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生かしておきたい
江戸ことば450語

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澤田一矢(いっし) 著

1,600円 B6変 208頁 978-4-385-36070-X (品切)

古典話芸の分野で、かつては日常語として使われていた多くのことばが「死にかけ」ている。それらの正確な意味と味わいを平易に解説する中で古典芸能の現代的意味を考える書。用例と出典、多数のイラスト付き。

2001年12月1日 発行


●まくら

 これは冗談ではなく身近で本当にあった話。 短大を出たばかりの二十歳の女の子にタオルを見せたら 「タオルです」 と答えたが、 手拭いを見せたら 「……?」、 つまり知らないのである。 見たことはあるが手拭いという名を知らないというのだ。

 これには驚いた。 正直、 唸ってしまった。 三角巾とか袱紗とかいうある種特別の物ならともかく……。 しかも彼女、 大きな公立施設の受付嬢だというのだから、 二度びっくりであった。

 これは例外であるとしても 『長屋の花見』 という古典落語を聴いた二十代の青年から、

「茶柱が立ったというのは何のことですか」

 と訊かれたことがある。 聞いてみれば彼は 「へっつい」 も 「火吹き竹」 も知らなかった。 それらは現在の身の回りから姿を消したものであり、〈見たことがない〉物であるから〈知らない〉のはあるていど仕方がないと譲れないでもない。 しかし、 つづく 「舫い船」 「尾頭付き」 「左前」 などがわからないとなると、 いささか由々しいものを感じないではいられなくなる。

 雅趣があって軽妙で、 しかも内容と奥行のある江戸言葉が、 こうして年々なくなっていく。 IT革命とやらで、 音読みか訓読みの文字を指定すれば熟語が現れる機械の普及により、 頭脳に刻み込んで記憶すべき日本語は、 字の持つ意味が失われてますます稀薄な存在になり、 若者の読書離れが拍車をかけて生活感覚から日に日に縁遠いものになっていきそうな気配である。

 それやこれやの不安と老婆心が嵩じて、 少しでも〈あの時代の佳い日本語〉をこれ以上死語にしたくない。 死にかけている日本語に改めて光を与えたい、 という思いが蟷螂の斧を承知で本書を上梓させたゆえんである。

 主に落語を中心とした古典芸能の世界から四五〇語を選び出し、 解説と用例、 それに添えられるものには図版を配し、 出典にまつわる一口咄をコラムにしてみた。

 ご一読のうえ、 ご意見、 ご叱声を頂戴できれば幸いである。

平成十三年錦秋 手賀沼乱筆堂
澤田 一矢


●本文の一部(あ行)

合縁奇縁【あいえんきえん】

 男女の仲や他人との交際で、 互いに気が合ったり合わなかったりするのも、 すべては不思議な縁によるものだという意。 合縁機縁、 相縁機縁、 相縁気縁などとも書く。

[用例] 「すると合縁奇縁というのは妙なもので、 長崎でも一という身代の家の娘が倅を見染めて、 どうしても養子に貰いたいという」 (『長崎の強飯』)

相方【あいかた】

 相手。 遊客の相手となる遊女。 敵娼と書くことが多い。

[用例] 「二の酉とりの晩でございましたなァ、 ヘェ……そのとき、 あたくしの敵娼に……へへへ……花魁おいらんが出てくれまして、 行きとどいたいい花魁だが、 すぐ裏を返さなきゃ=36頁参照=ならないと思いながら」 (『鰍沢』)

匕首【あいくち】 

 つばのない単刀。 九寸五分 く すん ご ぶ とも、 ひしゅともいう。 九寸五分は約二十八・五センチ。

[用例] 「家へ帰ると早速さっそく道具屋を呼んで家具類をばったに売り、 途中で匕首を一本買い込むてえと金造は……」 (『品川心中』)

[用例] 「大抵型は決まっております。 力弥は御意ぎょいをうけたまわり、 上かみの手からちょぼ (義太夫の地語り) につれて、 三方さんぼう=84頁参照=の上へ九寸五分をのせて検視の前へ持っていく」 (『淀五郎』)

逢引【あいひき】

 男女がひそかに会うこと。 あいびきとも。 相引、 媾曳とも書く。

[用例]「たしかに三十両、 伊之助ンとこィいってますが、 それがどうしたんですか」 「してみれば手は切れておるはずだ」 「へえ」 「その伊之助が若のところへ媾曳に来るようなことがあったらどうする!」 (『お若伊之助』)

相棒【あいぼう】

 二人で仕事をするときの相手。 駕籠かきからできた言葉で、 一つの駕籠を担かつぐときの相手。 今は漫才の相手などに使っている。

[用例] 「客を乗せるにこと欠いて前の茶店の親仁おや じ さんを乗せる奴があるか、 阿呆ッ……親方、 すんません。 こいつまだ新米なもんで」 「お前の相棒か、 これ。 またこんなのを相棒にしているのか。 たしか前のもこんな間抜けな奴やったんやないか」 (『住吉駕籠』)

