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アジア英語辞典

1,200円 B6変 272頁 978-4-385-11028-X (品切)

本名信行 編

インド・シンガポール・マレーシア・フィリピンを主として、それぞれの地域で特徴的にみられる語彙・表現をまとめた辞典で、総見出し項目は約2,000。標準英語(英米で使われる表現)との相違について適宜、解説。文化的な特徴の見られる表現には、視覚的にも理解できるよう、写真をつけた。

2002年6月1日 発行


本のアイコン アジアの英語、日本の英語 (「ぶっくれっと」132号〜134号から)


●はじめに

1. 英語の現在

英語は世界で最も広範囲に使われ, 最も有効な国際共通語である. 一説によると, 英語の話し手は 20 億人にもおよぶ. このうち, 英語を 「母語」 とする人々は 3 億人, 「公用語」 とする人々は 10 億人, さらに 「国際語」 とする人々は 7 億人にもなる. 世界の人口が 60 億人として, 3 人に 1 人が程度の差こそあれ, 英語を使っている勘定になる.

すなわち, 日本人の観点からいうと, 英語は英米人とだけ話すことばではなく, フランス人ともイタリア人とも, 中国人とも韓国人とも, アラブ人ともトルコ人とも, アフリカの人とも南米の人とも交流するのに有効なことばなのである. 英語は多国間, 多文化間コミュニケーションの道具となっている.

ただし, 世界中の人々はだれでも, どこでも, まったく同じ英語を話しているというわけではない. 英語は実に多様な言語なのである. 英語を母語とするアメリカ人やイギリス人がそれぞれ独特の英語を話しているように, 英語を母語としないアジアの人, アフリカの人, ヨーロッパの人, 南米の人もいろいろと特徴のある英語を使っている.

事実, 英語が国際化したということは, アメリカ人やイギリス人などのネイティブ・スピーカーの英語がそのままの形で, 世界中に広まったということではない. むしろ, それは多くのノンネイティブ・スピーカーがそれぞれの歴史的, 社会的, 文化的必然性に合わせて, いろいろな形で英語を使うようになっている姿を指しているといえよう.

2. 普及と変容

このことは, 普及と変容の関係を考えれば, よくわかるだろう. ものごとが普及するためには, 適応が求められる場合が多い. 例えば, マクドナルドがインドに支店を出したいとする. インドはヒンドゥー教徒が多いので, 牛は神聖な動物であり, 牛肉を食することはタブーとなっている.

しかし, インドのマクドナルド店は, インド人のお気に入りのスポットになっている. どうしてだろうか. そこはビーフの代わりに, マトンやチキンのハンバーガーを出しているからである. マクドナルドがビーフに固執すれば, インドには出店できなくなる. 反対に, マトンやチキンでも立派なハンバーガーになる.

ことばもこれと似ており, 英語が世界に広まるとすれば, 世界に多様な英語が発生することになる. 英語の国際化は, 必然的に英語の多様化を意味するのであり, 多様化は国際化の代償なのである. この意味で, 英語の今日的問題は多様性ぬきには考えられない. 英語のさまざまな変種を考えなければならない理由はここにある.

むしろ, 英語は多様であるからこそ, 共通語になれるということができる. 従来, 共通語には 「画一, 一様」 というイメージがつきまとっていた. しかし, よく考えてみると, 多様な言語でなければ, 共通語の機能ははたせないのである. アメリカ英語の発音, 語彙, 文法, 表現が世界共通英語として強制されることになれば, 英語は広範囲に普及することはない.

3. アジアの英語

英語はアジアの言語でもある. アジア各地の街角, 商店, 学校, 官庁, そして職場で, 頻繁に使われている. アジアには中国 (13 億), アセアン (5 億), そしてインド(10 億)という巨大な地政学的ブロックが存在し, 英語はさまざまな地域言語と役割分担をしながら, きわめて重要な国内・国際言語となっている.

事実, アジアの英語人口は 3 億 5 千万人といわれる. この人数は英米の人口合計をずっと上回る. インドで行われた調査によれば, インド人の 3 人に 1 人が英語を理解し, 5 人に 1 人が英語を話すことに自信があると回答している. インドで 3 億人くらいの人々が英語を話すとすれば, インドは巨大な英語国ということになる.

