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三省堂 いけばな草花辞典

瀬川弥太郎 編、木下章 画

3,200円 B6変 712頁 978-4-385-15832-X (品切)

花への理解と興味がより一層深まる辞典。草花700余種、淡彩画300図収録。《花材》欄で、いけばなで扱う上での説明と諸注意を解説。分類、生産地などのデータと、花にまつわる故事来歴、伝説、詩歌などの幅広い知識を記述。オールカラー。

1997年9月10日 発行


●『いけばな草花辞典』の絵

木下 章

《自著自賛 小社PR誌 ぶっくれっと No.127》より

この本を出すに当たって、草花辞典ですから、克明な線で描かれた植物画か写真で飾るのが今までの慣例です。それを大半スケッチにしてみたいということで、少したじろいだのを思い出します。

私ども画家のスケッチは、植物図鑑などで見なれた植物画のようには細部まで描き入れない。例えば、葉の主脈は入れても側脈までは描かなかったり、縁のキザキザの鋸歯も描き入れないのが多いのです。すべて描かないとは限らないが、例えば、椿と桜の葉についていずれも形は同じようです。桜の葉は薄手なので、これには鋸歯、場合によっては側脈も描きこみますが、椿のあの厚手のぼってりした感じと葉縁がやや下り気味の形を表現するには、鋸歯を描きこまない方がよいように思うなど、物の形と同時にそれのもつ質感をも考えるからでしょう。

以前、植物関係の人々と江戸時代の花の素描を見せて貰った折、花菖蒲(しよう/ぶ)だろうか杜若(かき/つばた)だろうかと思える花で、花は花菖蒲のようだけれど、葉に主脈がはっきり描き入れてないので杜若かも知れない、という論議になった。そこで私が思い当たったことは、花菖蒲の葉は主脈がはっきりしているので見分けがつくと書かれてあって、それを目安にしている人が多いのではないか?

そこで私は「絵描きの側かから言わせて貰うと、花菖蒲であれ何であれ、絵を描く者はうるさいと思える所の省略はよくあることで、葉に葉脈の入ってない絵は多いですよ」と口をはさんだことがあります。絵描きがこれを描き入れない方が、全体のバランスから見てより美しく、あるいは、より力強くなると考えた場合の省略は多いものです。また、逆に誇張することもあります。先に桜と椿の葉について触れましたが、同じ形をした葉でも、桜、椿、アジサイ、バラの葉の輪郭の持つ微妙な曲線の運びや角度は工夫しています。このようなところに絵描きのこだわりがあるのです。

また、花のスケッチもできるだけ自然の中で、日光も受け雨の恵みも得て、存分に咲いた姿を描きたくて努力しました。店頭で買える栽培物は楽に手に入れることもできますが、最近つくづく感じるのは、規格にこだわって花の大きさ、その数、背丈まで揃えること。葉のつき方、形がひどくアンバランスに育っているバラやユリなど、規格品では描けないものです。造形の神は自然の中に美しいバランスを与えてくれています。一本の植物が美しい花を開くたびに必要なだけの葉を持って育っています。その姿に自然界における生けるものの真の姿を見る思いがします。

掲載の絵の中でアマリリスは古いタイプのもの、チューリップは新しい目につくタイプ、うこんは最近、切花では多く見られるクルクマシャロームを描きました。藤は鉢仕立てのものです。自分なりの思わくを持ってみたものの、瀬川弥太郎氏の御立派でわかりやすい解説、植物にまつわる故事来歴、伝説、詩歌の紹介まで楽しく学べる内容であり、岡田芳和氏の花材の所では、日本独自のいけばなの精神、自然とのかかわりある見地からの花のとりあわせは、日本画家である私など大いに示唆を与えられるものがあって、これらの内容を穢(けが)すことにならないよう心がけた心算です。

知識も深めると同時に見て楽しめる辞書に、との趣旨にそえたか否か。素描とはタブローに取りかかる、一番先に取り組むもので、完成された絵ではありません。しかし実際の描く対象を前にして、描く者と対象との会話は生々しく出ている筈です。綿密な線による正確な植物画に、あるいは、対象をそのまま写しとる写真に太刀打ちできるのか、これは今後、この本を手にした人々の判断を待つしかないと思っております。

(きのした・あきら 画家)

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