青緡五貫文【あおざしごかんもん】

 緡とは、 小銭が散らばらないように銭の穴に差し通した細い紐で、 藁わらや紙を縒よったものがふつう。 両端にこぶを作って止め、 百文、 二百文単位に通して勘定をしやすくした。 お上かみからのものは紺に染めた麻縄で作ったもので、 これに五貫 (一両一分) の銭が通してある。 特に目立つ親孝行者や忠義者に与えられた幕府からの褒賞金であり、 受賞者を出すと町の誉れとなった。 一両一分は現在の貨幣価値で約十万円。

[用例] 「お奉行さまのおっしゃるには、 与太郎は愚かしき者なるが、 親孝行の由よし上に聞こえ、 青緡五貫文の褒美を仕つかわす。 以後町ちょう役人五人組でいたわり面倒をみてとらせろ、 というわけだ」(『孝行糖』)

青二才【あおにさい】

 年が若く経験の乏とぼしい男。 若い男を罵ののしっていう言葉。 ブリやボラなど生長するごとに名前の変わる出世魚の二年目の幼魚を二才といい、 これに未熟を意味する青を冠したもの。

◎出世魚 (例・ボラ) (1)ハク (2)スバシリ (3)オボコ (二才)  (4)イナ (5)ボラ (6)トド

 (3)は〈オボコ娘〉の語源であり、 (6)のトドは最終で〈トドのつまり〉はここから生まれた。

赤鰯【あかいわし】

 糠漬けにして干したイワシに似ているところから、 さびた刀のこと。

[用例] 抜けば玉散る氷の刃やいば、 といえば聞こえはいいが、 天下泰平の世の中で剣術の稽古などまずしたことがないから〈抜けば散る赤〉、 すっかりびついちゃってこれがなかなか抜けない。 (『たが屋』)


赤螺屋【あかにしや】

 浅海産の巻貝で肉は食用として美味。 赤螺が殻を閉じて開かないのを金を握って放さないさまに見立て、 こぶしを握った形を殻の形になぞらえて 「握った物は放さない」 というケチの意味になった。

[用例] 屋号が赤螺屋、 名前が吝兵衛けち べ え 、 ご商売は味噌屋さんで、 大勢の奉公人を使っていますが四十歳で独身。 「世の中に女房ぐらい入費にゅうひのかかる無駄なものはありません。 私はそういう危険物は取り扱わないことにしております」 というケチな人で……。 (『味噌蔵』)

[用例] よっぽどな赤螺で頭のぎりぎりから足の爪先まで、 欲の皮で張りつめた男。 (天保十二年 『縁結娯色の糸』)

 [その他の「あ行」の項目] 赤の他人[あかのたにん]17/上がり框[あがりかまち]18/揚板[あげいた]18/顎足[あごあし]19/阿漕[あこぎ]19/顎蠅[あごはえ]20/浅黄裏[あさぎうら]20/遊び[あすび]20/あたぼう 21/あたり箱[あたりばこ]21/天邪鬼[あまのじゃく]22/荒物[あらもの]22/有の実[ありのみ]22/鮑の片思い[あわびのかたおもい]23/[あんぺら]23/[あんぽつ]24

用例らくご寸描

鰍沢 (かじかざわ)

 落語中興の祖といわれる三遊亭円朝作の三題噺で、 題は 「卵酒・鉄砲・毒消しの護符」。 円朝の門人四代目橘家円喬の高座は、 真夏に演じても雪の夜の情景が迫ってきて、 思わず聴客が身震いしたという名人芸だったそうな。


●用例らくご寸描

(五十音順)

鮑のし23/居残り191/うどん屋162/鰻の幇間25/厩火事57/お直し131/火焔太鼓37/鰍沢17/火事息子166/紙入れ169/髪結新三147/蛙茶番158/金明竹43/首提灯85・98/桑名船75/黄金餅124/小言幸兵衛138/五人廻し68/小間物屋政談122/子別れ182/蒟蒻問答170/雑俳113/三軒長屋55/三人旅140/品川心中117/芝浜41/酢豆腐29/関取千両幟105/粗忽長屋195/そばの殿様100/大工調べ132/大仏餅180/高尾203/たが屋107/ちきり伊勢屋135/つき馬134/てれすこ89/天災193/唐茄子屋政談111/長屋の花見64/ねずみ189/鼠穴84/寝床168/化物使い153/一人酒盛141/干物箱79/百年目175/河豚鍋206/不精床61/双蝶々119/不動坊火焔151/船徳184/文違い187/文七元結33/へっつい幽霊73/木乃伊取り155/味噌蔵174・179/三井の大黒194/宮戸川93/妾馬45/やかん110/弥次郎102/柳田格之進91/山崎屋127/湯屋番176/淀五郎77/らくだ21

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