アジア諸国は英語を国内言語, あるいは国際言語と認識して, 英語教育に力を入れている. 特に興味深いことは, 英語教育を小学校から開始していることである. インド, シンガポール, フィリピンなどの英語公用語国ではずっと以前からそうであったが, 最近ではタイ, インドネシア, 中国などの英語国際語国でもそうするようになっている.

アジア諸国の英語教育をみるうえで, ひとつ注意しなければならないことがある. 英語学習の目的を, 英米文化の理解や受容におくのではなく, 技術革新, 経済発展, 国民統合, ナショナル・アイデンティティの高揚, そして広域コミュニケーションの道具の獲得におく, ということがそれである.

特に, 以前に英米の植民地であった国々の人々は独立にあたって, 英語を使うと旧宗主国の文化を引き継ぐことになり, 独自の国民性を育成できないのではないかと危惧していた. しかし, 彼らは自国の状況に合った独自の英語パターンを創造することによって, この問題を解決できることに気付いた. それは, 基本的には, 現地の言語と文化の影響を受けた英語ということである.

このようにして, インド人はインド人らしい 「インド英語」 , シンガポール人はシンガポール人らしい 「シンガポール英語」 , フィリピン人はフィリピン人らしい 「フィリピン英語」 を, それぞれ話すようになったのである. もちろん, 中国人, タイ人, インドネシア人, ベトナム人, そして日本人の英語にも, 各自独特の構造的特徴があるといえる.

そうしたアジア英語には英米英語と違う部分がかなりあり, それは発音, 語彙, 統語, 表現, 語用などの広い分野にわたっている. しかし, だからといって, アジア英語を劣等視するのは, 完全にまちがいである. 違いがあっても, 意志伝達の妨げにはならない. むしろ, アジア人どうしの英語には類似しているところがけっこうみられる.

4. 本書の意義

アジアの人々は英語をかなり自由な気持ちで使っている. 日本人は彼らの英語観から学ぶことがたくさんあるはずである. 日本ではアメリカとの関係が強いために, 英語をアメリカの 「言語と文化」 の規範に基づいて考えがちである. しかし, 英語を国際言語と考えるならば, 英語と英米文化は必ずしも同一視できなくなる.

一方, 日本人は他のアジアの人々と, 英語で交流する機会がますます増えている. このことは日本の貿易構造が端的に示している. 日本の輸出入の規模はアジアが最大で, 次に米国, そして欧州連合と続く. 日本企業はほぼ 2 万件におよぶ海外支店をもっているが, その半数はアジアに集中している.

日本企業が海外に派遣する要員も, アジア地区が最大で, 米国と欧州連合をぐんと引き離している. そして, 日本人は毎年 1 千 700 万人 (人口の 10 %以上) が観光で海外に出かけるが, その行先の半数はアジア諸国である. 外国からの日本観光客はアジアからが一番多い.

また, NGO や ODA の活動を通じて, アジアにおける文化交流, 環境保全, 開発協力なども拡大している. 私たちの多くはこうした営みのなかで, アジア諸国の人々と出会い, 交流をもつようになる. そして, その最初のことばはたいがいの場合, 英語である. 私たちはアジアにおける英語コミュニケーションの問題を本格的に考えるべきであろう.

実際, アジア人どうしだとお互いにノンネイティブ・スピーカーなので, 気軽に英語を話せるようになる. ネイティブ・スピーカーの規範をあまり意識しないので, 緊張感が薄れ, 自由に話せるのである. 日本の英語教育では, この事実をもっと重要視する必要がある. それは英語を世界の国際言語と考える視点からくる.

前述のようにアジアの英語は, 発音やアクセントをはじめとして, 語句の意味や用法に独特のものがある. アジア諸語から持ち込んだ語彙もたくさんある. また, 英語と現地語の要素が組み合わさったものもある. それらを正しく理解して, 有意義な英語コミュニケーションをはかるためには, それなりの準備が必要と思われる.

