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金田一春彦 序、 2,940(2,800)円 B6変 880頁 4-385-14041-3 (旧版) 現代語の見出しのもとに古語の類語を約4万語収録。現代語から古語を,さらに類語が引ける画期的な辞典。古文の学習や,短歌・俳句・詩を作る人に最適。動植物の異名も多数収録。日本人の心の繊細さ,言い表し方の多様さが実感できる,引いて楽しい辞典。 1995年 4月 1日 発行
●【序】 私は『明解古語辞典』を作りながら、英和辞典に対して、和英辞典があるように、現代語から古語が引ける辞典があって然るべしと考えていた。例えば、昔のことを題材にして、小説や戯曲を書く人には、そういうものがあれば便利だろうし、和歌や俳句を作る人も、知らない単語を教えられて好都合だと思ったからである。私は、今の『明解古語辞典』の単語をカードに取って、語釈を五十音順に並べたら、簡単に出来るのではないかと思い、将来暇があったら作ってみようと思っていたが、今度芹生さんという未知の方が作られたこの辞典の原稿を見せられて驚いた。 開いてみると、本文は現代語が五十音順に並んでおり、それに一々古語が当てられている。正に私が作ろうとしていながら、研究や遊び事にかまけて作りそこなった辞典の体裁である。そうして私の『明解古語辞典』のような小さな辞典は相手にせず、『大日本国語辞典』のような大きな辞典を活用して作っておられるので、私が計画したものより、遥かにりっぱなものになっている。私は自分が作れなかったという残念な気持ちと、見劣りするようなものを作らないでよかったという、安心の気持ちとを同時に味わった。 個々の見出し語の下には、「あな」「あなめ」「あなや」「あはれ」…というように、古語が五十音順に並んでいる。これは、古語辞典に当たれば、詳しい意義や、何時代の単語であるかということは分かるから、これで用は果たすはずである。感心したのは、基本語というものを選び出して、それを意味によって分類整理して並べてあるところである。これはすばらしい思いつきで、もし「日」の古語を引いて適当なものが見付からなかったら、そこに挙がっている「朝日」とか「明日」とかの項を探せば、適当な単語が見付かることがあるはずで、これは私など全然考えていなかったところである。この欄の一つひとつの単語を読んで行くと、「月」の条などにはいろいろな月が別の名をもっていたことが知られ、日本人にとって如何に月が大切なものだったかということが伺われて楽しい。もしギリシャ語やアラビア語にこのような辞典ができたら、星の条が、むやみに詳しく作られたであろう。 この辞典を見て、もっと望みたいこともないではない。一つの現代語の条に並んでいる古語は、五十音順にするよりも、用いられた時代の順にした方がよかったし、簡単に、上代とか、中古か注記があったらなお便利だった。また、「雨」という語は、『万葉集』以来今の意味で使われていたが、そのようなものも、『万葉集』時代にあったということを記載しておいた方がよかった。そうしないとそのころは、今と同じ用法がなかったのか、それともあったのか、はっきりしない。ちょうど和英辞典に、日本語と同じ形の英語も、挙げていなければいけないようなものである。 それはともかくとして、いい辞典が出来たことは嬉しい。私は早速机の上に置いて愛用しよう。芹生さんは、まだ若い方であるから、これを第一作として、今後ますます内容の充実した辞典をお作りになるであろう。わたしはその前途洋々たることを祝し、筆硯のますます隆昌ならんことを祈ってやまない。 平成七年二月一日 金田一春彦 |