一、本書は、読書を「作品との対話」とする考え方に基づき、『おくのほそ道』と読者との対話に必要不可欠なテキストの提供をめざすもので、そのために次のような工夫をほどこした。
1.昭和期から平成期にかけて久富哲雄の写した『おくのほそ道』の写真百余点を、要所に掲載した。
2.芭蕉があこがれた土地を、歴史的に支える古歌の中から九十七首選定し、参考和歌として掲出した。その際、漢字・仮名を適宜補い、「読み人知らず」を含む作者未詳歌については「不知」と表記した。なお、典拠については、芭蕉が実際に手にした書物を必ずしも意味しない。
3.脚注に示す語釈・句解などは、主として久富哲雄著『おくのほそ道 全訳注』(講談社学術文庫)および『奥の細道の旅ハンドブック』(三省堂)に基づいたが、現在の研究情況や町村合併という事情を踏まえて、変更した箇所もある。なお、語釈に頻出する歌枕の多くは、江戸時代に特定された土地である。
4.判読の指針として、目次に続けて「『おくのほそ道』足跡全図」を掲げ、巻末に解説と人名・地名索引を付した。
一、本書の底本には素龍清書本(西村本)を用い、その意図を正確に伝えるために、次のような校訂をほどこした。
1.地名によって章段名を付し、各章段の中にも適宜段落を設けた。
2.句読点・濁点・振り仮名を補い、会話・引用等には括弧「 」を施すようにつとめた。
3.『おくのほそ道』諸本や通行の規則を参考にして、用言の活用語尾などを補い、その文字の右側に黒丸・を付した。
4.表記は底本に忠実であるよう心がけたが、手書き文字ゆえに、そのまま活字に置き換えることが不可能と判断したものについては現行の字体に改めた。
5.片仮名・変体仮名は平仮名に統一し、誤記と考えられている箇所は訂正した。
一、本書は作品自体に向き合うことを意図したもので、引用書の詳細にはふれず、研究史の吟味も省略した。よって、参考文献の詳細を求める場合は『日本古典文学大辞典』(岩波書店)『俳文学大辞典』(角川書店)などを参照し 諸説の整理を必要とする場合は『「おくのほそ道」解釈事典―諸説一覧』(東京堂出版)『おくのほそ道大全』(笠間書院)などによられたい。
一、久富哲雄が撮影した写真は膨大な数に上り、写真の整理・選定には、山田喜美子氏のご尽力を仰いだ。明記して深謝する。