本書はアジアの英語変種として最も広く使用されているインド英語, シンガポール/マレーシア英語, そしてフィリピン英語を題材として, そのなかでも日常よく使われる語句を収集し, それに解説を加えたものである. 人口移動により, これらの語句は特定の地域にかぎらず, アジアの広域で聞かれるものが多い.

本書では, 読者の便を考えて, 多くの語句に例文をつけた. 例文のなかには, 標準英語と違って, 三人称単数現在の “s” がないものや, 主語や目的語が明示されていないものもいくつかある. 時制, 数, 冠詞, 前置詞などの用法にも標準英語とは違うものもある. これらはたいがい著者が現地で聞いた会話文であり, アジア英語の一面を示している.

また, 音声表記にはカタカナを採用した. 現地の人々の発音とアクセントはおおまかながら, カタカナでなんとか表記できると考えられるからである. 本書がアジアにかかわりをもつ多くの方々に少しでもお役に立つよう心から願っている.

著者各人は本書の執筆にあたって, 各自のフィールドワークの成果を最大限に注ぎ込んだつもりである. 同時に, 巻末に掲げたような, 各地で出版されている辞典類も大変参考になった. 末筆ながら, 本書の刊行にあたって担当の塩野谷幹雄氏に多大の協力を得た. あわせて感謝の意を表したい.

本名信行
田嶋ティナ宏子
榎木薗鉄也
河原俊昭

2002 年初夏


●この辞書の構成

1. 見出し語

インド英語, シンガポール/マレーシア英語, およびフィリピン英語に特徴的に見られる単語・語句を収録. 総見出し項目数は 1,730 である. 見出し項目全体をアルファベット順 (alphabetical order) に配列したが, ( ) 内と / (スラッシュ) 以下の別綴りや別語の場合はオーダーに加えていない. また分綴は示さなかった.

2. 発音

発音の表記はカタカナで表示し, 強勢 (アクセント) は太字とした. 現地の人の発音, アクセントをなるべく忠実に再現しようとしたものである.

3. 語義

見出し項目の適切な訳語を示した. 補足説明は ( ) 内に加えてある.

4. 語源・用法・文法事項・文化的背景などの説明

語義のあとに語源・用法・文法事項・文化的背景などを説明する欄を設け, [ ] 内に示した. 特に文化的背景については長い説明を加えた項目もある.

5. 用例

見出し項目に関し, 日常的によく使われる例文をとりあげ, 日本語訳を ( ) 内に示した. 例文中の語句の説明, また一部の例文の出典を訳文のあとに置いた. 出典の正式書名については巻末の参考文献を見られたい.

6. 相互参照

相互参照については cf. の略語を付して, 必要に応じ随所に示した. [ ] 内の説明文中 * を付した語句は見出し項目であることを示す.

7. 国名の表示

最後に, 見出し項目が使われる国名を 〈 〉 内に示した.

囲み記事一覧

インドの英語……………  26 フィリピンに花咲く英語 178
インド人の名前…………  48 フィリピン英語の特徴 1 198
インド人の愛称…………  74 フィリピン英語の特徴 2 201
インド英語の特徴 1……  85 フィリピン英語の
インド英語の特徴 2……  91  ジョーク……………… 211
インド英語の特徴 3…… 100 サンスクリット語と
シンガポールと英語…… 110  アジア英語…………… 237
シンガポール英語の      アラビア語とアジア
いろいろ 1…………… 121   英語 1………………… 251
シンガポール英語の     アラビア語とアジア
いろいろ 2…………… 127   英語 2………………… 255
シンガポール英語の     ペルシャ語とアジア
いろいろ 3…………… 139   英語 1………………… 260
マレーシアの英語 1…… 147  ペルシャ語とアジア
マレーシアの英語 2…… 163  英語 2………………… 265
マングリッシュの楽しさ 171


