新しい大地の詩(うた)
西欧近代との対話

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川勝 平太・河上 倫逸・諸井 誠 編

2,000円 四六 256頁 978-4-385-35945-X (品切)

20世紀の文化を支えてきた父性・父権原理が崩壊し、今、「母なるもの」への見直しが急速に進んでいる。3日間にわたる討議をもとに、各分野の第一人者が構想も新たに書き下した21世紀への指針。

1999年9月10日 発行


●目   次


母なる大地
−神話伝承と歴史叙述のあいだ  河上倫逸

II
ヨーロッパ文化のコスモロジー
−パリとナポリ、父性と母性  中村雄二郎
神話とオペラ−母権・父権の視点から  諸井 誠
冷戦終焉と地球環境問題−軍民転換に問われる生命観  米本昌平

III
物質・宇宙・生命を越えて
−心への接近  小田 稔
いのちの交響−新しい物語の時代に  中村桂子
大地とこころ−方法論の逆転  河合隼雄
近世を包摂する近代建築−木を活かすこころみ  石井和紘

IV
大地へ、そして海へ
−海洋史観のパラダイム  川勝平太

あとがき  諸井 誠


●『新しい大地の詩』

(「ぶっくれっと」139号「自著自讃」より)

諸井 誠

 帯に「〈母なるもの〉と〈大地〉をキーワードに、各界の第一人者が三日間のシンポジウムをもとにつづった21世紀の世界像」とあるとおり、本書は五年前、複合劇場「彩の国さいたま芸術劇場」の完成を祝って催されたシンポジウムの成果を、書籍のかたちにまとめたものである。その討論の場の仕掛け人が愚生であり、編者として本書の「あとがき」も書いているところから、著者を代表して本稿を執筆することとなった。

 愚生以外に編者が二人。法学者で京都大学教授の河上倫逸氏は、本書の根っこともいうべき十九世紀スイスの法学者バッハオーフェンによる大著『母権論』の監訳者で、この企画の産みの親である。巻頭のエッセイ「母なる大地  神話伝承と歴史叙述のあいだ」では、キリスト教的ヨーロッパとは異なったヨーロッパ像を提示してくれる。もう一人は比較経済学史が専門の川勝平太氏。河合隼雄氏が所長の国際日本文化研究センター教授として活躍中の超売れっ子学者である。氏はアンカーとして、「大地へ、そして海へ  海洋史観のパラダイム」で、陸を多島海にうかぶ島々と見る視点から多文明共存の論理と倫理を示し、多分野におよぶ本書の内容を鮮やかな現実的切り口で締めくくってくれる。

 シンポジウムの出席者は十二名におよんだが、本書では河合氏をはじめ編者三人をふくむ九名が執筆者として轡を並べている。シンポジウムのたんなる速記録ではなく、討論の場でのそれぞれの発言をふまえた新たなエッセイのアンソロジーとして構想したため、出版までに予想外の年月がたってしまった。

 エッセイのかたちで読んでとくにエキサイトしたのは、宇宙科学の小田稔氏の「物質・宇宙・生命を超えて  心への接近」、生命誌を提唱されている中村桂子氏の「いのちの交響  新しい物語の時代に」、そして臨床心理学の河合氏による「大地とこころ  方法論の逆転」であった。生命と心の問題について、人類は現時点でどこまで到達できているのか? われわれはどこから来て、どこへ行くのか? この根源的な問いにたいするゆたかな示唆が、静かな口調で示される。

 ヨーロッパに代表される、父権論に根ざしたキリスト教文明の発展だけでは収まりきらなくなった世界、さらに地球規模、宇宙規模で加速する社会の情報化。こうした事態に対応した新しい人間論、文化論、文明論、地球論、宇宙論の出合いをもとめた討論には、哲学者の中村雄二郎氏、生命科学論の米本昌平氏、建築家の石井和絋氏にも加わってもらった。それぞれ「ヨーロッパ文化のコスモロジー  パリとナポリ、父性と母性」、「冷戦終焉と地球環境問題  軍民転換に問われる生命観」、「近世を包摂する近代建築  木を活かすこころみ」という、学識と体験に裏づけられた力編を寄せていただくことができた。

 このシンポジウムには、パフォーミング・アーツ創造の現場、芸術劇場の土台づくりの意味がこめられていた。目下準備中のオペラ、野田正彰作・諸井誠作曲の「サビーナ」の完成初演を見ていただかないと説得力に欠けるところがあるかもしれないが、私が執筆した「神話とオペラ  母権・父権の視点から」は、私自身の新たな観点からの出発点となったものである。

(もろい・まこと 彩の国さいたま芸術劇場館長)

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