年間にわたる調査研究の内容と、言いかえにいたる手順とを箇条書きにします。

1.介護現場の用語の実態を知るために、介護日誌・介護記録・申し送り書などを集めました。
2.介護教育の用語を知るために、建帛社、中央法規出版、ミネルヴァ書房発行の介護福祉士養成テキストを電子化して用語調査をしました。
3.介護の仕事に従事している人たちを対象に、介護用語の使用状況についてアンケート調査をしました。
4.介護福祉士国家試験の過去の問題から難解語の調査をしました。
5.以上の資料から、日本語教育の専門家がわかりにくい・むずかしい用語を抜き出しました。
6.5.の中から、研究会のメンバーが、介護の現場・介護教育・国家試験に特に必要と思われる用語を選び出しました。
7.6.の中から言いかえが必要なもの、言いかえられそうなものを約150語選び出しました。
8.7.について、テキストで「褥瘡(床ずれ)」のように( )内で言いかえられていた語や、解説のことばを参考にしながら、言いかえ案のリストを作りました。
9.言いかえ案のリストに基づいて、この案が適当であるか否かを、より広い視点から検討するために、医学の専門家、看護学の専門家、介護従事者、新聞記者、米国の大学の日本語教師(外来語を検討するため)、日本語学の専門家、介護施設運営者を加えた、検討会を発足させました。

 こうした、検討会を経て、個々の用語について、言いかえが必要か、言いかえ案が妥当か、よりよい言いかえ案はないか、などを話し合い、言いかえ案としてまとめることができました。

 それらの各語について、1語ずつ解説を加えて記したものが本書です。


 新しく加わったこの検討会メンバーは、以下の7名です。

 阿部ノーネスひで子 米国Colby大学
 伊東美緒 東京都健康長寿医療センター
 片桐恵子 社会福祉法人大三島育徳会 博水の郷
 関根健一 読売新聞社
 田中牧郎 明治大学
 田中雅英 東京都社会福祉協議会高齢者施設福祉部会
 吉山直樹 熱海よしやまクリニック
  (所属は2015年3月末現在)


 上記の方々のほかにも、中国語との関係について陳力衛氏(成城大学)、明治期の医学書について沈国威氏(関西大学)、歯科の用語について猪越重久氏(イノコシ歯科医院)、眼科の用語について木村内子氏(木村眼科)にそれぞれ懇切にご指導いただきました。そして、解説の仕方や内容について、ご指摘ご助言をくださった三省堂の飛鳥勝幸氏、こうした多くの皆さまのお力がなかったら本書は日の目を見ることがなかったでしょう。心からの感謝の意を表したいと思います。ほんとうにありがとうございました。

2015年9月

遠藤織枝

三枝令子



凡 例

1.介護現場の記録・聞き取り、介護福祉士養成のテキスト、国家試験問題からわかりにくいことばを選びだして、I 介護用語編、II医療看護用語編、III 外来語編と大きく分けました。
2.各編の中は、関係のある項目でまとめて、項目ごとに順番に並べています。
3.各語については、「わかりにくいことば」を先に示し、それを「わかりやすいことば」で言いかえました。
わかりやすいことばは、次のようにして選びました。
 ア.テキストなどで言いかえられていたことば
   例 ビラン(ただれ)
     びらん ⇒ ただれ
   例 食べ物を嚥下しやすいように[……]やさしくいえば、飲み込みやすいように
     嚥下する ⇒ 飲み込む
 イ.医学辞典の語釈を借りたもの    例 咳嗽 ⇒ 咳
 ウ.国語辞典の語釈を借りたもの    例 更衣 ⇒ 着がえ
 エ.一般に使うことばに言いかえたもの    例 熱発 ⇒ 発熱
 オ.研究会で考えたもの    例 落屑 ⇒ 皮膚の粉    例 ターミナルケア ⇒ 看取りケア
4.解説には、どういう点がわかりにくいか、どうすればわかりやすくなるか、他の似ている語と比較するとどうなるか、などを記しています。
5.例には、わかりにくいことばを使った文例を示し、⇒でそれをわかりやすいことばで言いかえた文例を示しています。文例は、介護福祉士養成テキストや実際の介護記録などを参考にして作っています。
6.わかりにくいとばでも、いろいろな理由で結局は言いかえない方がいいという結論になったことばがいくつかありました。それらは「言いかえないことば」というコラムに入れました。また、読み方を統一した方がいいことばも「読みを統一することば」のコラムに入れました。
7.表記では、漢字のことばの読み方を示すときは「褥瘡」「じょくそう」のように平仮名にしていますが、音が同じで聞き分けにくいことばや、聞きなれなくて違和感があることばを強調するときは「コウカツ」「シュチョウ」のように片仮名を使っています。
8.本文中では、主に以下の辞書から引用しています。
『新明解国語辞典』第7版 三省堂 2011(『新明解』と表記)
『三省堂国語辞典』第7版 三省堂 2014(『三国』と表記)
『広辞苑』第6版 岩波書店 2008
『大辞林』第3版 三省堂 2006
『南山堂 医学大辞典』19版 南山堂 2011(『医学辞典』と表記)
『看護大事典』第2版 医学書院 2010(『看護事典』と表記)
『実用介護事典』改訂新版 講談社 2013(『介護事典』と表記)
『文部科学省 学術用語集 医学編』日本学術振興会発行 2003(『学術用語集』と表記)
『醫語類聚』(奥山虎章 1872(明治5年)(序文1872年 扉1873年) 復刻版『明治期専門術語集』有精堂1985(医語類聚と表記)


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