●本文見本データ

A

AA 車輌協会. [=Automobile Association] 〈シンガポール/マレーシア〉

aadaab (arz) こんにちは. [ムスリムの丁寧な挨拶. ウルドゥー語. cf. assalaam alaikum/namaste/pranam/salaam] Aadaab arz, Khan sahib. How are you? (こんにちはカーンさん. お元気ですか?)cf. sahib./Convey my aadaab to your family members. (ご家族にどうぞよろしく) 〈インド〉

abode 住居. My abode was in Secunderabad. (私の家はスィカンダラバードにあった) 〈インド〉

abscond 〜から逃亡する. [インド英語ではfrom をつけずに用いることが多い] The prisoner absconded the jail. (囚人は刑務所から逃亡した) 〈インド〉

abstain 〜を放棄する. [インド英語 (特に新聞) では 「仕事の放棄」 によく使う] The labourers who abstained from work were dismissed. (仕事を放棄した労働者達は解雇された) 〈インド〉

a/c エアコン (の) [a.c.や AC とも書く. air-conditioned あるいは air-conditioner の省略形. 省略形で用いることが多い. 暑いインドを冷やすには相当の経費がかかるため高級なニュアンスも持つ] This restaurant has a/c rooms. (このレストランにはエアコン付きの部屋があるよ) 〈インド〉

accident only たまたま, 偶然に. I told my colleague it was accident only. (同僚には偶然だったと言ったんだ) 〈シンガポール/マレーシア〉

accident-prone 危険な, 事故が起こりやすい. [標準英語では, 人が事故にあいやすいの意味]Take care! This is an accident-prone area. (気をつけて!ここでは事故がよく起こります) 〈フィリピン〉

achar ピクルス, 漬け物. [油とスパイスで漬けてあり, 恐ろしく酸っぱい. ヒンディー語] This achar is too sour! (この漬け物は恐ろしく酸っぱいぞ) 〈インド〉

acharya 師, 高僧, 宗教的指導者. [日本語の阿闍梨(あじゃり)もこの語と同語源. サンスクリット語] This is Acharya Shivendra Kishore Verma. (こちらはシヴェンドラ・キショール・ヴァルマ師です)/Kumar became an acharya after great efforts. (クマールはたいそう苦労して高僧になった) 〈インド〉

achcha よっしゃ, ほんとうですか, あれまあ (感嘆詞・間投詞) [英語の well/good/OK などの意味・用法で用いる. ヒンディー語] I won the first prize.―Achcha? Congratulations. (1 等賞取ったよ.―ほんとに? おめでとう)/Pass me the salt, Prakash.―Achcha. (プラカーシュ, 塩をとってちょうだい.―よっしゃ)/I love you.―Achchaaaa!!?? (好きよ.―ウヒャー!)〈インド〉

actually 本当は, 本当のことを言うと. [really の代わりに使われ, 文頭にくることが多い] Actually, hor,Idon'twanttogototheparty.(本当はね,パーティーに行きたくないんだ) cf. hor. 〈シンガポール/マレーシア〉

Adi-Dravida アーディ・ドラヴィダ.[AD と略す. 南インドの不可触民のこと. 「ドラヴィダ人以前から住んでいた人」 の意. サンスクリット語. cf. dalit/untouchable/Scheduled Caste] Bride Wanted. AD SBI Cashier, age 33, seeks Government employed girl/Government School Teacher. Reply… (花嫁募集. 当方, アーディ・ドラヴィダ, ステート・バンク・オブ・インディアの出納係, 年齢 33 歳, 公務員あるいは公立学校の教員の女性求む. …まで返事されたし [新聞の花嫁募集広告]) cf. SBI. 〈インド〉

adivasi 先住部族. [アーリヤ人やドラヴィダ人以前からインドに住んでいた先住部族のこと. サンスクリット語. cf. Scheduled Tribe] The adivasis still maintain their own customs. (あの先住部族は自分達の習慣を維持している) 〈インド〉

ADO 地域主任補佐. [=Assistant District Officer] My brother got promoted to be ADO. (兄は昇格して地域主任補佐になりました) 〈シンガポール/マレーシア〉

adobo アドボ. [鶏や豚を酢と醤油で煮た料理. フィリピンの代表的家庭料理. スペイン語] This adobo is not tasty because it lacks vinegar. (このアドボはおいしくない. 酢が足りないよ) 〈フィリピン〉

affair パーティー, 集い. [affair を 「パーティー」 の意味で使うのはややフォーマルな場合であり, 普通は 「情事」 の意味になることが多い] Tonight we are going to have an affair with our friends. (今晩, 友人達と集まる予定です) 〈フィリピン〉

affiliated college (自治権や学位授与権のない) カレッジ. [通常, 学位授与権のある大学 (university*)と提携している. 学部 (学士コース), 学部予科だけのカレッジが多いが, 修士課程のある所もある. cf. college] St. Mary's College is one of the affiliated colleges to Osmania University. (聖メアリーカレッジはオスマニア大学の提携カレッジだ) 〈インド〉

afford 〜の余裕がある. [標準英語では afford の後に目的語が必要である] I am so tired. Let's take a taxi.―Sorry, I cannot afford. (とても疲れた. タクシーに乗りましょう.―ごめんなさい, お金がないの) 〈フィリピン〉

after 〜たって, 〜の後に. [標準英語では in を用いる] I'll come back after half an hour. (30 分したら戻ってきます) 〈インド〉

agak-agak 推測する. [マレー語] You simply agak-agak how much seasoning you put in. (どのくらい調味料を入れるかは適当にやって下さい) 〈シンガポール/マレーシア〉

agarbatti 線香. [お祈りの時に用いる. 強烈なにおい (香り) がする. ヒンディー語] Do you have agarbatti in this supermarket? (このスーパーには線香を置いていますか?) 〈インド〉

age-barred (求人広告などで) 年齢制限あり. [反対語は age no bar (年齢制限なし)] Sales Manager Wanted: MBA with minimum 4 years' experience. Age-barred. (販売部長募集. 最低限 4 年の経験と経営学修士号取得者. 年齢制限あり) MBA=Master of Bussiness Administration. 〈インド〉

aggrupation グループ. The aggrupation of oppositionists comprised the shadow cabinet. (反対派のグループが影の内閣を構成した) Tabor 19 84: 65. 〈フィリピン〉


●見本ページ

見本ページ


●見本・囲み記事

〈インドの英語インドにおける英語の歴史は大変古く, 多くのインド人は英語を得意としている. 1947 年に独立したあとも, 英語は多くの公用語に加えて準公用語として残り, 社会生活のなかで重要な働きをはたしている. 英語教育は小学校から導入されているし, 英語で授業をする小学校もかなりある. しかも, 英語ができないことで不利にならないようにと, できるだけ多くの生徒に英語学習の機会を提供しようとしている.

現在は, 英語に堪能で, IT (情報技術) に長けたインド人は世界で引っ張りだこになっている. 日本の企業もインドの IT 会社と関係を深めている. 合弁会社の設立, 人員の往来が前にもまして, 頻繁になっている. 日本人もこれから, インド英語に出会う機会は多くなるだろう.

インドは多様性の渦巻く社会である. 街には, 人, 牛, 輪タク (cyclerickshaw), オート 3 輪タクシー (autorickshaw), そして大小, 新旧のいろいろな車が行き交う. このモザイク模様はニューデリーやカルカッタのような大都市でも見られる.

街の屋台では, いろいろな香辛料のにおいが食欲を誘い, 香のかおりが気分をやわらげる. 最初は無秩序に感じるが, しばらくすると不思議なことに, 整然としているように思えるようになる. インド英語もこんな感じで, いろいろな要素が入り交じっている.

インド人は文学, とりわけ詩を愛する. 英語の学習でも, 18 世紀や 19 世紀の英文学を教材にする. だから古典的で, 文学的なことばを好む. old は ancient, pretty は comely, happy は blithe, eat は consume, home は place of residence となったりする.

彼らの英語が丁寧とか華麗といわれるのは, このような傾向を指してのことだろう. また, “May I know your good name, please?” という言い方もよく耳にする. 「お名前をおうかがいしたいのですが」 の意味だが, your good name には思わず恐縮してしまう. しかし, こう言われて, 悪い気はしない.

アメリカ人やイギリス人が言わない表現だからといって, これを変な英語とみるのは禁物である. おもしろいことに, このようなイギリス臭のとれた英語は, 海外でけっこう評判がよい. アラブ諸国はインド政府に英語教師の派遣を依頼している. インドは英語教師の輸出国なのである. インド人の英語運用能力の高さは, 非母語話者 (ノンネイティブ・スピーカー) のよき手本となるだろう.


〈インド人の名前インドでは本名で人を呼ぶことを避け, 愛称, 通称, 敬称, 称号, 職業名などを用いる傾向がある (Gandhi を Mahatma と呼ぶ). 社会的地位の高い人に対しては Director sahib (所長様) のように, 「職業名+sahib」 で呼ぶことが多い. 通称や筆名 (雅号) を本名より多用すること, 姓名の名の部分をイニシャル化して表すことも多い (例: V. D. Singh ).

またアルファベット表記されたインド人の名前は, 英語式の綴りになることが多い (例: Kishore ). 原音に近い音で発音できるに越したことはないが, 英語式の発音でもかなり通じる.

ヒンドゥー一般が姓を名乗り始めたのは 19 世紀末頃からである. 姓にはカースト名や特定カースト固有の名 (例: Sharma 香料商人) などを起源とする語が用いられる.

ヒンドゥーの名 (姓名の名) には, 神様の名前 (「... の神」 の意味の語), あるいはヒンドゥー教の象徴となる事象の語がよく用いられる (例: Krishna ハス. 生命力や極楽浄土の象徴, 女子名).

インドのムスリムはアラビア語式の名前をつけることになっているが, インド名 (ヒンドゥー名) が混ざったり (例: Raju Khan のインド訛り. 日本ではよく 「ラーマン」 と表記される). (参考文献: 辛島昇他 (監修) (1992) 『南アジアを知る事典』 平凡社)


〈インド英語の特徴 1インド人はまず, インド国内で, インド人同士で英語を使う. その結果, インド人にとって便利なインド英語が発達する. 彼らはおしなべて独特の発音・抑揚を使う. 学校で先生は, think の th の発音では 「舌先を上歯と下歯の間にはさみ, 摩擦する」 と教える. でも, 生徒が としても, 先生は気にしない. 多くのインド人, しかも教育を受けたインド人がこのように発音するからだ.

インド式の発音で興味深いのは, 「文字どおりの発音」 である. Wednesday を にすることもある. John's や needles の -s は でなく になりがちである.

語彙の面でも, インド英語には, インド風の使い方がある. bungalow は日本人がイメージする山小屋ではなく, 郊外の高級住宅をさす. 広い庭があり, 軒の深いベランダ付きの平屋が普通である. garden house はお金持ちの別荘といったところ. hotel も, 特に南インドでは, レストランや食堂をさす. 同じ語句でも, インド風の使い方があるので, 注意が必要である


〈インド英語の特徴 2インド英語には, インド諸言語起源の語句がいろいろと点在している. アユルヴェーダ (ayurveda) は日本でも知られるようになっているが, インドの伝統医学のことである. ここから, ayurvedic medicine (アユルヴェーダ式薬品) や ayurvedic massage (アユルヴェーダ式マッサージ. ハーブオイルを塗り込むマッサージで, 試す価値あり) という言い方が生まれている.

会話では, アッチャー (achcha) という間投詞をよく耳にする. 「はい」 「あれまあ」 「そうですね」 といった意味で, I'll be waiting for you at six in the lobby. (6 時にロビーで待ってます)―“Achcha.” (わかりました) といった具合に使う. 日本人も英語を話すときに 「うん」 「えーと」 などと言うが, これと似ている.

masala (マサーラ) は混合スパイス, 混合カレー粉のことだが, これが転じて 「混じった」 という意味でいろいろと使われる. masala film (マサーラ映画) は歌と踊り, 涙と笑い, 恋と活劇をちりばめた娯楽映画で, インド映画 (Bollywood) の代名詞となっている. masala music (マサーラ音楽) はいろんなジャンルのミックスしたフュージョンのこと.

インド英語にはまた, インド人がこしらえた語句や表現がいっぱいある. インドではインド人同士が英語を使うために, インド社会の制度や習慣を反映した語彙が必要になる. co-brother は 「妻の姉妹の夫」 の意味で, co-sister は 「夫の兄弟の妻」 のことである. 大家族制度 (joint family) にもとづく親族関係の緊密さと複雑さが表れている.


●主要参考文献

[インド]

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[シンガポール/マレーシア]

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